醜い王妃シャルロッテと彼女の愛した国王陛下 ~アタイがあんたを守ると決めた 十四歳の王妃様の死に戻りループ人生~
醜い王妃シャルロッテと彼女の愛した国王陛下 ~アタイがあんたを守ると決めた 十四歳の王妃様の死に戻りループ人生~
醜い王妃シャルロッテと彼女の愛した国王陛下 ~アタイがあんたを守ると決めた 十四歳の王妃様の死に戻りループ人生~
杏樹まじゅ
醜い王妃シャルロッテと彼女の愛した国王陛下 ~アタイがあんたを守ると決めた 十四歳の王妃様の死に戻りループ人生~
「王妃、シャルロッテ・エアレーズング! 民を抑圧し、搾取し、国に飢えと貧困をもたらした罪で、国王と同じく斬首刑を言い渡す! 元王妃をここに!」
「殺せ! 殺せ!」
「王族はみな殺せ!」
革命軍に任命された新たな裁判官、
「何か言い残すことは?」
言い残すこと?
決まってンだろ。
ひとつしかねえよ。
「くたばれ、〇〇〇〇野郎」
ぺっ。
あわれ、顔を近づけた元右大臣の眉間に、アタイの唾が張り付いた。
けっ、ざまあみやがれ。
「な、なんと無礼な、なんと野蛮な!」
「王国守るため戦ってきた兵士達を無惨にも
「な、な、な……」
「何が三月革命だ、何が民主化だ。そうやってテメエのカネになる為なら戦争だってやる、ドブネズミ以下のゲス野郎だってンだよ、テメエら革命軍は」
「ええい、だまれ、だまれ醜い王妃め! もう二度と汚い口を叩けぬよう、この女の首を、早く落としてしまえ!」
ぐい。
アタイは断頭台に頭を押し付けられた。
あっはははははは!
醜い、アバタだらけのアタイは笑った。
たぶん、人生でいちばん、誇らしげに。
胸を張って。
笑ってやったよ。
「みんな、見てろよ、あんたらが正義だって信じてたものが、どンだけ残酷か! どンだけ馬鹿げてたか! 見てなよ、今からアタイが──」
どんっ。
ギロチンは落ちてアタイの首が宙を舞う。
あーあ。
くっそだせえ人生だったなあ。
父さん。
あんたが言ってたほど、王宮、別に悪くなかったよ。
みんな良い奴すぎてさ。
みんな最期までにこにこしてさ。
王妃様はなにも心配要りませんよとか言ってさ。
なんかつまんねえの。
母さん。
あんたが王族に一生懸命身体を売って嫁がせたアタイの王様、さっき死んじまったよ。
アタイのこと綺麗だって言ってくれた、世界でたった一人のあの人だよ。
いつもにこにこお人好しでさ。
右大臣なんかに騙される、あの馬鹿野郎だよ。
断頭台でも笑ってたよ。
父さん。
アタイ、死んじまったよ。
母さん。
アタイ、死んじまった──
……
「聞こえますか」
……
「聞こえますか」
あ?
誰だあんた。
てか、ここどこだ?
「聞こえますか」
わー!
あ、なんかあそこでアタイの首が掲げられてる。
けっ、ばかじゃねえの、あンなやつらのことみんな信じちゃってよ。
「聞こえますか、シャルロッテ・エアレーズング陛下」
「聞こえてンよ、うっせえなっ」
平手打ちしてやろうと手を振りあげて、気がつく。
あれ?
あれ……?
「アタイ……首……くっついてる?」
「そうですね」
「え、死んでないの? アタイ?」
「いいえ。陛下は二分と四十八秒前に、頚椎断裂で崩御なさいました」
「え、えええええ?」
「ご安心を。もう一度やり直す機会を提供させていただきたく、馳せ参じました」
アタイは、跪くその声の主を、改めて見直した。
「申し遅れました。私、ミソラと申します」
ミソラぁ?
