第10話 嗚呼、ダンジョン3丁目
ダンジョン3丁目ボス部屋直通の通路には、冒険者達には決して見つけられない魔物専用の隠し部屋がある。
ここの宝物庫もその1つだ。
「スケサン、スラミン。準備はできているゾ」
「ボルゾイさん、あざっす」
ゴブリンソーサラーのボルゾイの指示により、手下のゴブリンナイト達によって砕けたスケサンの骨を丁寧に並べていた。
その隣にはドラゴンのボスが貯め込んだ宝物コレクションの鎧と、スケサンの愛用の剣が置いてあった。
「もしかして、先輩。この鎧と剣装備して戦うんっすか? ムリムリですよ! さっきもあんなにあっさりやられたのに……」
「チッチッチッ、スラミン。そうじゃねーんだ……スケルトンはなんだと思う?」
その言葉に、スラミンだけでなくボルゾイもまた首を傾げる。
「そりゃ、人間が死んで……」
「骨だけになったモノにその辺りの悪霊が憑りついて……魔物化したって聞いてますけど」
「フツーのスケルトンならそうだ。しかし、俺はその昔――冒険者だったんだ」
「えぇ!?」
「しかも、なんとドラゴンスレイヤーの称号を持つレベル99の最強クラス!」
「……先輩。見栄、張らなくてもいいんっすよ」
「――そう俺は生前、最強の冒険者だった――しかしあの日」
「あっ、勝手に回想シーン入らないで下さい」
◇◆◇◆◇
ダンジョンで数多のドラゴンを狩ってきた俺だったが、ある日ふと思ったんだ。
「ドラゴンの肉を食えば、さらなるレベルアップができるんじゃね?」
肉体の強さも限界に近付きつつあったのは自覚していた。
だからあの日――自宅にドラゴンの死体を持ち帰って……父ちゃん母ちゃんと一緒にドラゴンステーキを食ったんだ。
それがいけなかった……。
◇◆◇◆◇
「1週間くらい高熱とゲリとか色々酷くて、一家全滅しちゃった」
「……バカなんすか」
「しかしその後、次に墓で目が覚めたら骨だけになって身体が動くんだもんなぁ。いやぁ、不思議なこともあるもんだ」
「で、それとこれでなんか繋がりあるんっすか」
「大ありよ。つまり、俺は骨の戦い方に慣れてねーんだわ」
「……まぁ元人間ならそうなんですかね」
「そこへ筋肉が付けば、生前の状態を再現できれば……ボスにだって負けない!」
「おお! でもここにあるのは骨と鎧だけっすよ」
「だからお前が居るんじゃないか、スラミン」
「え? えぇぇぇ!?」
「うぅ……み、みんな……逃げ、逃げろ……」
「おっとボス。ここから先は通しませんぜ」
反射的に魔を穿つ剣を構えるボス。
そこに立っていたのは――魔法の鎧に身を包み、派手なマントを羽織り、愛用の白い剣を構える、スケサンであった。
ちなみに顔はスケルトンのままである。
「スケ、サン……」
「エルが自分を犠牲にまでして魔力を集めてくれているんだ……その想い、無駄に」
「ぐあああッ!」
「ちょっ!?」
セリフを言い終わる前に切りかかってくるボスの剣を、スケサンは辛うじて剣で受ける。
「まだいい感じのセリフ残ってるんですけど!」
「先輩! ボス相手になに余裕かましてんっすか」
鎧の中から抗議するスラミン。
今のスラミンはボルゾイの魔法により、スケサンの思考する通りに動くよう一時的に体の自由を奪われている状態だ。
しかし口(?)だけは動くようだ。
「おぉ! さっきまでと違って、ちゃんと受けても力負けしないぞ!」
「ぐがあああああ!!!」
「おっと」
力任せに押し切ろうとするが、それをいなして、ボスの腹に蹴りを入れるスケサン。
「ぐっ!」
「――冒険者一刀流、虎牙大斬!」
「ッ!?」
そのまま剣を連続で上下しながら切り裂く技で、ボスの身体に斬撃をいれる。
光のオーラに阻まれダメージこそは与えれないが、その勢いまでは殺せないようで――通路の壁へ叩きつけらた。
「やっべー。マジで先輩が強いっす」
「全盛期の半分以下だけど……ただ突っ込むだけのボスじゃ、相手にならないぜ」
「ヒュー、カッコイイ!」
などとスケサン&スラミンが調子こいていたら、ボスが立ち上がり――左手に輝く宝珠が握られていた。
「力ヲ、解放セヨ」
宝珠は輝きを増し、それに呼応してボスのオーラも白く輝きだし――。
「必殺――」
「ヤバッ」
「――魔焔極薩剣ッ!」
ボスの人型形態の時に扱う最強の大技が、スケサン達に襲い掛かる。
ズドドドドオオオオオンッ!!
