第35話 楽園の花
戦争の最後は、あっけなかった。
私達が本陣へ辿り着くと、そこには王の首が鎮座していた。
聞くところによれば王は東方海軍の増援、さらに迫り来る戦乙女の姿を確認するやいなや――すぐに現場を放り出して逃げだそうとして、部下達に様々な罵声を浴びせた。
それが前々から不満を持っていた将校の怒りを買ったのだという。
「……そう」
「な、何はともあれ、これで戦争は終わりましたね……って、あれ。先生?」
王は、何も言わない骸となっていた。
目の前にしたら言ってやろうと思った言葉も出てこなかった。
「こんな馬鹿な男のせいで、私が産まれて……そのおかげで、私はここまでやってこれた。皮肉ね」
誰にも聞こえない程度に呟くと、私は誰にも見られないように――涙を流した。
◇ ◇ ◇
最後の戦争が終わり、数日の間。
まずは王都の国民に戦いは終わったと伝えた──その時の喝采は、今まで国王に圧政を強いられていた人々の喜びだ。
さらに新たな司法、国政の改良など、様々な仕事に私は追われていた。私も、戦乙女という役職から解放される事も無く――。
「先生!」
「あ!」
ついうとうとしていた。演説の前だと言うのに――抜けている。
「しっかりしてくれよなぁ、先生」
「ごめんね。ちょっと、昔の事を思いだしてたの」
「昔って、世界戦争に巻き込まれた街から生還した時の?」
「えぇ」
「孤児からいきなり学術都市にある最難関の大学出身。さらに教師免許取得に……」
「反乱軍を率いる戦乙女という名の魔女?」
冗談だったのだが、この子は真剣な顔つきになり、
「影でそんな事言ってる馬鹿は気にしないで下さい。先生が立ち上がってくれなきゃ、前の王はまた戦争をしてた。また世界が、戦火に焼かれる。もう、そんなの見たくない……」
「ありがとう」
頭を撫でてやると、少し照れながらも嬉しそうな顔になる。ちょっと可愛い。
「いつまで経っても、君は生徒で仲間。了解?」
「分かってますよ。あ、そろそろ時間です」
「えぇ」
3階相当のバルコニーから登場しただけで、もの凄い歓声だ。
呑まれないように気をしっかり持つ。
背後には私の自慢の生徒達と、大切な仲間が居る。それだけで、心に自信がつく。
1度だけ大きく息を吸い、吐く。そして、もう1度吸い込み──、
「皆さんは、楽園を御存じですか? 名も無い、いろんな花が咲き乱れる――人が血を流す必要の無い、豊かな大地」
先生、聞こえますか?
私は、私の答えを進んでいます。
誰もが笑い、幸せな世界を作る事は難しいです。
でも、絶対に諦めません。
花は絶対に咲かせてみせます。
だから――いつかまた、帰ってきて下さい。
「これは、私が子供の時に出会った恩師の話です――」
世界に咲くどんな花も
美しくも醜い一面をもつ。
人もまた、同じなのだ。
花売りの少女と、不思議な青年の物語。
いつまでも、幸せと平和でありますように……。
「あなたの楽園に、花は咲いていますか?」
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