私が女装をするきっかけを作った魅力的な雑誌

@toshiko1955

女装誌が今の男の娘たちに与えた影響

アダルトショップなどでしか見かけない、普通の書店では扱っていない特殊な雑誌がかつてはいくつもありました。そしてネット社会になった今、Xやインスタグラム、ファンティアなどのネットメディアが現れ、そのほとんどが役目を終えて廃刊になってしまいました。


そんな雑誌の全てをエロ本と呼んでいいのか分かりません。でも、ファンにとってはとても貴重な情報源で、その中に男性が女性の下着や服を身に着け、きれいにお化粧をして撮った写真をたくさん掲載している雑誌がありました。女性の裸がたくさん載っているエロ本と同じコーナーに置かれていますが、私には決して同じではなく、私と同じ男性なのに胸が大きく、お尻の綺麗な美しい女性(男性?)の写真がとても魅力的に見えました。


ニューハーフと呼ばれるプロの人たちが自分のお店の宣伝のためにモデルになることもありますが、中には素人が投稿した女装写真を掲載する趣味の雑誌もありました。今ではもう廃刊になってしまった『Queen(くい~ん)』や『ひまわり』といった雑誌は、私にとってとても魅力的で、食い入るように読んだ覚えがあります。当時は勇気がなく一人では「エリザベス会館」のような女装クラブに行けなかったので、雑誌を夢中で読んでいるだけでした。


女性の下着を買うのも苦労した時代


当時は通販が一般的でなかったことから、女性の下着を手に入れたくても簡単に買えません。専門店に一人で入る勇気はなく、スーパーで買えばレジで分かってしまうため、とても恥ずかしい思いをします。


それでも欲しくてほかの商品にまぎれこませてカートに入れ、一緒に買ったことはありますが、ショーツ一枚買うだけでも胸のドキドキが止まりませんでした。今ならばスマホで気に入った商品を選び、ポチッと押すだけで段ボールに入れて送って貰えるのですから凄く便利になりました。


そんな女装子の気持ちを満足させてくれる女装用品を購入できる専門店が東京に幾つかありました。それが女装クラブの老舗ともいえる「エリザベス会館」です。神田で始まり、亀戸、そして浅草橋。私が何度も通った日暮里や新宿(新大久保)にもお店があり、女装に必要な下着ばかりでなく、服やウィッグ、パンプス、そのほか必要な品が、男性が身につけてもぴったりのサイズが用意されていました。値段が少し高いのがタマにキズでしたが、店内に女装出来るルームや月極めで保管しておけるロッカーも用意されていました。


私が知っているエリザベス会館は亀戸にあって、ショップだけではなく、女装をした人たちが寛げる広い場所があり、メイクをしてくれる専門の人や撮影してもらえる設備も備えていました。ファンも多く、ここで育った女装者たくさんいましたが、残念ですがエリザベス会館は2020年2月に最後に残った浅草橋が閉店、運営母体になっていた会社も解散してしまいました。


女装雑誌の草分けが『Queen』


そこで私が目にしたのが女装誌『Queen』でした。表紙も女装さんで、中にはグラビアページもありました。当時表紙を飾った人の中にはのちにニューハーフとして有名になった方もたくさんいます。そして、記事の3分の1くらいが素人の投稿する画像や近況などで、それを読んでいるだけでも時間を忘れて読んでいたのを思い出します。エリザベス、くい~んというと英国の女王を連想しますが、英語のQueenはゲイの女役の意味があります。


発行元はエリザベス会館を運営していた会社「アント商事」で、1980年代当時の価格が2500円とかなり高いものでしたが、それでも根強いファンがいました。編集していたのは石川みどりさんという女性で、2003年に廃刊になるまでのほぼ30年間一人で編集・制作していました。そして、年に一度、日本初の「全日本女装写真コンテスト」を開催していました。


また、「くい~ん」から数年遅れて創刊されたのが『ひまわり』です。競合誌というよりはもっとアマチュア女装者の目線に合わせたハードルの低い雑誌と言う感じでした。素人臭さもありましたが、それがひまわりの魅力でもありました。そして、編集長であった女装者として著名なキャンディ・ミルキィさんの力もあって次第に内容も充実していきました。


