17 式神

「っ! ん〜〜、はぁ」


 俺は、目を覚まして身体を起こすと、猫のように身体を伸ばした。


「はぁう。まだ少し眠気が残ってるな。緋夏は……もう起きてるのか」


 俺は、隣で寝てるはずの緋夏を確認したが、姿が見えないので、もう起きてるのかと少し驚く。


「まぁ、幽世でも早く起きてたからな。どちらかと言うとこの状態のほうが正しいか」


 さてと、俺も眠気を飛ばすために顔を洗いに行こう。


 俺は、布団から出て脱衣所の洗面台に向かう。


「あ、おはようございます若様!」


「おはよう、緋夏。どうやらこの生活に早くも慣れたみたいだね」


「そんな、まだまだ不慣れな事だらけですよ。ただこちらの家の勝手は大体把握出来ました。ところで若様は、今日どちらで行くんですか?」


「どちらっていうと?」


「今の子供の姿で行くのか。妖怪の姿となりそれから人間の姿に変化するのか」


「あぁー、今のところは今のままで行こうかと思ってるよ」


「分かりました。では、そのように着替えを準備してますね」


「うん、ありがと」


 キッチンで朝食を作っていた緋夏との会話を済ませ、俺は洗面台のある脱衣所に向かう。


 基本は年齢にあった姿で行こう。自分でも不便な事が多いのは理解してるが、人間として暮らすなら今の姿が正しいからな。     

 まぁ、状況に応じて変えるかもだけど。


 俺は、洗面台にたどり着き、水を出す。


 パシャ。


 俺は、顔を洗い近くに置いてあるタオルで顔を拭く。


「ふぅ、眠気が完全に吹き飛んだ」


 俺は、完全に目が覚めるのを感じ取った。


「じゃ、着替えよう」


 俺は、脱衣所を出て部屋に向かう。


 着替え、着替え〜。

 っ! 流石緋夏。


 部屋に着くと既に着替えが用意されていた。

 俺は、寝間着を脱ぎ用意されていた服に着替える。


「若様〜! 朝食が出来ましたよ〜」


「分かった! 今行く!」


 着替えを終えたタイミングで、キッチンから緋夏の声が聞こえた。

 俺は、リビングに移動する。


 コトッ。


 リビングにつくと、朝食を盛り付けた皿を緋夏がリビングの机に置いていた。


「おぉ! どれも美味しそうだ」


 机の上には主食の白ご飯に次いで、味噌汁や卵とほうれん草の炒め物など、The・和食という面々が並んでいた。


「冷めない内に食べよう」


「はい! 美味しく出来てるといいのですが」


「緋夏が作る料理は全部美味しいよ」


「ほんとですか!」


「あぁ、幽世でもずっと緋夏の料理を食べてきてるからな」


 そう言って俺は、手を合わせる。


「「いただきます」」


 食事前の挨拶を済ませ、俺は箸を手に取り、朝食を食べ始める。


「美味しい! 味付けもバッチリだよ! ご飯ももちもちだ」


「ありがとうございます! これからもそう言っていただけるよう精進します!」


「緋夏も、早く食べな」


「はい!」


 俺達は、朝食をゆっくり味わう。


「「ごちそうさまでした」」


 俺達は、手を合わせ食後の挨拶を済ませる。


「今日は、何を買うんですか?」


「う〜ん、詳しくは決めてないんだよなぁ。渡さんが少し時間を作れるみたいだから、ショッピングモールとか案内してもらおうと思って」


「なるほど、そういう事でしたか」


「大体の地形は把握したけど、細かいとこまでは見なかったからな。知っておいて損はしないだろう。緋夏はどうする? しばらく俺は渡さんと行動する事になりそうだけど」


「そうですね、この辺りで買い物するなら多分昨日行ったところだと思いますし、買い物でもしてますよ。今日の夕食は何がいいですか?」


「今日の夕食かぁ」


 ちょっと身体を動かす事になりそうだし、お腹いっぱいになるのがいいなぁ。

 そしたら肉系か? カレーは昨日食べたし……。


「っ! 唐揚げがいい!」


「唐揚げですね、分かりました」


「楽しみにしてる。あと、二人で行くって話だったのに申し訳ない。この埋め合わせは必ずする」


「そんな、良いですよ。楽しんできてください。それに私は、すぐに会える距離にいるので、ほとんど二人で来てるのと変わりません!」


「いつもありがとう。やっぱりこの埋め合わせは必ずするよ」

 

