義母と子

 惑星地球、日本国、某所。本日も平和。


『衛星■■、■■国、本日も平和です。こんにちはひかりさん』


 宇宙にも挨拶の定型文がある。


「惑星地球、日本国、本日も平和です。ご無沙汰しております、お義母かあさん」


 宇宙との交信、ビデオ通話で出来る時代。


***


『光さん、■■がお世話になっております。■■は■■星人であるが故に■■でご迷惑をおかけしておりますが何卒』


 地球人の姿に合わせ自動で加工してくれるツールを使っているお義母様。上品なご婦人。


 言葉の壁は自動翻訳が取り払ってくれる便利な時代。


 ときどき翻訳ミスってるっぽいけど。


「いえいえこちらこそ、大変地球人が下手くそでして、かいさん(仮)にはいつもお世話していただいております、本当に、いや本当に」


 通話前に慌ててぐしゃぐしゃの髪を直し、画面に映る部分の衣服をなんとか整えた私。


 向こうの画面上では夫の母星の人風に自動加工されてるらしいけど、どう映っているか不安。


 リモート会議に慣れた時代に生きていて良かったような悪かったような。


『夫婦生活は問題なく行えていますか?』


「最高です。私の行える最良の夫婦生活と考えます」


『以前お話しされていた子供の件はどうされますか?』


「結局海さんにデザインしていただこうかと」


 夫がベビーズデザイナーだと話が早くて助かっております。


『承知いたしました』


「天然生殖実験の件は流石に倫理的にどうよと。夜間のコミュニケーションの口実にはさせていただきましたが。避妊はしております」


『承知いたしました。どのようなデザインを希望されていますか?』


「あ、すみません。地球人をお願いしております。そちらの衛星には大変申し訳なくも」


『謝ることは何もありません。生活拠点となる惑星に合わせた個体を望むのは合理的です』


「ただ海さんの特徴も地球人風にアレンジして引き継いでいただければとは」


『どのような特徴の引き継ぎをご希望ですか?』


「どんな子でも良いよって言ったら、夕飯と同じで何でも良いが一番困るって言われました」


『倫理観が異なっており大変申し訳ありません』


「いえいえ。海さんみたいに優しい人が良いと思ったんですが、優しい、は遺伝子的にどうデザインすれば良いか難しくて」


『環境因子の交絡がありますから』


「健康で、仲間を作れて、環境の変化に適応できて、社会に馴染むことが出来る、どうか辛い思いをしてほしくない。色々考えたんですが、どこまでが親のエゴか」


『それは最も難しい課題と考えます。■■の手腕の見せ所です』


「顧客なんて我儘なものだから背が高いとかで良いんだよと言われたので、海さんみたいに手が大きい子をリクエストしておきました。あの温かい大きな手が好きなので」


『良好な夫婦関係とお見受けいたします』


「あ、そろそろ仕事の方のリモート会議の時間だ! 通話切りますね」


『本日はありがとうございました。またの通信をお待ちしております』


「惑星地球、本日も平和」


『衛星■■、本当も平和』


 通話を切り、リビングにお茶を取りに行くと、真っ赤になって食卓に突っ伏していた夫が居た。


「全部聞こえてました?」


「全部聞こえてたよ」


 惑星地球、本日も平和。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異星愛者 しろしまそら @sora_shiroshima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