その天はキミのもの

幸まる

愛鳥と暮らす日々

私が初めてインコと暮らしたのは、今から三十年程前のことです(歳がバレる…)。

鳥というものに憧れを持っていて、成鳥(大人)のセキセイインコを一羽お迎えしました。


その頃の感覚としては、インコはケージの中で飼うもの。

いわゆる観賞用の動物だと思っていました。

今のように、ケージから出して放鳥(ケージの外で遊ばせる)しなければかわいそう、なんて言われませんでしたし、運動不足やストレスで鳥の健康が損なわれるといった情報も殆どありません。

当然、“コンパニオンバード”なんて言葉もない時代でした。




そんなある日、姉がオカメインコをお迎えしたのです。

賢くて人懐こく、見た目にもプリティなルチノー(黄色)のオカメインコに憧れを持っていたようです。


雛から育てると、飼い主ベッタリになるという情報から、姉がホームセンターで買って帰ったのは雛でした。

小箱(ペットショップやホームセンターで小動物を買うと、箱に入れてくれる)から出された雛を見て、私は愕然としました。



なんじゃこの鶏ガラはっ……!?



皆様は、インコの雛を見たことがありますか?

最近は中雛(孵化後一ヶ月ほど)で、筆毛と呼ばれる完全に広がる前の羽根がツンツク生えた状態の可愛らしい子達が売られていますが、あの頃は、まるで鶏ガラか?と思えるような、地肌丸出しの幼雛(孵化後四週以内)が当たり前に売られていました。

お迎えしても育てられず、死亡する例が多かったと聞いています。



姉が連れ帰ったのも、まさにそれ。

赤みの強い皮膚に、はっきり見える血管。

羽根の先も見えないトゲトゲの羽鞘うしょう(新しい羽根の元)。

異様に大きく見えるグリグリとした目。

その下にポツリと開いた耳の穴。

顔が裏返りそうな程に大きく開かれたくちばしから、ジャージャーという濁音の鳴き声が吐かれて身体を左右に揺らす……。


完全に怪獣やん……。




正直、初見では全く可愛いと思えなかった雛ですが、世話を手伝っていると、毎日必死に餌を食べる姿や、人間を見て構って欲しそうにバタバタする様子を見ている内に愛着が湧いてきました。

その内羽根が生え揃い、鳥らしい姿になってくると、ピヨンと立ち上がった冠羽かんうと、丸く色付いたチークパッチ(ほっぺのように見えるオレンジ色の部分)が超絶可愛い!



そんな可愛さに感動していたある日、突然その子は飛び上がりました。

日中何度も翼をバタバタさせて練習していたのは気付いていたので、そろそろ飛ぶかと思っていましたが、まさかそんな、突然飛ぶなんて!?


飛んだのは少しだけ。

お世辞にも優雅とは言えない飛び方でした。


それでも、六畳の和室に座り込んでいた私は、頭上を飛ぶ鳥に見惚れました。


大きく広げた翼の美しさ。

その翼に透ける光。

羽ばたく小さな身体の力強さ。


そうだ、鳥は飛ぶ。

人には届かない空を、天を、自由に飛んで生きる美しい生き物。




少しずつ飛ぶのが上手になったオカメインコは、姉が部屋にいる時はケージから出され、部屋の中で自由に飛びます。

姉が部屋から出れば、肩に乗って一緒に付いて来て、居間や台所、廊下も飛び回りました。


「家の中を鳥が飛び回るなんて。羽根の欠片や糞が落ちて不衛生だし……」

そんな意見も聞きます。

しかし、犬や猫と暮らしたことのない私からすれば、服もカーペットも毛だらけにする彼等と何が違うの?と思ってしまいます。


その生態は違っても、愛情深く、家族と心を通じ合わせることのできるインコ達は、犬や猫と変わらない、人間のパートナーと成り得る素晴らしい生き物なのです。



私は姉に習い、ケージの中で一日を終えていたセキセイインコにも、少しずつ自室で放鳥時間を設けるようにしました。

最初は上手くいきませんでしたが、そうしてスキンシップを多く取り始めたことで、よりインコが好きになっていったのでした。





現在、私はオカメインコ(オカメさん)と暮らしています。

姉が一緒に過ごしていたオカメインコの姿がずっと頭に残っていて、いつか私もあんな子と一緒に暮らしたいと思っていたのです。


実際にオカメさんをお迎えして暮らしてみれば、インコにも個性があるので、姉のオカメインコのような性格ではありませんでしたが、一心に飼い主に愛情を向けてくれる姿は同じ。

堪らない愛おしさです。


そして毎日、オカメさんは放鳥時間に自由に飛びます。



大空は飛ばせてあげられないけれど、この家の天は、全てキミのもの。



翼を広げたその姿は、いつだって私の胸に清々しい風を送ってくれるのです。




《 おしまい 》

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