第18話 遠くへ行きたいという話
ときどきどっか遠くへ行きたいなという気分が胸中に去来します。さすがに障害者なので県外に気軽に新幹線でどこかへ、ということはできないので地元沿線の端っこのほうの駅の喫茶店にお邪魔することがあります。六角橋商店街の喫茶店、珈琲文明の香りよいコーヒーや、まえにお邪魔したときはチーズケーキがありました。頼んでおけばよかったです。さらに神奈川へ行けばみなとみらい。東林間のギャラリープラムツリー。
また行きたいなと思います。
ところで大学時代、雑誌の授業で写真集を取り上げたことがありました。そのときは写真集というものはどういう目的で企画されるものかという仕事的なことは分かっていたつもりでしたが、理念に対してはノーマークだったのです。
教授は言いました。写真集の役割は読者を遠くへ誘うことなのだ、と。
遠くか、そんなに行きたいかな、遠く……。
当時はそんなふうに感じていたのですが、いま思うと大学時代に通っていた南大沢の街や隣の駅の京王堀之内のファミリーレストラン、そのすべてが私にとって遠い世界になってしまったのだと少し前に気づきました。
また行きたいと思えないはずなのに。
嫌だった世界だったはずなのに。
遠い世界へ行ってみたい。
昔読んだ小説で遠いとは衝動なのだと書かれていました。
どこか遠くへ行くことって何か人をおかしくさせる、その病が癒しとして効用する、不思議なものだと思います。
遠い世界と聞いて思い出すのは中学生の頃、愚かな若い私たちはろくに地図も持たずに高架線の下を歩いて行けばやがて終点に辿り着くと見当をつけて、歩き出しました。友達は旅っていいよね、と言いました。旅か、憧れのような感情をもって考えていました。多摩川を渡った爽快感、高島山公園から見下ろした小さなたくさんの住宅街、ランドマークタワーから見たうっとりするような夜景……。見たことのないさまざまな景色を見ました。
私がSFを書いているのもその遠い世界へ行ってみたいからなのかもしれないです。
ぼくはスペースオペラを読んだことがない~非SF読者がSFの賞で佳作を獲るまで~ カクヨムSF研@非公式 @This_is_The_Way
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