ヘンな名前だなあ。
なんか、赤毛でくせっ毛のアタイとは違った、見慣れない真っ黒い髪の毛に……なんだ、赤いフチの……薄いガラス細工で出来た……なんつったかな、メガネ? それをつけてる。
「本来は別の役目を仰せつかっておりますが、この度担当の者が不在のため、代理を。お許しください。……どうかお見知り置きを」
「……で、やり直すって、ナニ?」
アタイは不信感満載で聞く。
「陛下とこの国が間違えないよう、もう一度やり直せます」
「けっ」
ばっかじゃねえの?
「もうとっくに間違えてるんだよ」
「エアレーズング王を斬首刑に処したからですか」
「……そのずっと前からだよ」
「はい、『そのずっと前』から、やり直すことが可能となっております」
そのミソラ……とかいう奴は、手にした紙をぱらぱらとめくっている。
「具体的には……三年九ヶ月と十八日、五時間十五分前からです」
「三年……九ヶ月だって……?」
「はい。陛下が王妃として十四歳で王宮にお輿入れをなさいました、その日からでございます」
「……ほんとに、ほんとにその日から、やり直せるの?」
「はい。間違いございません」
コイツが言ってることは、正直信用できない。
……けど、あの馬鹿が……
あのひとが、死なずにすむってンなら。
「……わかった、やってやンよ」
ありがとうございます。
そういうと、赤メガネのソイツは、ぺこりと頭をさげた。
これまた、馬鹿みたいににこにこした笑顔で。
なんか、拍子抜けだなあ。
そんなこと、考えてたら、眠くなってきた……
……
「──ッテ。シャルロッテ」
あん?
なんだよ、うっせえな。
「シャルロッテ。大丈夫かい」
──あ。
柔らかい金髪。
紫がかった、青く澄んだ瞳。
もう二度と会えなくなったはずの。
大好きな大好きな、アタイの愛しいエヴァの顔が、目の前にあった。
「だ、大丈夫……だよ……じゃなかった、です」
「良かった」
エーヴァルトは背中に回した腕で、アタイを起こした。
「コルセットがキツかったかな。だから女性のコルセットは禁じようと、大臣にも言っておいたのに」
「あの……」
「ん? どうしたんだい?」
「今日、何月何日だっけ……でしたかしら?」
「はは、そんなに緊張してる? 参ったな」
アタイの愛しいエヴァは、左目の下あたりをぽりぽりとかいた。
アタイがすごく好きな、彼のクセ。
「九月一日。君と僕にとってとても大事な日になるはずだ」
ああ、神様……じゃなかった、ミソラ様。
ほんとに……
ほんとに……
「エヴァ……ああ、アタイ……わたくしのエヴァ」
「おおっと、はは。わかってる。僕も愛してる」
ぎゅーっ。
「会いたかった。会いたかったです……」
ああ、あったけえ……あったけえなあ……
「どうしたんだい、今日は? いつもの威勢は?」
「……こうさせてくださいまし」
アタイ、好きだったんだ、あんたのことが。
世界で、あんたただひとりだけなんだよ。
こんなアバタだらけの酷い顔したアタイを、綺麗って言ってくれたのは。
……
挙式は、あっという間に終わった。
いや、実際長かったンだけどさ。
頭ン中の思い出と、全く同じ二回目の経験って、不思議とあっという間に感じるものなんだよな。
「愛してる、シャルロッテ」
「アタ……わたくしも、エーヴァルト……」
当時は真っ赤で何をしたか全然頭に入ってなかった言葉も、今のアタイにゃ、染みるもンだねえ。
「ん……」
誓いのキスが、甘くアタイの頭ン中を惚気させてくれる。
短い口付けだったけれど、アタイの時間が止まる。
さっき首を落とされた夫は。
誰よりも優しい愛を、唇越しに注ぎ込んでくれた。
わあっ。
拍手が大聖堂の女神が描かれた天井まで届く。
同じ歓声でも、こうも違うものなんだな。
ヒトを殺した時と。
ヒトを祝福した時は。
……
「おい、ブサイク女」
「ブサイク女ー」
「お前の母ちゃん、城で身体売ってんだって?」
ちげえよ、メイドやってんだよ。
「ぎゃはははは、メイドだって! 夜のお世話もお任せ下さい、国王陛下ーっ!」
「ぎゃはははは!」
「ぎゃはははは!」
だまれよ、母さんのこと、悪く言うなっ!