スケサンごと最奥の部屋に通じる扉がぶっ壊され、ボスはついに部屋に侵入してくる。
「ひゃっ、何々!?」
煽情的なモニュメントみたいになっているエルが驚いた声を上げる。
「くっ。魔力はまだ溜まらねーのか!」
『さっきよりたくさんの魔力集めているから……でも大丈夫? これでダメだったら……』
「俺がボスの隙をついて、あの宝珠をどうにかするから……後は頼んだぞ」
『……分かった』
「よーし、ボスこっちだ!」
「ぐあああ!!」
ボスが剣を振り上げる。左手には例の宝珠が握られている。
「これでも食らえ!」
そう威勢良くスケサンが叫び、その斬撃を搔い潜り――ボスの鼻先へとある“本”を突き付けた。
「ボスの嫁さん写真集!」
奥さんのあられもない姿(ドラゴン形態)を目の前に突き付けられ――。
「――あああああッ!!」
精神崩壊を引き起こしたかのように頭を抱えるボス。
「……そんなに奥さん怖いんっすかね」
「――冒険者一刀流、獅子破刃!」
ばりぃぃん――!
その隙を突いて、スケサンの必殺の斬撃が――宝珠を砕いた。
そして、輝くオーラはガクッとその光度を減らす。
「今だ!!」
『ボスに魔力全送信!』
ダンジョン内の魔力が再びボスへと注がれ――。
「ボス、頑張ってください!」
「やっぱボス代理で部屋に座るの、キツいです!」
「帰ってきてください!」
3丁目の魔物達の声援を受け、ボスは動きを止めた。
「てりゃ!」
スケサンが手刀で攻撃し、ボスは魔を穿つ剣を落とす――。
「くっ――みんな」
「おぉ、ボスが意識を!」
「やった! これでアタイもエルを触手攻めしなくて済むんだね!」
「ぜぇ……ぜぇ……ひとまず、終わったのね」
仲間からタオルを掛けて貰った半裸のエルが前へ出てくる。
「……ボス。改めて――おかえりなさいませ」
『おかえりー!』」
「みんな……本当に、済まなかったな」
ボスはにっこりと笑い、これで全部終わった――かと思えば。
ウウウウウウウウゥゥゥゥ――。
『き、緊急! なんか冒険者が群れを成して、この3丁目の入り口に集まりつつあります!』
「えぇ!?」
「もしかして、さっきまでのバトル……配信してた?」
『ボスが入って来た時点で配信は止めたんですけど……定点カメラ映像は止まってなかったらしくって』
音声こそは向こうに流れてないが、この一連の流れが放送された。
冒険者が魔物に囲まれ、なんやかんやで一騎打ちで負けて伝説の剣を奪われた様を――。
『あれって伝説の聖剣だよな! 魔物に取られる前に、回収しねーと!』
『それよりあの部屋ってボス部屋だろ? まだあの裸のねーちゃん居るかな』
『おぉ、筋肉! 筋肉こそ至高!』
『ゴブリンが映ってた! なぁゴブリンだろ。ゴブリンの首を出せぇぇ!!』
『ねぇカズト。なんで急にそんなやる気だしてんの』
『えっ、いや……あっ、剣欲しいなーって』
『ふーん……』
ダンジョン前の冒険者達の声がこちらにも流れて来た。
「はわわ、えらいこっちゃ」
「どうすんっすかコレ! まだみんな回復できてないっすよ」
「
ボスの身体が一瞬光り――その雄々しくも悠々とした黒い鱗に覆われた竜が現れる。
魔黒竜<ダークネスドラゴン>というダンジョンや魔界の中でも屈指の力あるドラゴンだ。
「今から俺に入った魔力の一部をダンジョンに戻すが……それでも回復には足りないだろう。だからスケサン、それとスラミン!」
「えっ、あっ。はい!」
「なんっすかボス」
「1階はお前らの担当だろ。こっちの準備が出来るまで、お前らだけで時間稼いで来い!」
「ええええええ!?」
「ええええええ!?」
2匹の声が同時にハモる。
「これはボス命令よ。ほら、行ってきなさい!」
「じゃあせめてエルちゃんも一緒に行こうよぉ」
「嫌よ! あんなケダモノみたいな目した連中の前に私が出たらどうなるか……ていうかスケサン。アンタ、後で覚えておきなさいよ!」
「ぐえー……しょうがねぇ、行くかスラミン」
「どっちにしろオレ。先輩にくっついたままで取れないんっすけどね」
魔物達の後ろから、スライム達が跳ねて飛び出してくる。
「スラミンさん! ボクらもお供しますよ!」
「さっきのスケサン先輩、カッコ良かったっす!」
「え、そう?」
『もうこちらでは対応できないので、早くスケサン達、来てください!』
「しょうがねぇな……じゃあ、まぁ行くか」
「了解っす!」
ダンジョン3丁目。
ここは近くの冒険者達の拠点にしている宿場町から馬車で1日、停留所から徒歩3日の場所にある、ドラゴンと多くの魔物が住むダンジョン。
その洞窟1Fで、2匹の魔物が――。
「ここはダンジョン3丁目です――覚悟しろよ冒険者どもぉ!!」
「こうなりゃヤケっすよ!!」
今日も頑張って、冒険者と戦うのであった――。
◇◆◇
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ここはダンジョン3丁目です ゆめのマタグラ @wahuu
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