 緋夏とそんな会話を交わし、俺は必ず二人で買い物に行くと決める。


 ピンポーン。


「おっ! 俺が出てくるよ」


 俺は、リビングを離れ玄関に向かう。


「おはよう」


「あぁ、おはよう。早かったね」


「とりあえず、買い物に行く前に上がって話そうか」


「分かった」


 俺達は、リビングに向かった。


「おはようございます」


「おはようございます! 今日は、若様をお願いしますね」


「はい、僕に任せてください」


「では、私は先に行きますね」


「緋夏、いってらっしゃい」


「行ってきます!」


 そう言って、緋夏は先に家を出た。


「さてと、それじゃあ霊の捕獲と依代についてだけど。まずは、僕についてきて」


「分かった」


 俺は、言われた通り渡さんの後を追う。


「ここは……」


「僕が入らないでって言った部屋だね」


 家での注意事項でいくつか入ってはいけない部屋を教えてもらった。一つは、渡さんの自室。もう一つは……。


「ここには、陰陽師としての仕事道具が入ってる。少し危ないから、気をつけてね。まぁ、君は強いしそこまで警戒するものでもないけど」


 この部屋は、俺も最初に見た時から妙な感じがしていた。

 だって、明らかな霊符がいくつも貼ってあるんだもん。


 俺がそんな事を考えていると、渡さんはゆっくりと部屋の扉を開けた。


「さ、ついてきて」 


 俺は、渡さんの後を追う。


「………………」


 この部屋に入って最初に感じたのは、たくさんの霊力。

 部屋の中には、よくわからない様々な道具がたくさんある。

 しかし、俺はそんな道具には対して興味が向かなかった。

 俺が気になったのは……。


「下……」


「流石、一瞬で気づいたか」


 俺が最も気になったのは、この部屋にある様々な道具ではなく、この部屋の下からくる霊力だ。

 霊力だが、少し異質というか人間から感じるものと少し違う。


「ここにある道具は、全て悪霊や妖怪を倒す為の道具だ。ここにある道具を使って陰陽師は戦う。何度か見せた事あるよね? 霊符」


 渡さんはそう言って、何か文字が書かれた札を取り出す。


「これを改造すれば多分君でも使えると思う。というか、多分ここらへんの道具も一から妖力で発動するよう作れば、使えると思うよ。でも、君はこういう道具よりも妖術や素の力を使ったほうが効率的に戦える」  

 

「そうだな。陰陽師という響きに惹かれていたが、ここにある道具を見るに妖怪として戦ったほうがよさそうだ。ただ、やっぱり興味はある。知識として頭に入れてたい」


「ははっ、君は最強の妖怪になりそうだね。妖怪の力を使いながら陰陽師の知識もある。君が使うのに良さそうなのは……やっぱり式神かな」


「式神!」


「君も一度は聞いた事あるんじゃない?」


「紙に霊力を込めてやるやつだっけ」


「そういうやり方もあるね。その他にも、それ含めて式神の分類は全部で三つ存在するんだ」


「三つ?」


「一つ目が思業式神しぎょうしきがみ。陰陽師の思念から創造された式神で、作り出した陰陽師の能力がダイレクトに反映される。形態に一番バラツキが出る式だね。基本的に作り出した陰陽師のサポートを中心に行う。少し弱体化した分身として使う陰陽師がほとんどかな」


「ふむふむ」


「次に二つ目、擬人式神ぎじんしきがみ。一番使われてる形で、紙や藁、草木で出来た人形に霊力を込め作る式神。意志を持たせるかどうかで、霊力の必要数と式自体の強さが変わる。意志を持たない式は下位式神、意志を持たせた式は、上位式神。形態は霊力を込める人形の形によって変動するよ」

 

「よく見るのはこれだな」


「これで最後、三つある分類の中で最も強い式、悪行罰示式神あくぎょうばっししきがみ。過去に悪行を行った霊や妖怪を打ち負かし、服属させた式神。三つの分類の内、最も強い式だけど、最も扱いが難しいんだ。術者が式よりも弱ければ、その式に殺される。悪いケースだと殺すだけじゃなくて食われる事もある。霊力が豊富な陰陽師は、強くなるのに手っ取り早い餌だからね」


「俺がやろうとしてのはこれか」


「扱いが難しいけど、鬼神である酒呑童子を調伏した千弦なら問題ないと思うよ」


「具体的な方法はどうやるんだ?」


「それは君が言った通り、悪霊や妖怪を依代に封じ込めるんだ。強力な力をもつ奴ほど、強力な封印が必要になるけど」


「そこで依代、なるほど、要領はコレと一緒か」


 俺は、懐から酒呑童子が封じられている鬼面を取り出す。


「君は、最強の式を持っている。陰陽師は少しずつ弱体化していっていてね。昔のように術を自由自在に扱う者など、上位の名家だけだよ。他のものは皆、霊符や霊力のこもった武器……霊器、そして式神が主力だ。みんなして悪霊や妖怪の取り合いさ」


「通りで悪霊を欲しがったわけだ、にしても弱体化か。大変だな」


「ほんとにね、人は減らず悪霊は増え続ける一方だと言うのに、対抗するすべを持つ者は減り続けてる」


「分かった、俺が必要ないと判断した奴は渡さんにあげるよ。陰陽師をもっと盛り上げてくれ」


「助かる。それじゃあ、式神についての説明は大体終わったから君が気になってる地下に案内しよう」


 そう言って渡さんは、床にある鉄の扉を開く。


「っ! これはまた凄いな」


「地下にいるのはこれまで僕が捕まえてきた飛び切りの悪霊達だよ。外に影響を及ぼさないように、ここに封印してる」


 地下には、数人程が入れる空間があり、上から見えるだけでもかなりの数の御札がある。中にはすごく黒ずんているのもいくつか見えた。


「もう替え時か」


 渡さんは、部屋の中でそう呟くと地下に降りていった。

 俺も、それに続いて地下に降りる。


「封印の依代は種類が沢山あるんだな」


 そう、地下に降りると瓶から急須など、様々な形の依代が置かれていた。


「種類っていうか、蓋が出来る容器なら基本なんでも良いんだよ。まぁ、容器が割れたら中の悪霊は飛び出してくるからある程度の強度は必要だけど。封じられてる間は術によって行動が制限されてるから、最悪タッパーとかでも封印は出来る。耐久がないからすぐ頑丈な依代に移さないといけないけどね」


 スラスラとそう説明しながら、黒ずんでいる御札を剥がし、高速で新しい御札を貼り替えていく。


「この黒ずんでるのはなんで?」


「術の耐久度、これが完全に黒く染まったら封印が解けて中のモノが出てくる」


「なるほど」


 渡さんは、集中しているのかいつもより真剣な雰囲気でどんどん御札を貼り替えていく。

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妖怪転生記〜妖鬼に転生し大妖怪を目指す! ニア @Oboro101

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