第33話 10年後の未来
広大な森の中にある野営地の一角で、2人の男女が居る。
2人ともまだ若い。しかし、その格好は不釣合いな程、無骨な鎧に覆われている。
鎧には無数の傷が刻まれ、それがこれまでの戦いの苛烈さを表していた。
「約10年。言葉にすればたったの一言ね」
「ついに、ここまで来ました」
「えぇ」
世界から戦争という病が消え去り、1年の間はまさに平和だった。
複数の国は停戦条約を結び、軍事力の縮小を義務づけられた。これでやっと長かった戦争が終わり、本当の平和がやってくると、誰もが思っていた。
「でも違った。今から9年前、新兵器の開発で一目を置かれていた王国の王様が謎の病気により死去するという事件が起こったのは覚えてる?」
「はい。それによって、国王が交代したんですよね。確か……なんか東の国で貴族やってた、弟でしたっけ?」
その弟は、一言で言うならば腐っていた。
自らの欲望を満たすためなら平気で民を苦しめ、停戦条約によって各国が軍事縮小をしている今がチャンスとばかりに、独自に軍事力増強にのりだす。
この男は何も学んでいない。戦争という病は、この男を腐らすのに十分な効果を発揮した。
「そろそろ時間です」
「分かったわ」
そう、彼女は──かつてハナと呼ばれた少女であった。
傍らに居る同年代の男は、彼女の教え子だ。
世間では“山吹色の奇跡”と呼ばれている、あの光。
彼女は、あの日から教師になるべく勉強を開始。
屋敷にはまだ大量の先生が残した本もあったので、教材には困らなかった。
それから数年後、国内の学術都市にて彼女は念願の教師の試験を手に入れた。
しかし、その頃だった。
あの王国の異変。再び、世界に病が訪れるかもしれないという噂。
「みんな、よく集まってくれた!!」
『おぉーーーッ!!!』
彼女は決して表には出さなかったが、静かな怒りを感じていた。
先生のすべてをかけて、戦争は無くなったのに――それを再び、しかも何も考えずに己の利益のみでおこそうとしている国王に。
「王国軍は、停戦条約を完全に馬鹿にした挙げ句、今や10万の軍勢になっている。それに比べ、我らはたったの2万。劣勢は明らかだ!」
ここは王都までもう間近の森の中だ。王都の前には平原があり、恐らくそこが最後の決戦の場となるだろう。
緊迫した空気の中、彼女は考えていた言葉を一言ずつ、紡ぐ。
「私はみんなに死んで欲しくない。私はみんなに生きて、この先に待つ未来のある世界で生きて欲しいと願う。みんな、私に命を預けてくれ。そして、共に勝とう!!」
『我らが命、戦乙女と共に!!』
戦乙女という名称は、みんなが共通して呼ぶ彼女の通り名だ。
こちらの方が士気があがるという教え子に言われ、そのまま採用となった。
最後の鼓舞を終えた2人はテントの中で最後の打ち合わせを行う。
「先生、お疲れ様です」
「ありがとう。でも、これからが本番よ」
「はい」
「東方に使者は?」
「1か月前に出しましたけど……まだ返事はありません」
「そう……」
この2万と10万という数の壁。
これはどうしようにも無い戦力の差だ。
付け入る隙があるとすれば、あちらは兵隊そのものの数はそこまで多く無い点だ。
多くは国王によって戦争へと参加させられた地位の低い者達――それを最新の武器を使わせ、練度の低さをカバーしている。
他の国からは、やはり軍事縮小化、内政干渉を理由に協力は得られなかった。
完全に高みの見物──もしもここで彼女らが負ければ、次は自分たちの番だというのに。
「迷ってはいられないわ。王国はまた新兵器を造っているという噂も聞く。もしもそれが完成してしまったら……」
「はい、恐らく世界に対して宣戦布告をするでしょう」
「そうなる前に、私達で……王の首をとる」
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