ひまわりでは、女装コンテストとは違う仮想女子校「向日葵学園女子高等学校」という企画で、女子高生姿(セーラー服)の投稿が多かったのも特徴でした。特に年に数回制服姿の女装者が集まる「制服の集い」というイベントが開かれて話題になりました。しかし、インターネットの普及や販路であったアダルトショップの衰退で、2005年に廃刊になりました。


それ以外も女装初心者の目線に合わせた入門マガジンとして1994年に創刊された『女装読本』があります。創刊号が私の手元にもありますが内容は悪くないのですが、他の雑誌に比べて装丁や表紙に魅力がなかったこともあり、人気にならなったのが残念でした。これと並行して私が愛読していた雑誌に『innerTV』『魅惑のランジェリー』があります。魅力的な下着の情報やお化粧、女装レズの情報まで詰め込んでいましたが、いつの間には姿を消してしまった。そのほかにも「ぼくってKIREI」、「CROSS DRESSING (クロスドレッシング)」という雑誌もありました。どれ試しに買ってみた程度ですが、今でも捨てずに持っていて、たまに開いてみると当時のことを思い出します。


代表的な雑誌『ニューハーフ倶楽部』


女装者やニューハーフの雑誌として代表的なものは、業界でも老舗・三和出版が発行していた『ニューハーフ倶楽部』です。ニューハーフヘルスなどで人気のある方を取材してグラビアページに登場させる編集で、お店とタイアップした企画雑誌だったように思いました。しかし、美しさは素人では決してマネが出来ないレベルで、ホルモンやタマヌキ、豊胸している人、中には完全に性転換して戸籍も女性に変えている人もいたようです。


そのほかにも『シーメール白書』『シーメールラブ』など同系の雑誌がありましたが、簡単に画像がパソコンで画像が見られる時代になり、無修正の画像がすぐに検索できるようになるとみな衰退していきました。中には付録でDVDを着けたものまで登場しましたが、時代の波には勝てず、廃刊していったものがたくさんありました。


女装の教科書『オンナノコになりたい!』


そのような状況の中で、女装をしたい人が多く手にし、女装系の単行本としては異例の4万部以上を売り上げた教科書ともいえる『オンナノコになりたい!』があります。雑誌はたくさんありましたが、女装のコミック解説書としては画期的でした。しかも、写真を使わずにかわいい男の子が女装をするイラストで説明したアイデアがヒットした理由だったのではないでしょうか?


この本はシリーズ化され、『オンナノコになりたい!: 2 コスプレ編』『オンナノコになりたい!: 3 もっともっと、オンナノコ編』が出版されました。自分の体形やサイズに合う服や下着の選び方、買い方、初めての化粧の仕方や応用、女性っぽく見せる歩き方、写真を撮るときにポーズの仕方まで「女装」初心者が持つ疑問にコミックページを使って丁寧に応えているところが人気になった原因でした。


最後に


今の「男の娘」と「昔の女装者」の違うところは、女装者=ゲイではないということです。女性の姿になって男性に愛されたいと思って女装をしたかつてのゲイとは違い、今の「男の娘」はコスプレの延長で女装そのものを楽しんでいます。そして、恋愛の対象も女性という人が多く、体を女性に変えたいという人は少ないようです。そして、ネットにアップされている画像を見るととても男性とは思えないようなかわいい娘ばかりです。


雑誌も「男の娘」をメインにした可愛い男の子の画像やコミック中心になりました。隠れて楽しんでいた従来の女装という観念が、「エリザベス会館」とともに一つの時代が終わりを告げたのではないでしょうか? さみしい気もしますが、それが今の時代の女装の形なのかもしれません。今、Xなどで人気の女装者は美しいばかりでなく、とても明るく自分の身体を表現しています。


しかも、今の男の娘を変態と思っている人は一人もいないということです。それだけ世の中が女装を理解するようになったのではないでしょうか? アイドルのような彼女たちはファンも多く、皆フォロワーが数万人もいます。ただ、私の様に熟年になっても女装を止められず、かつての女装雑誌を懐かしんでいる者もいることを忘れないで欲しいと思っています。

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