第7話
早く麻衣に会いたいと思う気持ちが逸り、集合時間の30分も前に着いてしまった。
こんなに朝早く皆どこへ行くのだろうか。
思ったよりも街の人々の朝は早いことに気づく。
初めて麻衣と遠くへ出かける日。
慣れない化粧をして、新しく買った水色のワンピースを身に纏う。
身だしなみを変えるだけで、気が引き締まり自身に溢れてくる。
真夏は早朝でも暑い。立っているだけで額に汗が滲む。
少しでも涼むために、木陰のベンチに腰をかけようとしたところで、ちょうど麻衣の姿が目に入った。
雪奈は大きく手を振る。
それに気づいた麻衣は手を振り返し、小走りで雪奈の元へ向かってきた。
雪奈と麻衣は声を立てて笑った。
二人とも水色のワンピースを着てきていた。
雪奈の方が若干濃く、紺のリボンがついているという違いがあるものの、お揃いと言って差し支えないほど、そっくりであった。
雪奈は少し恥ずかしさを覚えつつ、麻衣と姉妹になったような気がして嬉しかった。
もし姉妹だとしたら、麻衣が姉で私が妹だろうか。
「お揃いだね。私たち姉妹みたい」
雪奈の考えていることを読み取ったのか、麻衣が笑顔で言う。
「被っちゃってごめん。他の色にしてくればよかった」
「私は雪奈と同じで嬉しいよ」
雪奈は顔が熱っていくのを感じた。
「じゃあ行こうか」
麻衣が改札の方へ歩いていく。
雪奈は、先へ行く麻衣を追いかけて横に並んだ。こうして並んで歩くと本当に姉妹になった気がした。
電車を乗り継いで目的地へ向かう。
どこに向かっているのかはわからない。
事前にどこへ行くかは教えてくれなかった。
目的地がわからないことへの不安はない。
麻衣となら目的地がたとへ地獄だとしてもついて行くだろう。
上空に向かって聳え立つビルの群れが疎になり、緑豊かな山が広がっていくのを車窓から眺める。
「そういえば、麻衣は夏休み何してた?」
「なにしてたかな。寝たり起きたり?」
「面白い。でも、それだけってことはないでしょ?」
「うん。でも、大体はそんな感じだったかな。あんまり体調が優れなくてね」
「大丈夫?もしかして、また咳が止まらなくなったの?」
雪奈は心配になる。
麻衣が苦しむ姿は見たくない。
「ううん。そういう訳じゃないんだけどね」
いつもの麻衣らしくない、歯切れの悪い回答。
もしかして私を心配させないように、気を遣ってくれたのかもしれない。
「今日は大丈夫なの?無理しないでね」
「快調だよ。雪奈のおかげで元気になれた」
麻衣は優しく微笑む。全てを包み込む聖母のような笑顔。
雪奈は一層顔が火照るのを感じた。
電車はただ目的地へと乗客を運ぶためだけに走る。
窓の外に広がる風景を見ている麻衣の真剣な表情が鏡に映る。
半透明に透けたその顔が風景と同化して、儚げに美しく光って見えた。
風景と共に流れていく儚げな表情を見ていると、そのままどこか遠くへ行ってしまうのではないかと、雪奈は根拠のない不安に突如襲われた。
繭 空乃 夕 @yuyakezora
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