第34話 最後の戦い


 いざ戦いが始まると、やはり王国軍の力は大きかった。

 様々な兵器、数々の武器の存在は、士気の低かった兵士達を奮い立たすのに充分だった。


「2番隊、3番隊は側面より前進!!」


 反乱軍は徐々にその勢力を弱めている。

 それもそうだろう。あちらの戦車は、こちらの戦車と違い最新式。しかも数が違う。 


「前線部隊は下がれ、我らが前へと出る!」

「先生、それは……」

「ここで兵を見殺ししたとあっては、戦乙女と呼ばれる資格も無い。出るぞ!」


 それでも数々の策により善戦はしていた。

 しかし最後には、やはり数で押されてしまう。

 

「せめて、突破口さえ開ければ……」


 偵察によれば、敵本陣には国王本人が居るという。

 本来ではありえない事だが、ただでさえ士気の低い兵士達に対する威圧のつもりなのだろう。

 そして、自分は決して負ける事が無いという驕り。

 

「なんだあれは!?」


 仲間の兵士の誰かが叫んだ。

 それにつられ、空を見上げ――絶句した。


「あれは……まさか、完成させていたのか」


 1点の曇りも無い青空。

 そこには、10を超える数の物体が浮いていた。

 そのどれもが王国の国旗を掲げ、デカイ図体から地上を見下ろしている。


「……飛行艇」


 空気より軽いガスを込め、浮かせ、それに砲台や機関銃をつけ、天空から敵をなぎ払う新兵器。

 まだ飛行船自体が実験段階というこの世界で、まさかもう兵器として実用化していたとは……。


「やられた」

「先生!」


 空を浮く。それは人が長らく夢みた行為。

 しかしまだ民の多くが、その行為に疑問を感じる。飛行艇はまさに、民にとっては羨望と恐怖の存在だ。

 この世に自分の頭上を、あんな巨大な物体が浮くなんて――誰が思ったであろう。


「全軍に伝達しろ。例のポイントまで後退しろと」

「先生はどうするんです!?」

「殿を務める。ここに戦乙女がいるとなれば、敵は必ず私に群がって来るだろう」

「無茶です。それに、先生は兵のみんなの命を預かっているって言ったのに……そんな事言わないでください!!」

「すまない」

「先生!!」


 小さい頃なら触れる事さえ思わなかったであろう、面ごしらえの立派な剣を抜き、腰に提げられた拳銃を確認する。

 最新の銃を持つ相手に剣は無意味だろうが、それでも自身の姿を奮い立たせるために、あえて構えた。

 

「行くぞ!!」


 かつて青年によって救われた命を──今度は、自らを慕う者の為に散らす。


「これが、私の終点なのかもしれないな……」


 最後の覚悟を決め、馬に跨ったその時だった──。



『その戦、ちょっと待った!!!』



 戦場に、声が轟いた。


『よぉよぉ、世界に喧嘩売ろうって馬鹿な王様はどこだ! この東方連合国海軍、8万の武力。加勢するぜ!!』


 声の出所はすぐに分かった。

 戦いの行われている王都前の平野──そのすぐ横は海になっていて、そこから水平線が一望できる。

 その水平線の彼方に――派手な装飾が施された軍艦が並んでいた。


「先生、あれは東方の援軍です! 間に合ったようです!」

「えぇ……でも、この物言いはまさか――」


『名付けて“オレ様海軍”のリーダーとはオレの事だ。オレの可愛い隊員を泣かせる奴らは、ぶっ飛ばせぇぇぇ!!!』

『あ、狙うのは敵本陣ですよー。できるだけ兵士の皆さんに当てないでください』


 それを合図に、海辺から無数の砲弾が王国軍を襲う。

 どうやら拡声器のようなモノで喋っているらしい。


「リーダー、それにメガネ君も……」

「あ、危ない!」


 頭上の飛行艇からの攻撃に、思わず耳を塞いだ。

 どうやら敵はリーダー率いる海軍を狙い始めたらしい。

 他の兵士たちも、突然の援軍に浮き足立っているようだ。


「これが最後のチャンスよ、ついてこれる?」

 

 彼女は傍らの教え子に向けて、飛びっきりの不敵な笑顔を浮かべた。


「当たり前です!」

「行くわよ!!」

「はい!」

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