ばかんだらあ

藤泉都理

ばかんだらあ




 せっせせせっせと。

 多種少数で農作物を育てて販売する園芸に勤しむ傍ら、ガーデニングにも精を出す母ちゃんから、頼みごとをされた。


 曰く。

 近所の石橋は近所の人が無断で作っては架けたので、撤去しなければならなくなった。

 近所の人は石橋を砕いて土に還そうと思っている。

 石橋を粉々に砕いて土に還すだなんてもったいない、私が引き取りますよと言ったので、引き取ってきてほしい。


 力自慢の父ちゃんは、厚い胸板を叩いて、任せろと言った。




「本当に。持ち帰るのかい?」

「ええ。滅多にない母ちゃんの頼みですから」

「本当に。おまえさんが一人で持ち帰るのかい?」

「ええ。力にはとっても自信がありますから」

「そうかい。そこまで言うなら、止めはしないけどねえ。ほわえ。あんた。すごいねえ。一人で持ち上げちまって。腰を抜かすとこだったよお」

「へっへへん」


 どうやら近所の人のご先祖様が、大きな巨大な岩を削っては、この立派で巨大な石橋を造って川に架けたらしい。


 今は国の人が造った橋があるからなくてもいいんだけどねえ。

 やっぱりずっとこの石橋を渡って来たから、新しい橋ができても、この石橋を渡って来たんだけど、撤去しないと危ないって言われちゃあねえ、そうするよりほかはないんだけどねえ。うちの庭は小さくて置けないし。

 だから、あんたんとこの母ちゃんがこの石橋をもらってくれるって言って、すんごく嬉しかったよ。ありがとうねえ。


「気を付けて帰るんだよ」

「はい。ありがとうございました」


 よっこらせっほら。

 近所の人に見送られながら、父ちゃんは石橋を頭に乗せて両腕で押さえて、わが家へと歩み始めた。

 我が家に出迎える新しい家族である。

 なるべく衝撃を与えないように、ゆっくりゆっくり、父ちゃんは歩き続けた。






「あらあら。まあまあ。あんたの脳みそを食っちまったのかねえ」

「ん~。母ちゃん。なんか問題出してみてくれ」

「いちたすいちは?」

「に」

「うん。脳みそは食われてないみたいだねえ」

「よかったよかった」


 我が家に持ち帰った石橋に大きな、大きな変化が生じていた。

 愛らしい花が石橋を覆い尽くす勢いで生えていたのである。


「まあ、あんたの脳みそからこんな愛らしい花が咲くわけがないか」

「いやいや、かあちゃん。俺の頭の中にはいっつも愛らしい花畑が存在してるからよ。俺の脳みそを食って、愛らしい花が咲いてもおかしくねえよ」

「はあ。まあ、それはどうでもいいとしてだ。どうしたもんか。母屋と蔵を繋ぐ道にちょうどいいと思ってもらったんだが、こんな愛らしい花を踏み潰すわけにもいかねえし。しょうがねえ。観賞用として置いておくか」

「母ちゃん、母ちゃん」

「何だ、父ちゃん」

「ほれ。花冠作ったぞ」

「うん。とっても似合うぞ、父ちゃん」

「ほれ。母ちゃんにやる」

「………に、似合うか?」

「うん。俺の次に似合う」

「ばかんだらあ」











(2024.6.14)



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ばかんだらあ 藤泉都理 @fujitori

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