「君、どうしたんだい? こんなところで……」
「あ、いや……」
母さんのこと、迎えに来ただけだよ。
「綺麗な目だね……そうだ、今から舞踏会においで、ね?」
「ええっ?」
はあ?
何抜かしてンだこいつ?
頭沸いてンのか?
「陛下、探しましたぞ」
「やあ、バルトロメウスくん。メイド長を呼んでおくれ。この子に今晩の舞踏会のドレスをしたてさせてくれたまえ」
「は、はあっ?……こ、困ンだよっ、離せよっ」
「あ、きみ! 待って」
待って。
「まって、行かないで!」
「大丈夫、話し合いをしてくるだけさ」
「あんたが居なくなったら、わたくし、アタイ……」
「ふふ、いつも君はそうやって泣くね。私だけが、その優しさ美しさを知っている」
「なら──!」
なら、行かないでよ。
おいてかないでよ。
「判決、斬首刑! 元国王を断頭台へ!」
おいてかないで。
おいてかないで。
……
「おいてかないでぇぇええ!」
わあっ。
すごい絶叫で飛び起きた。
自分でもびっくりするくらい。
……おのれ、バルトロメウス。夢の中にも出てきやがって。
せっかくやり直したんだ。
もうギロチンは御免こうむり。
「……どうした? 大丈夫かい、私のシャルロッテ」
二人とも素っ裸ででかいベッドで寝ていた。
これから三年間、夫婦一緒に寝ることになる、アタイ達だけのベッド。
「泣いているのかい」
「……いいえ。なんでも……ありません」
いや、アタイだけなら、いい。
でもこの馬鹿だけは。
……このひとだけは。
絶対に守らないと。
「おいで、怖い夢でも見たんだろう」
「陛下……アタイの……わたくしのお話……聞いてくださいませんか」
……
「バルトロメウスが? ……はっはっは」
「なンだよ、嘘じゃねえって」
「いや、いや、それはないよ」
こ、こいつ……信じてくれやしねえ。
馬鹿野郎、こちとらギロチンで首もぎ取られてンだぞ。
「ほんとだって。アイツ、優しそうに見えるけど、裏ではどんなことしてるかわからねえんだよ」
「シャルロッテ」
「なンで信じてくれねえの? だからあいつがクーデターを……」
「シャルロッテ」
「なンだよ!」
「しー。私は、君のお話を聞くのは好きだよ。声も好きだ。その喋り方だって、好きだ。……でもね」
「……でも?」
「まだ何もしていないひとを、疑ったり、貶めるのは、どうかな?」
バッカやろー、そんな、そんな甘ぇこと言ってっからハメられるんだよ!
「……陛下はアタイのこと、信じてくれねえんだな」
「そんなことはない。……わかった。バルトロメウスの傍に密偵をひとりつかせよう。大丈夫、プロ中のプロだ、本人にも気づかれないさ」
「……ありあとね……」
「さ、おいで、私の愛しい君。その愛らしい顔をよく見せておくれ」
拗ねて口をとんがらせたあたしの口を、やさしく、やさしく塞いだ。
……
「バルトロメウス、これは一体どういうことだ」
アタイの陛下が怒ってる。
アタイが見たことの無い、顔で。
「陛下、これは……その……」
「私にひと言もことわらず、西の砦になぜこれだけの兵をあつめた?」
「へ、陛下のお耳にわざわざ入れるようなことではありません。これはただの練度向上のための訓練でございまして」
バルトロメウスはもう既に落ち着きを取り戻しつつある。
このまま優しいこいつを懐柔しようってンだろうけど、そうはいかねえよ?
