最終話 『タイトル』

あれから相変わらずの日々を送っている。


「キュイ、ご飯だよ」


「キュウ!」


膝の上まで登って腕にしがみついてご飯を食べるキュイ。


「そんなに慌てなくてもいいよ」


そう言いながら頭を撫でる。


また大きくなったキュイと一緒に過ごす日々。


「食べ終わったら遊ぼうか」


おもちゃも使って目一杯遊ぶ。


おもちゃを追いかけるキュイ。

素早く箱の中に隠すと明らかに困惑した姿を見せる。


箱をカリカリと引っ掻いて、押して、中からおもちゃを引っ張り出す。


いっぱい遊んで眠る前に少しだけ机に向かう。


(今を精一杯楽しむ、なんてね)


ノートを出して書くことを考える。


もう日記をつけることはやめた。


その代わりに思い出を思いつく限り書き出していく。


短いようで長い一緒にいられる時間。


長いようで短い一生の内で一緒にいられた時間。


少しでも残しておかなきゃ。


漫画は描くのをやめたわけではない。


才能はない、ということは受け入れられたけど。


ただ本当に描いてみたいものが見つかった。

いつから描き始めようか。

どんな絵にしようか。


色々考えていてまだ描き始められていない。


それなの今までにないほど考えるのが楽しい。


キュイ部屋からがさがさと音がしたので覗きにいく。


寝返りだったみたい。


じっとキュイをみる。

手の形、顔の形、目の形。


いつもはゆっくり見れないところをじっくりと。


机に戻ってまたノートに思い出を書き始める。


(タイトルは…そうだ!)


飾らないままがいいだろう。

そのまま直球のタイトル。


『サラマンダーを玄関前で拾ったのでとりあえず飼ってみる』


漫画のタイトルはこれでいこう。



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サラマンダーを玄関前で拾ったのでとりあえず飼ってみる 維七 @e7764

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