「山吹色の光」


 闇のように暗く、上下左右さえ不安定で、不確かな空間。その中で、闇が波打った。


「おかえり」


どこからともなく、声が聞こえた。


「まさか、あんな行動をとるとは思わなかったよ」


空間の中心に人影があった。ただ、その姿はまるで靄がかかったかのように不明瞭だ。


「まぁ、いいさ。君の時間は、もうじき尽きる。それまで、ここで休んでると良い」

「あなたは……どうするつもりで?」

 

 人影が、声を発した。若い男の声だ。

 

「僕は、僕の満足のいく答えが出るまで、何度でも審判者を創るさ」

「では、私の答えは不服だと?」

「愚かな生命は必要無いさ。知らないだろうが君がご執心だったあの子は、なんと戦いの中にいる。君のやったことは無駄だったんだよ」


 闇は嘲笑うような笑い声をあげた。

 

「無駄ではありません」

「ん?」

「人は愚かです。しかし、彼女は愚かではありません。きっと、我々ではたどり着けない答えを見つけるでしょう」

「それじゃ意味が……」

「《創世者》よ。あなたは未来あるあの世界にとって、未来を摘み取る可能性があるのなら――」

 

 人影は緩やかに片手をあげ、山吹色の光を生み出した。


「あなたを消去します」


 重たく深い言葉が、闇しかない空間に響く。

 しかし、それを嘲笑うかのように言葉が反響する。


「出来ると思ってるのか? 君を創ったのは……」

「しかし、創ることのみの存在でもある……そして自分は、消すことしか出来ない存在だ」


 創造者から余裕の態度が消える。


「全ての母たる創造者を消すというのか?」

「……未来は、誰の手にも等しくあります。その可能性を摘むのであれば」


 ただ手を掲げる。それだけで、闇は激しく蠢いた。


「創造者、あなたを消去します」

「やめ――」



 空間の中を光が満ちていく。山吹色の、奇跡と謡われた、優しい光。全てを消し去る光。一人の少女が信じた光。

 

「ハナ君……」

 

 後にはただ、何もない空間だけが残った――空虚な空間が。


 光が一つ、やってきた。


「おやすみ、審判者。私達にも生まれ変わりがあるのならせめて――来世では幸せになってね」


 慈しむ訳でも、憐れむ訳でも無い。

 ただ時の流れを司る存在として、純粋に願うだけだ。 楽園に花は咲かない。何故なら、本当の楽園には何もないからだ。

 楽園とは、人の心に咲く花。楽園とは場所ではなく、幸せを感じられる時こそ楽園なのだと思う。

 未来は等しく、みんなのモノ。未来もまた、幸せでありたい――だから、楽園が存在する。


 ――この言葉を、楽園を継ぐ者に捧げる。

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楽園の花 ゆめのマタグラ @wahuu

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