「そうかい、じゃこれはなんだってンだよ!」
アタイが大臣を集めたテーブルに叩きつけたのは、一枚の紙。兵団長に宛てた、王都包囲網と王宮への攻撃指令書。
ご丁寧に、このオッサンの名前と印が押してある。
「テメエがこの国にクーデターを仕掛けようってしてた、決定的な証拠だろうがっ!」
「くっ」
バルトロメウスの額にみるみる脂汗が浮かぶ。
「この醜い醜いアバズレが! きさまがいなければ俺がこの国のリーダーになれたのにっ!」
そう叫びながら、剣を抜いてアタイに斬りかかってきた。
でも。
きんっ。
四メートル後ろに、バルトロメウスの剣は吹き飛んで、床に刺さった。
「私に対するクーデターなら、百歩譲って目をつぶろう。しかし、私の美しい妻を貶める発言、断じて許さん」
目、つぶるんかい。
けど、こいつの目は本気だった。
「バルトロメウス、国王エーヴァルト・エアレーズングの名において、その任を解いた上、然るべき法の裁きを与える」
「う……ううう……」
剣を鋭く突きつけるアタイの世界でいちばん好きな夫。
どさり、と力無く膝から崩れ落ちる哀れな小物。
こうして、アタイはループ人生にケリをつけたってわけ。
めでたし、めでたし。
「さ、この事はもう済んだ。行こうか」
「え?」
「はは。君は本当にマイペースだね。今日は君の十五歳の誕生日じゃないか」
あ、そうだった。
アタイ、
「行こう、私のシャルロッテ」
さっきまで、命の危険があったとは思えない、優しい笑顔。
ああ、こいつ、やっぱ好きだわ、アタイ。
「……ん」
手を握り返してくれるその温かさは、本物だった。
……
「王妃さま、ばんざい」
「王妃さま、ばんざい」
屋根のない馬車に乗ったアタイたちを、王都のみんながお祝いしてる。
王国もクーデターの危機から脱したし、アタイ、満足だよ。
「なあ」
「なんだい、シャルロッテ」
「これからも、ずっとアタイのそばに居てくれるかい」
「はは。何言ってる。当たり前じゃないか」
手を振りながら、アタイのエヴァは笑う。
「ずっと。ずっと一緒さ。このパレードも、毎年開こう。国のみんなに祝ってもらおう」
「……ん……」
アバタだらけでブサイクなアタイを、みんなが褒めたたえて、お祝いしてくれている。
隣には、世界でいちばん好きなひと。
「王妃さま、ばんざい」
「王妃さま、ばんざい」
ああ、しあわせ。
ああ、しあわせ。
ああ、なんて──
だーん。
……
「お疲れ様でございました」
「なにが」
「陛下はこの国をクーデターから救い、亡きエーヴァルト王の意思を継ぎ、これから女王としてこの国を統治なさいます」
「女王」
「ええ。陛下の存在が、この国のみならず周辺国にも多大に良い影響を。戦も無くなり、数多の命を救うのです」
「だれが」
「陛下であらせられます。シャルロッテ・エアレーズング女王陛下。これで、私の代役としての務めもおわり」
パレードは大混乱。
逃げ惑うひと。
恐怖を顔に浮かべたひと。
あいつが犯人だと叫ぶひと。
ピストルを持った、男。
あいつは知っている。
バルトロメウスの側近だった。
全てが切り取られた絵画のように静止して、止まっている。
アタイのエーヴァルト国王陛下は。
額から血と脳漿を吹いて、膝立ちに崩れ落ちている最中。
アタイの手を握ったまま。
「……せ」
「はい?」
──やり直せっつってンだよ!
このクソメガネがぁぁ!
