彼女と指輪と除夜の鐘(ラブコメ・SS・シロと隆と晴美ちゃんしシリーズ④)

源公子

第1話 彼女と指輪と除夜の鐘(ラブコメ・SS・シロと隆と晴美ちゃんシリーズ④)

「クリスマスも大晦日もお正月もバイト? 何なのそれ」

 晴美ちゃんの目がつり上がる。

「ゴメン、元日だけは休みだから初詣には行けるから。それで許して」

「隆くんったら、就職決まってからずっとバイト、バイト。欲しいものがあるって、いったい何にそんなにお金いるのよ」

「そ、それは言えません」


 君にあげる指輪を買うためです。

 お金が足りなくて、クリスマスに間に合わなかったんです……とは言えないヘタレの僕だった。

「隆くんのバカ! もう知らない」晴美ちゃんは怒って行ってしまった。



「ああもう、ほかほか弁当飽きたよ」

 一番安いのり弁を食べながらため息が出る。

飼い猫のシロは、おかかのついたシケシケの海苔とご飯を、文句も言わずに食べている。

「ゴメンな、晴美ちゃんにもらった猫缶もうないんだ。明日買ってくるから」


 怒って帰ったのにクリスマスの夜、郵便受けに手編みの帽子とマフラーと極上の猫缶が入ってた。

「アルバイトがんばってね」と、カードも添えて。晴美ちゃん大好きだよ!


 あれから朝から晩まで道路工事のバイトでヘロヘロ。 

もちろん自炊なんてできやしないし、そんな時間あったら働きたい。

 だけどあんなちっこい石一つ、なんであんなに高いんだろう? 

 貧乏大学生の身には不相応な買い物だし、就職して給料もらってからの方が楽だけど、でも僕は卒業までにはっきりさせたい。

 だって僕はまだ一度も彼女に確かめてないんだ。

 “僕のこと好きですか。付き合ってくれますか”って。



 もともと、サークル仲間の集まりでみんながうちに来た時、猫のシロを晴美ちゃんが一目で気に入り、僕以外には懐かないシロが、晴美ちゃんに懐くという異常事態が起こった。

 それ以来、晴美ちゃんはシロに会いたくてしょっちゅううちに来るようになり、当然飼い主の僕とも仲良くなって、いつの間にか僕たちは公認の恋人同士と周りに思われてる。

 でも、僕はいまだに分からない。晴美ちゃんが好きなのがシロなのか、それとも僕なのか。





「あら、コレ私の誕生石だわ。このくらいなら私でも買えるかな」

テレビを見ながら、お揚げさんをふうふうしていた晴美ちゃんが言った。

せっかく遊びに来てくれたのに、仕送り前でお昼がカップ麺しかなかったんだ。


 赤いきつねはシロの好物で、晴美ちゃんは二つ折りにしたチラシの上で、猫舌のシロにあげるうどんとお揚げさんを冷ましていたのだ。


「はいできました。お揚げさんは塩っぱいからちょっとだけよ」

 シロは嬉しそうに食べていた。


 でも、CM画面がジャパ○ットのたか○社長を映すと、突然テレビ画面に猫パンチを入れた。


 この頃、シロはたか○社長の甲高い声が聞こえると、反応するようになった。

 それも決まって指輪の販売の時だ。なぜ指輪なんだろう?


「私、指がゴツくて指輪似合わないのよね。先祖代々、お百姓さんの家系だからかな」

「そんなことないよ、働き者の良い手じゃないか」 

 僕が言うと

「だって私の指サイズ15号よ、男並みなんだもの」

 晴美ちゃんはため息をついている。


「ニャァ!」

 不意にシロが一声鳴いて、僕を睨んだ。物凄い目力だった。

 その時、僕は思ったのだ。彼女に似合う指輪を買って、きちんと申し込まなきゃと。



「もう、紅白終わった頃か……小林幸子見たかったな」

大晦日。バイトから疲れて帰ると、郵便受けにコンビニの袋。

中身は赤いきつねと緑のたぬきと猫缶。そしてはるみちゃんのメモが入ってた。


「狸は年越し蕎麦代わりです。サークルの会長に聞いたわ、私のためなら無理しないで。初詣楽しみにしてます」


 それを見た時、僕は初めて晴美ちゃんが、僕がバイトをしている理由に気づいてたんだと分かった。

 晴美ちゃん、大大大好きだあー!


 行く年来る年を見ながら、お湯を沸かしてカップ麺を二つ作る。除夜の鐘が鳴り出した。


「来年は、晴美ちゃんと三人で紅白見ような」

シロのために、チラシに赤いきつねを乗せて、冷ましながら僕は言った。


「ニャーン」シロは嬉しそうに待っている。

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