白蛇さんの逃亡劇
ヤバい。デカすぎる。周りの木々と比べればそうでもないが、生後5分の俺と比べればあまりにもデカい。どう考えても勝てるわけが無い。なんなら逃げることすら可能か怪しい。
しかし逃げる。当然である。全力で地を這い、できる限り細い道を通る。大きさにここまでの差がある以上、速度で勝っているという希望的観測は捨てるべきであり、ならば必然としてこの逃亡劇において最も大切なのは道選びということになる。
まっすぐ追わせるな。減速させろ。迂回させろ、立ち止まらせろ。産まれたばかりの肉体にはいささか過酷な司令を出しながら周囲を見渡して最適なルートを通る。背後からは奴の息遣いと足音、目視で確認するまでもなく追われている。
思ったよりは俺が素早く、思ったよりは奴が遅い。しかし足音は着実に接近しており、それはその距離が縮んでいることを証明している。
俺よりはデカく、俺よりは強い。しかしそれでも法外なサイズを有しているわけではないため、地形での足止めは有効だが莫大なリターンは産まない。
それがこの、すこしずつ縮まる距離の答えである。
これ以上接近される前に、試すべきだ。ぶっつけ本番になり、成功するかの確約もない以上、失敗が即座に致命的になる距離まで近づかれてはいけない。
一瞬の逡巡の末、木に登る。産まれてすぐに登れるのか。そもそも蛇の木登りは速度があまりでないはずだが間に合うのか。懸念点はある。まっさきにこの選択をとれなかったのはそれらが原因だ。
結果として、木を登ることはできている。問題の速度も、俺が思い描く蛇の木登りとは比較にならないほどに素早く、地上での速度と大きな差を感じないほどだ。
選んだ木はかなり太く、かなり高い。半分ほどまで登った段階で下を確認すると、角ウサギがその鋭い角を木に突き刺している姿が見えたが、その影響は微々たるもので、俺が木を登ることへの妨害になるどころかむしろ抜けずに身動きが取れなくなっている様子がみてとれる。
大木と呼べる程のサイズの木の、頂点付近の枝の上に体を預ける。気怠さを感じるが、寝ている場合ではないので状況確認に意識を向ける。
……角の生えたウサギなど、地球には存在しない。俺の鱗だってそうだ。泥を、汚れを、一切残さず、くすむこともなく、全て弾いてその白を輝かせている。
異世界なのは確定。地球と比べて特殊な生物がいるだけなのか、いわゆる魔法や、ステータスなんてもののある世界なのか。これの判別が現状できない。こういった作品のお約束、ステータスと念じても俺の前にそれが現れることはない。
しかしこれはなんの確認にもなっていない。出てくれば楽に判明するだけで、存在していない事の証明はできない。
現状はお手上げ。わかっているのはここが異世界であることと親もいない状況で食料を自力で確保しなければいけないということ。
……お先真っ暗、というわけである。
白蛇さんは最強になりたいようです 終焉クロック @Seiryu86
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。白蛇さんは最強になりたいようですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます