第5話

本を閉じた。

読み終わると本当に元の場所へ返還されるらしい。

後ろ髪を引かれる思いで続々と帰路に着く会員たち。彼らが口にするのは、先程まで読んでいた恋愛ものの小説。



「いやぁ、遊離はきっと話しかけられた時から彼女で絵を描こうと決めていたんじゃないかな?」


「遊離君文脈からも感じたけど、きっとかっこいいんだろうなぁ。挿絵があればよかったのに」

「園花は命を落としたけど、幸せだったのかもしれない。私にはわからないけど」



どうやらみんな読んでいた本は同じらしい。狂気画家遊離と愛に飢えた園花のバッドエンド。

本のタイトルは『赤い五本線』。短編だった。

けど彼らの感想を聞いていて、違和感を覚えた。最後の遊離と思われていた小説家と痩身の男のやりとりについて、何も思わなかったのだろうか。

私はあの二人の会話が奇妙でならない。

もしかして今読んだ本の内容と今のこの状況はリンクしてて、実はこの本…



「ノンフィクション?」



背後から笑いを含んだ声が聞こえて思わず振り返る。

そこには思った通り、痩身の男がいた。



「おめでとうございます!。あなたが至高の読書を出来た方…次回も参加できますよ」


「また、ですか?」



実は第1回目も参加している。

もしかして、私だけ毎回至高の読書をさせられているのでは…?



「小説家の彼が最後。これは私の中で決定事項です。が、あなたで遊ぶのもなかなかに面白そうだと思いまして」



男の笑顔にゾッとする。

やっぱりさっきまで読んでいたあれは物語なんかじゃない。今歩んでいる人生と繋がっている、現実なんだ。



「私たちの紡ぐこの物語がノンフィクションであることを知った上で、あなたは読書をどう捉える?。恐怖?それとも恐怖を越えて娯楽に感じるのでしょうか?。はたまた何も感じなくなるんでしょうかね、ふふっ。気になります」

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