咽び泣く

 ハンドガンを握りしめるポルコは大きな体を小刻みに震わせながら、できることなら発砲することなく事を済ませたい、カプセルを開こうとしないでくれと強く祈っていた。先ほどまでの打撃による攻撃とは明らかに異なる知的なアプローチでカプセルを開こうとしている様子がわかる。ポルコの手がゆっくりとハッチへと銃口を向けた、同時にハッチが勢いよく開くとポルコは涙を流しながら銃口を外の何者かへと突き付ける。

「レオスだ、ポルコ無事か」

「ひっ」

 ポルコのカプセルを見つけたレオスがハッチを開くのに邪魔となっていた岩を退けてから閉じ込められているだろうポルコを救出すべく、ハッチを開くと同時に言葉を発したが……ポルコは反射的に力が入ってしまい、ハンドガンのトリガーを引き切ってしまった。発砲された銃弾、しかしレオスはその可能性すら考慮しており、ハッチを開いたと同時に体をハッチの正面から横にずれていて、真正面に向かって放たれたポルコの銃弾は空気を切り裂きながら離れた場所で岩肌に直撃するに至っていた。レオスは無傷だ、が発砲してしまった事実に全身をガタガタと震わせながらレオスに飛びつくポルコ。

「隊長サァアアン」

「まったく、仕方のない奴だ。体を避けていてよかった……仲間に殺されるところだったな」

 泣き付く、とはこのことだ。大きな体で飛びついたポルコはしっかりとレオスに抱き留められ、その胸に顔をうずめて大泣きしている。恐怖が最大値に達していたポルコは、その体の震えがすぐに収まることはなかった。レオスは背中を撫でながら冗談を口にしながら微笑み、ポルコの気が済むまでと抱き締め続ける。

 レオスは周囲を詳細に探索しつつ、仲間のカプセルを探していた。道中、フロフとナイトが搭乗していただろうカプセルは発見できたが二人の姿は見当たらず、少し離れた位置に別のカプセルが視認できたためここまでやってきた。するとカプセルのハッチを塞ぐように岩が挟まり、恐らく内部から脱出できていないだろうカプセルだと判断できたのだが……周囲を原生生物が囲み、カプセルを攻撃していることも同時に確認できたレオス。銃殺することも考えたが、非常灯に点火してカプセルの辺りへ放り投げることで、非常灯の発火に驚いた原生生物たちが逃げ去っていったため、救出に至ったという流れだ。

 そこまでの状況を説明しようとしたが、ポルコがあまりに咽び泣くので、レオスは説明をあとにしてまずは宥めようと背中を撫で続けた。しかし、そうもしていられない。非常灯で一度散らした原生生物だが、カプセルは未知の物体のはずだ。再び興味を持って、すぐに戻ってくるリスクもある。そう考えたレオスはポルコをなんとかこの場所から離す必要があると考えていた。

「隊長サン、離れなきゃ、ぐすっ、ここは危険だよね、ひぐっ」

 それはポルコも理解していた。恐怖に支配されているだけでは、この未開の惑星で生き残れない。それくらいのことは理解している。だが、どうしても恐怖に打ち勝てないまま、涙は止まらずレオスに抱き着いたまま離れることもできずにいた。

「ああ、そうだな。安全な場所を確保すると同時に、他の仲間とも合流するぞ」

「了解ッ……」

 ポルコは元々軍人ではない。備品や食料の管理、そして料理人として部隊に配属された立場である。作戦であれば実戦に同行こそするが、多くの場合ポルコは仮設基地で待機するか安全な位置で仲間が帰ってくるのを待つことがほとんどである。一人の状況で正体不明の、敵か味方かもわからない相手に囲まれ、慣れないハンドガンを握りしめているだけでも極端な緊張を生み出すには十分だったといえる。

 レオスから離れ、地面に自立し周囲を見回す。涙で滲む視界の先には、どこか懐かしさすら感じられる「自然」が広がる大地。偶然カプセルが墜落した場所が岩場だっただけで、十数メートル先には草木が生えている。運が悪かった、と言わざるを得ない場所に墜落していたことを理解したポルコは岩に覆われた絶望的な惑星ではなかったことに安堵していた。

 最初にハッチを少し開いて外を見た時には気付かなかったが、少し先には森らしいものもあり、見たことのない植物ではあるが群生する草木の存在に食料の心配も軽減されていく。食べられるものがどれほどあるか、どのように安全性を確認するか、という課題が残っているがポルコにはそれなりの知識と経験があり、選別することができるかもしれないという僅かな自信もあった。

 レオスに連れられるように歩き出したポルコはハンドガンを仕舞って、もう二度とトリガーを引くことがないようにと祈りつつ森の方へ向かい始めた。障害物が何もない平原では遠くから視認されるリスクも高い。まずは体を隠しやすい森の中へ入り、体勢を立て直すことが先決だと判断した結果だった。


 レオスはカプセルから出てからゴリラのような原生生物と交流、そして強襲してきた猫のような原生生物を追い払った。それから本人たちの姿はなかったがナイトとフロフのカプセルだけを発見できた。後にポルコのカプセルも発見し、群がっていた原生生物を追い払ってポルコとの合流に成功したのだった。その頃、人間型の原生生物と接触していたフロフと合流したナイトが無慈悲にも銃で何度も原生生物を撃ち射殺。それぞれが合流できている中、大地の裂け目から谷底に落ちていたブロックは洞窟の中で意識を失っている状況だ。

 他の隊員との通信が不可能の状況下では合流を急ぐことが理想的だったが、あまり派手に行動しすぎることは未開惑星の探索においてリスクである点も考慮し、合流は静かに急がれる。

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アルデラーンの冒険者たち 猫熊アザラシ @Neko_Kuma_A

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