第2話 酒場にて

「……ふぅ……」


 オレは呑んだくれていた。


 ……勇者王太子エクセリオ殿下のパーティを、昨日クビになってしまった。

 その事実を飲み込むために、昨日は一日呆然として過ごした。

 そうして、今日は違うことをしようと思った。


 ……しかし、すべきことなど何一つ思いつかない。

 戦と、その準備の他を除いて。


 行く当てのないまま、オレは無人の原野を歩き続けた。

 魔物にも獣にも追いはぎにすら会うことなく、ただただ歩いた。

 そうして、いつの間にか日が傾いていた。

 遠い影の中に浮かぶ明かりで、人里の存在がわかった。


 人恋しさからか、なんとなくその明かりの方へ向かった。

 結果、このソールプの村にたどり着いた。

 酒場を見つけて入り、今は塩漬け豚と茹で芋をアテに、町の地酒を飲んでいる。


「店主どの、豚と芋と酒をおかわりだ」


「へえ、喜んで!

 ……と言いてえところですが、ご老公、大丈夫なんで?

 随分お強いようでごぜえますが、お飲みになった量は、なお随分に見えまさあ」


「構わん。

 ……明日の予定があるでなし、飲み死にの怖い歳でもなし」


「へえ、然様で。

 ……とはいえ、ご老公。

 次の酒は、こちらの水を飲みほしてからになすってくだせえまし。

 酒のみならず、芋と豚の塩気も効いとるでごぜえましょうから。

 ――と、いらっしゃいまし!」


 オレに水の入った大ジョッキを寄こしたあと、店主は新たな客の元に向かった。


 新たに酒場に入って来たのは、商人風の若い男だ。

 顔つきに、どことなく見覚えのあるような、ないような……


「!

 突撃卿! ギスガルド・ファーマソンさまじゃありませんか!」


 若い男の方も、オレの顔を知っていたらしい。

 やはりどこかで会っているのだ。

 声を上げて、オレの側にやって来た。


「おう、こんばんは。

 オレの名を覚えててくれるとはありがてえ。

 ……けど済まねえことに、オレの方じゃお前様の名が出て来ねえんだ。

 この老いぼれが、名を訊ねる無礼を許してくれるか?」


「無礼も何もねえですよ! お会いできて光栄です! 突撃卿!」


「うん?

 オレらは以前にどっかで会ってて、オレが歳と酔いのせいで思い出せねえ……

 そういうワケじゃねえ、のか?」


「もしかしたらオレが子供の頃とかにはお会いしてるかもですが。

 これぐらいの歳になってからはお初です、突撃卿!

 ――アイスミト武具店のヘンゼルと申します。

 以後、お見知りおきくださいますと幸甚にございます!」


 言って、若い男は頭を下げる。

 名を聞いて思い出した。


「そうか! お前、甲冑屋のアイスミトのせがれだったんか!

 道理でどっかで見たような顔だと思ったぜ。

 ……いやぁ、すげえなあ!

 よく言われるだろうが、お前、親父や爺さまの若い頃に良く似てっぜ!」


「面影でお気づきになられるほどとは。

 御覚えのめでたきことに、父たちはさぞ喜ぶことでしょう。

 いい土産話ができました。

 ――と、それはいいとして。

 当店に御発注いただきました、

〝ミスリル製防盾一体型義手〟および 〝刻印ルーン入り魔石義眼〟、

 どちらも完成いたしております」


「ほう! そいつはめでたい話だ!」


 新武装の話を聞いて、オレの酔いはすっ飛ぶ。

 さっそく装備して、試し戦をしなくては。


「店主どの! 酒は中止で、酔い覚ましの水をもう一杯!」

「合点承知で! ご老公!」

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タンク戦士、突撃卿ギスガルド(95歳)の終活 ~勇者パーティを追放されちまったんで、いい感じの死に場所を見つけてえ~ パーティーターキー @partyturkey

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