びしっ。
アタイの平手打ちが、ミソラの頬を打った。
かしゃん。
赤メガネが飛んだ。
エヴァの、血みたいに。
……
「え、パレードは中止にする?」
突然のアタイの申し出に、エヴァは目を丸くする。
そりゃそうだよな。
ごめんな。
でもアタイ、あんたに死んで欲しくないんだよ。
「あ、ああ。ちょっと、そんな気分じゃなくなっちまってよ」
「シャルロッテ、この準備にどれ程の民の税が……」
「だよな、わかってンだ、アタイも。でもお願いだよ、頼むから……」
アタイは手を取って目を合わせる。
「……お願い……」
「……わかった。きっと、なにか理由があるんだろう。君を信じるよ」
そう言うと、にっこりと笑った。
……
その晩、貴族を招いたパーティの席で。
アタイのエーヴァルト国王陛下は、血を吹いて倒れた。
「アンタみたいなブサイクに盗られるくらいなら、盗られるくらいなら!」
招かれていた大公の娘が取り押さえられながら泣きわめいている。
アタイに一目惚れしたあいつがフった、婚約者だった。
頬に付いた血が、口元に流れ込んできた。
ぶどう酒より、あたたかだった。
……
晩餐会は中止にした。
アタイの誕生日も、民には伏せるように言った。
アタイのエーヴァルト国王陛下は、にっこり笑っていいよ、と言った。
バルトロメウスは失脚させた。
大公の娘には、新しい男を見繕った。
誕生日は、
アタイは、細心の注意を払った。
なんとか誕生日を乗り越えた。
ほっとした。
肩の力が抜けた。
それから、二年の間、何も無かった。
隣の国と戦争を始めた以外は。
アタイは気付かなかった。
エヴァを守ることばかりに気を遣っていたから。
アタイのエーヴァルト国王陛下から笑顔が、いつの間にか消えていたことを。
……
いつの間にか、エーヴァルト国王陛下は、隣国の宗教を否定し、戦争をしかけ、人々を王国の収容所に送った。
いつの間にか、エーヴァルト国王陛下は、世界の全部を敵に回していた。
いつの間にか、エーヴァルト国王陛下は、国の旗を変えていた。
……
そして、戦争はあっという間に負けた。
王宮は包囲され、降伏も時間の問題だ。
アタイの愛するエーヴァルト国王陛下は、王宮下の防空壕にアタイを呼んだ。
そしてソファで一緒に、隣に座った。
アタイは、ここに来てもまだ、気づいていなかった。
もう、エーヴァルト国王陛下なんて。
アタイのエーヴァルト国王陛下なんて。
この世のどこにも居なくなってしまっていたことに。
……
「ええ。陛下の存在が、この国のみならず周辺国にも多大に良い影響を。戦も無くなり、数多の命を救うのです」
……
「君、どうしたんだい? こんなところで……」
「あ、いや……母さんのこと、迎えに来ただけだよ」
「綺麗な目だね……そうだ、今から舞踏会においで、ね?」
「いいえ。陛下。それには及びません」
「はは。気にしなくて──」
「さよなら」
あっ、待って。
アタイが、愛しのエーヴァルトの声を聞いたのは、それが最後だった。
……
王国は栄えた。
エーヴァルト国王陛下と大公の娘だった王妃様は、おしどり夫婦として国内外に知れ渡った。
優しい王妃様の献身により、エーヴァルト王は優しい王だと皆が胸を張る。
アタイも、鼻が高い。
そのアタイはさっき、死んだ。
離婚された母さんが過労で死んで、その二十日後だった。
ここ数日。
ろくに物を食べていなかった。
物乞いをしに大通りを歩いていたところ、国王陛下の馬車に轢かれたのだ。
「どうした?」
アタイのエヴァが馬車から顔を出す。
「いいえ、何かにぶつかったようですが……なんでもなかったようです」
馬を引く男はそう言うと、馬車の端で倒れたアタイに気づきもせずに、馬車を走らせた。
アタイは満足だった。
最後にエヴァの顔が見れたから。
アタイは満足だった。
とても幸せそうに見えたから。
とても。
……
アタイ、十四歳。
六ヶ月と八日のことだった。
【完】
醜い王妃シャルロッテと彼女の愛した国王陛下 ~アタイがあんたを守ると決めた 十四歳の王妃様の死に戻りループ人生~ 杏樹まじゅ @majumajumajurin
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