第5話

「それにしても……なるほど、合点がいった。」


 レイたちが消えていった森を背にしながら現状を把握する。


「何でこんな小隊なんかに加護なんてついてやがんだ、おかしいだろ!」


 ヤジャのいう通りそもそも加護は勇者やそれに付随する近しい存在にしか持っていないもの。勇者本人ですら新人なら加護無しは多いくらいだ。それなのに何故。


「はっはっは! 我々は光の勇者様の元に集った兵士よ。光の勇者様と共に戦うだけでこのような素晴らしい加護が付与されるのさ! 我々のような兵士でもこれだけ戦えるのだ、忌々しい魔王軍もこの力の前にはひれ伏すしかないのだ。」


 ––ッ!


 考えたくはないが瘴気が溢れ、光の勇者とやらの加護が残っているということは魔王様は敗れたのであろう。そもそも魔王様は光の勇者の力を知っていたのであろう。いくら人間共に加護が付与されているとはいえ、こんなに早く城まで雪崩れ込まれるのはあり得ないのだ。わざと光の勇者を招き入れ魔王様直々に倒す予定だったのだろうが。しかし魔王様が策を講じず負けるなどあり得るのか……?


 ––ドーンッ!


 けたたましい爆発音と共に衝撃波がまたしても魔王城の方から迫ってくる。

 衝撃波が私たちを駆け抜けると同時に先程よりも弱いが2つの悪寒を感じる。魔王城の方を確認すると煙が上がっている。


 ––逝ったか。


 同じ魔将として魔王軍の危機に駆けつけることも出来ない自身の無力さに苛まれる。

 せめて魔王様からの最後の命令を遂行すべく、命を懸けてもここは通さない。そんな気概で私は刀を構え敵兵を見据える。

 そこには先程までの光景が嘘かのように急に苦しみだし、膝をついて崩れ落ちている兵達がいた。

 体からも光を発しておらず、膝をついていないものも剣を杖代わりにして何とか立っているという状況だ。これはまさか––。


「––仲間達が命を託して作ったチャンスだ、敵兵を蹴散らせ!」


 号令と共に部下たちが飛び出していく。太刀を一振りすれば数人まとめて切り裂かれ、銃を放てば一斉に吹き飛んでいく。苦戦する事も無く蹂躙していく。

 時間にして僅か1分、たったそれだけの時間でこの場に立つ人間はたった一人となった。


「そんな馬鹿な、こんなはずは……。」


 打ちひしがれている敵の指揮官に一歩ずつ近づいていく。足音に気付いたのか此方を見て戦慄の表情を浮かべながら後退りしていく。

 私が一歩進めば一歩下がる、また一歩進めば一歩下がる。そんなことを続けていくとやがて目の前の男は背が壁に当たり狼狽える。私はそれを無視し近づいていく。俯きながら何かぶつぶつ言い始めたと思うと急に顔を上げ手に持った剣を振り上げこちらに襲い掛かってくる。


「魔族如きが、くたばれー!」


 振り下ろされる剣を僅かに体を横にずらし躱し、そのまま刀を真一文字に振るう。

 ドサッとした音と共に私怨の籠った表情をしたままの頭が地面に転がり、この場には生きている人間は誰も居なくなった。

 刀を振るい血を払い鞘に納めると森の中からガサガサッと音を立てながら一つの影が姿を現す。


「戻ったぞ。」


 森の中から出てきた影はパンサーだった。右腕で胸に姫様を抱いており、左腕にはレイが荷物のようにぶら下がっている。姫様も泥にまみれているがレイに至っては此処にいる誰よりもぼろぼろだ。


「安心しろ、レイも重症だが命に別状はなさそうだ。」


 私たちの視線に気付いたのかパンサーがそう答えると全員安堵の表情を浮かべる。

 すぐさまアスミがパンサーに駆け寄りレイを受け取り治療を始める。

 私も姫様を受け取り怪我の確認をするが軽い擦り傷のみで大きな怪我はなさそうだ。これもレイのお陰だろう。


「全員、無事で良かった……。」


 誰かを失うかもしれない状況だったにも関わらず、全員無事。それなのに晴れた顔をしている者は誰もいなかった。

 魔王城の方を見ると先程よりも煙が上がっており、空が赤く光っている。さらに過酷な状況になっていることだろう。


「隊長、俺はレトシュとバイコーンを治療してくる。アイツも二人を守るため体を張ってくれたみたいだ。」


 そういうとアスミから救急セットを一通り受け取りレトシュと共に森へ消えていった。


「ヤジャ、敵兵共から奪える物は奪っておけ。アスミ、治療が終わり次第他のバイコーンを呼び戻せ。二人が戻り次第予定通りザーパ領に向かう!」


 各自の準備が終わる頃、ふと顔を落とすと姫様は泣き疲れたのかスヤスヤと眠っている。目元についた涙の跡を拭き取ってあげた後、私たちはザーパ領を目指し森の中を進み始める。

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魔族と人族の因縁に決着を。 ダンナ @shino1952

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