第3話:エピローグ

            ——3日後——


「退院おめでとう。新平くん」


「ありがとうございました。那須辺さん。僕、挑戦してみるよ、どんな結果になっても」


「えぇ。頑張って‼︎」


 僕は短く挨拶を交わしてから、病院を出る。


「新平を、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 玄関まで迎えにきてくれた両親が、那須辺さんに頭を下げる。


「ご退院おめでとうございます。新平君の体は、だいぶ良くなりましたが、まだ少しアザなどが残っている状況なので、腫れなどが出てきた場合は、これを塗ってあげてください」


 そう言って、那須辺さんは1つの紙袋を渡した。


「何から何まで、本当にありがとうございます。新平、行こうか」


「うんっ‼︎」


 僕は父さんの手を握り、最後に、那須辺さんに手を振った。


 那須辺さんも手を振り、僕を送ってくれる。


「明日から学校だけど、無理して行かなくてもいいんだよ」


 帰り道、母さんはそう言ったけれど、


「大丈夫だよ。僕、挑戦することに決めたから‼︎」


 僕はその言葉を受け入れなかった。


「でも…」


 母さんは心配そうだったが、僕の顔を見て、絶対に曲げないという意志でも感じ取ったのであろう。諦めたように、肩を落とした。


「じゃあ、行ってきます」


 次の日、僕は勢いよく家の玄関をあけ、学校へと向かった。


 母さんは、今日一日は心配だからと言って、仕事を休んだ。まぁその心配は、僕が学校へ行くと言った時点で、無駄だったのかもしれないが……


「おはよう高宮。もう元気になったのか。良かったじゃん」


 学校に着くと、久しぶりの友達との再会に、肩に腕を回した。


「おう。もうばっちしよっ!」


 いつもの僕なら絶対にやらない行動に、友達は少なからず驚いたようだ。


「あっはっは。元気有り余ってんじゃん。じゃ荷物置いたらグランド行こうぜ。授業始まるまで時間あるだろ」


「いいね。ちょっと体が鈍ってたんだ」


 僕らは教室へ駆け上がると、荷物を放り投げて、グランドへと向かう。


「よっし、サッカーでもするか」


 僕らはボールを蹴り合い、しばらく遊んでいた。


「高宮、ちょっといいか?」


 何往復かボールを蹴った後だった。


 不意に僕の名前が呼ばれ、肩に手が乗せられる。


 驚いて振り向くと、そこにいたのは田窪たった。


 急いでその場を離れ、僕は友達の後ろに隠れるようにして、睨みつけた。


「今更なんだよ。僕を病院送りにした奴が」


 僕は決して、あのことを許さないだろう。


 そう思っていた。


「ごめんっ! 俺、やりすぎた。ついカッとなっちまって、自分がわからなくなってた。本当にごめん」


 田窪は、僕に頭を下げ、全力で謝ったのだ。


 続けて田窪は言う。


「高宮がすんなりと俺を許してくれるとは思ってない。それを強要することもできない。だから、ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、俺と友達になってくれないか?」


 田窪の必死な姿に僕は、少しなら許してもいいのかもしれないと思った。


 頭の中に、那須辺さんの言葉が響いてきた。


『まずは一度、試してみたらいいじゃない』


 うん。僕は、試してみる事にするよ。那須辺さん。ありがとう。


「いいよ。まだ完全に許したわけじゃないけど……ねぇ、一緒にサッカーしようよ」


「おう、いいぜ」


 学校のグラウンドで3人の生徒が、朝から元気よく遊んでいた。

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決断の意味 EVI @hi7yo8ri

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