~序章⑤~

"平桜鎮"に着いてまず目に入ったのが、焼け焦げた桜の樹々であった。来訪者達はこれを見てこの街に何が起きたのか語らずとも分からざるを得なかった。


人の往来に付いていくと今度は別の意味での衝撃を受けた。


かつて帝国有数のバザールであった四ノ市は今や、裸にされた老若男女が並んでおり、売り手と買い手だけが人間であった。


従者が耳打ちする。


「殿、姫様の視界にコレを入れますか?」


王彰は頭を掻き、荷物下げにある絹の布を切り、少女王明林の目を隠した。


「何をする王彰、無礼でないか!」


明林は一生懸命覚えた言葉で王彰を口撃する。恐らく母君王明様の言葉であろう。


「今から通過する路は姫様の教育に悪い物ばかりで御座いまして・・・」


「・・・ッ!?」


少女が怯えたのも言うまでもない。奴隷の競りの開始の銅鑼が鳴ったからだ。


「行きましょう。銅鑼と競りで周囲の意識が散っている」


「・・・」


——はじめはコチラ!!石切工18人!!絹墨江上流域にそびえ立つ天宝山の石切場で捕らえました。彼らが切れない石なぞこの世に無い!!



——皆さんもご存じ帝都攻略戦!!我が軍の攻城砲の石球は陥落するまで遂に城壁に風穴を開けるに至らなかった!!それもそのはず、城壁は世界で最も堅固な石である"天宝堅石"で出来ていたからです!!その石を容易に切れる、それ以外の石は鎧袖一触!!撫で斬りにできるでしょう!!サァ買った買った!!初値は十万子銀!!



——老人が何に役立つかって!?新品の弓矢はお持ちですか!?敵から奪った剣はありますかッ!!試し斬りにお勧めです!!持ってない!?では女房の新料理の味見役とかどうでしょう!?一頭の羊で五人交換出来ます。あ、ここで斬らないように!!商品が汚れます。あと間違えて普通の老人を射殺さないように!!



——そこの兄さん!この女はどうだ!?肉付きが良いだろう・・・え?顔が醜いだって!?そんな事はありませんよォ。こういう女ほど一度抱けば癖になりますよ!!それにホラぁ!!おっぺぇがデカイ!!鷲づかみが出来る!!さぁ布を被せば、一品級の女の出来上がり!!頭より金玉に聞いたほうがエエですよ!



——農牧の民に飽きたって!?それならコチラが宜しいでしょう!!乾原の民の奴隷です。やはり皆さんお目が高くわざわざ此処まで連れてきた甲斐がありますよ!!



——奴隷市場のどさくさ紛れに同胞である草原の民が売られていると聞く!!!その情報を提供すれば、一件で子銀一袋報酬でやる!!



「・・・下種野郎共め!!」


従者の"貂彰"が憤る。


「何が醜女だ!民の——女性を侮辱しおってわ!!」


「貂!落ち着け」


「もう我慢の限界ですよ!殿!!不逞の輩が殿に弓を構えていましたよ。思わずたたっ斬る所でした!」


王彰は笑い


「上々だ。感情を支配する事が名将への一歩也。お前には一仕事せにゃいかん。さぁ行け」


貂は再び市場へ戻った。目隠しを外した王明林は会話聞いていたようで


「一仕事?」


と言うと、王彰はニヤリと


「まァ、ご覧じて頂きたい」


奴隷市場に戻った彭貂は縦横無尽に駆け回り、市場の状況を叩き込むと、入口の兵に


「地図を見せてください。同胞を売る商人の位置を記したいのですが・・・」


彼は兵に対し、詳細な位置と値段、人、買い手など細かく報告し、合計八袋の子銀袋を手に入れた。


こうして両手に銀袋を掲げ、姿を現した貂はニカッと少年から青年への過渡期特有の可愛らしさを見せつけた。彼の母親がいたなら卒倒していただろう。


「大漁です。殿」


明林は納得し、王彰は頷いて


「これで旅銀は揃った。今日の宿は知り合いの者を頼ろう。・・・死んでなければ良いのだが」




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風家八武人伝 @kurebayashi-mikumo

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