断章「幕間と、未来と、作戦会議」 4

 シャッ、と一瞬で目の前の敵をさやから抜いたその斬撃で吹っ飛ばす。この武器なら、遠距離からも攻撃が可能だ。

「い、いちご……」

 背後でゆかりの声がする。しかしユズは声に反応せずに、あっという間に再生をした敵に更に斬りかかる。

(もっと速く!)

 素早いその攻撃に、敵はばらばらに崩れ落ちる。だがまたすぐ、目の前に元の姿で立っている。さらに斬撃の速度をあげる。だが無駄だった。

(四号が言った通りか。なにかあるな、こいつ)

 では今回は。

(六号から引き離すか)

 やることは決まっている。仲間にも指示を出した。あとは、それをやりげるだけだ。

 右足に力を入れて、思い切り左足で虚人の腹部を蹴った。衝撃で敵は吹っ飛んだ。このまばたきにも満たない時間で、できるだけ遠くへこいつを引き離す!

 ユズは追いかけるように刀を構えて跳び出した。



 まぶたを開ける。やはり一人だ。

 瞬時に清史郎は両手を広げる。周囲に無数の輝くメスが浮かんでいる。

(さらに数を増やす)

 二倍、三倍と数がどんどん増えていく。それが雨あられと降り注ぎ、虚人を襲った。細切れにしたが、やはり、効果がない。

(ユズさんほどの破壊力を刃物には乗せられないか。銃弾のほうがまだ可能性は高いか)

 清史郎は少し考えるように視線をずらした。だがそれは、油断ではない。右足を後ろに少しさげ、左足で虚人の頭を蹴り飛ばしていた。まるで霧のように、手応てごたえがない。

(体術だと、ユズさんと五号ほど出力が出ない。でも、それでも三番目ってとこかな。そこそこ使い物にはなるけど、決定打にはならない)

「は、ちごう?」

 戸惑いの声に、清史郎は肩越しに背後を見遣みやる。すぐに視線をらして前を向く。

 今はそう、まだ、その時ではない。



 まぶたを開ける。やはり、一号と八号がいない。今回は七号もいない。人数は四人。五号が一緒に顕現けんげんしている。

(やっぱりあの二人は別格か……! それとも、なにか理由があるのか……どっちにしろ、やるべきことをやるだけだ!)

 背後の六号をかばうように二号が彼女の前に立つ。

 ちら、と悠一は視線を動かす。

 当然だが、戦闘能力が高いほうが前に出るのはいつものことだ。ここに一号がいれば、真っ先に飛び出すのは彼女だ。そして今、横に立っている五号もだ。二人は戦闘スタイルこそ違うし、気分にむらがある五号と違って一号は正確にやり遂げる。

 八号は自分と同じ遠距離の武器を具現させるが、それは一号がいるからだろう。銃というのも、わかりやすい。「」というわけだ。

 五号が虚人を地面に殴り倒している。だがやはりその再生能力に攻撃が追いつかない。五号が舌打ちしている。

 空へと視線を向けるが、なにも見えない。まったく感知もできない。けれど、『なにかが』あるのだけは確かなのだ。

 うまくできている、と苦笑いしそうになる。この敵を相手にするには、全員でかからなければ無理、というわけだ。ただ攻撃能力があればいいというわけでもない。一人に重責を押し付けてもなんとかなることではない。正真正銘、全員で、やらなければならない。

(視認すると目がやられるなら、一号と八号が同時に『見れば』その威力が半減するかもしれない。片目でも残っていれば、一号は継続して戦える。そして八号は、その危険を承知してる。あいつイカれてるな、本当に。オレは痛いのも、想像するのも、嫌だってのに)

 そう。

(きっと、虚人が七号を選んだのはオレたちを殺すためなんだろうな……!)

 偶然ではない。必然だった。操者そうしゃを殺すためだけに、それこそ、執念という想いでつかんだものだろう。

 それほどまでにうとまれているのなら、そして、勝手にこちらの世界に来ておいて、干渉してきて、都合つごうよく悪とされて、それはいくらなんでも……

 こちらをにらみつけてくる虚人に、言ってやりたい。――――おまえはこの世界にとっての『悪』だと。お門違いの『正義』を振りかざすなと。

 『ここ』は、


***


 『時』はきた。全員が、顕現けんげんする。それぞれが、この瞬間のために魔力の扱い方の精度を上げ、己に見合う最適の『攻撃特化』状態にした。呆然とこちらを見る虚人と、目が合う。一号が日本刀を握りしめて小さく言った。

「行くぞ」


 ――さあ、再戦リベンジだ。

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REvision ともやいずみ @whitemozi

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