枕元に来たもの
あげあげぱん
第1話
よく、枕元に立つ霊を見たと聞いたことがある。体が動かなくて霊と目があったとか、そう言う話に聞き覚えはないだろうか。
僕もそういう経験をよくしていた時期がある。
枕元の霊、また金縛りの正体は、脳だけが半端に起きていて、体が眠っている状態なのだとも聞く。体が眠っているから目蓋が開くこともない。だから、枕元に立つ霊は本当に居るわけではなく、単に夢を見ているだけなのだと、そういう理由付けができる。そうなのだろうか?
僕の枕元にも、よく訪ねてきた霊が居た。人ではなく、猫の霊だ。
その猫は僕の実家で飼われていた猫だ。祖父がよく可愛がっていた。僕も可愛がっていたし、あの猫の姿は今でもはっきりと思い出すことができる。
猫は僕が幼い頃に亡くなった。そのころには、結構な歳で老衰だったと思う。僕は父や母、祖父と共に悲しみ、その猫を埋葬した。
その後、僕は成長し、実家から離れた大学に進んだ。父や母は喜んでくれたけど、その年の春が来る前に祖父は静かに息を引き取った。彼も、老衰によって亡くなっていた。
その年の夏、僕は大学が休みの間もずっと実家には帰っていなかった。単純に大学から実家までは遠く、あまりお金に余裕がなかったからだ。
祖父の墓参りには行くべきだろうと思っていた。それでも、なかなか重い腰が上がらなかった。金も無い。実家は決して裕福とは言えなかったので、親に交通費を無心するのも悪い気がした。
そんな頃のことだ。連日のように、僕は同じものを見た。夢だったのかもしれない。連日のように、かつて僕が実家で可愛がっていた、あの猫が枕元へやって来ていた。
猫は僕を見ているだけで、鳴いたり、体を擦り付けてきたり、噛んだり、なんてことは起こらなかった。猫はじっと僕を見つめて、いつの間にか姿を消していた。
朝が来るたびに僕は寂しい気持ちに耐えた。なぜ猫は僕のもとへ来るのだろう。あるいは、どうして今、僕は猫を夢に見るのだろう。なんて考えたりもした。
そうして、盆の夜。僕のもとを訪ねてくるものがあった。いつものようにやって来た猫と、その隣にに立つ人影があった。人影の正体が誰であるかは、はっきりと分からなかったものの、僕には懐かしく思えた。
あの人影の正体は、冬になくなった祖父だったのではないだろうか。人影は猫と一緒に、いつの間にか消えてしまった。そうして、朝が来た。
真夏の朝日の差し込む部屋で、僕は人生で最も寂しい時を過ごした。
あの頃の僕が見たものは何だったのだろう。僕の寂しい気持ちが見せた夢なのか……それとも。
あの猫の霊が、祖父の魂を僕の枕元まで案内してくれたのだろうか。
真実は今も知れない。
枕元に来たもの あげあげぱん @ageage2023
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