白蛇さんは最強になりたいようです

終焉クロック

魔物と言うにはちっぽけな、小さく弱い純白の蛇

転生したらしい。

前世は現代日本の一般的な大学生。自分の名前も周囲の人間の名前も、自身の性別も思い出せないが、一人称として真っ先に頭に浮かんだのが”俺”であるということは恐らく男なのだろう。


転生した、というのは何も思い出せなくとも、自身が人間であったと認識している俺の今の体がおおよそ人間と言えるものでは無いためだ。

四肢のない細長い体。

蛇かミミズあたりだろうか。

自身の身体を見れば即座に判別できるのだが、多分ここはまだ卵の中であり、光が一切ない。正直どちらも勘弁したいところではあるが、まだ蛇の方がマシなのでそうである事を祈りながらこの殻を破ることにする。





実際にどれだけの時間をかけたかはわからないが、俺の体感としてはもう数時間はこの卵の殻と格闘している。

ミミズの殻がこんなに硬いとは思えないので蛇濃厚と言いたいところだが、冷静にそれより先に割と大きく口を開けて牙で傷をつけようと試行錯誤していた先程までの動作を考えると濃厚というか多分確定なんじゃないかと思う。

そんなもう意味のなくなる考察はさておいて、ようやくヒビの入った一点に集中的に牙をぶつけ、全身でタックルすると、ヒビが広がり、完全に穴があき、光が目に刺さる。


眩しさに一瞬目を閉じ、再度開くと……

森だ。辺りに親と思しき個体はおらず、なんならここは巣の中ですらないらしい。

木々は見上げるほど高く、俺の全長では視界に入る中で最も細い木にすら巻き付くことが出来ない。

一応自身の体を確認し、美しい純白の爬虫類系の鱗を確認した。



……純白?それは……非常に、まずいのではないだろうか。

急いで全身を地面に擦り付ける。少しでも明らかに目立つこの色を隠すため、泥にまみれるためだ。

生後5分も経っていない生物がこんな目立つ色合いをしていて生きていられるわけがない。



しかしその行動はなんの結果も産まなかった。

理解ができない。何故か汚れない。どれだけ体に泥を擦っても、俺の体は眩いばかりの美しい白を濁らせることはない。

あまりにも不可解、あまりにも不自然な現象。困惑する俺に対する答えのように、前方の草むらから物音がする。

背を向け、距離を取りながら後方確認をすると、がいた。



訂正しよう。俺はただ転生したわけではないらしい。


ここは、異世界である。






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