第2話 だからさ、女性2対男1は厳しいって

金持ちってわけじゃないが、金の使い道がないから頻繁に外食をしている。

近所の店はあらかた行ったことがあるから外食には飽きかけていたが、最近はそうじゃない。

なんでかって言うと…って、アイツだ。


「や、また会ったね。」


「久しぶり。ってわけでもないな。3日ぐらい前か?」


「そうか、そんなに経つんだね。ま、これも何かの縁さ。奢ってよ。」


「そういうと思いましたよって。」


そう軽口を叩きながら春香と再会する。

この不思議な少女にまた会えるんじゃないか。その思いだけで飽きてきた外食も新鮮になった。


「今日はどこに行くんだい?」


「どこにするよ。歩きながら考えるわ。」


「楽しみだねえ。」


都合よくタカられているように感じなくもないが、嫌な感じはしないので一緒に歩き始める。

さて、どこに行こうか。



***



少々悩んだ末、俺は比較的よく行くカフェ、ラヴェンナを選んだ。


「いらっしゃいませー。て、蒼井じゃん。どうしたのそんな可愛らしい女の子と一緒に来て。」


「なんでもねーよ。とりあえず、2名だから。」


「はいはい。後で詳しく話を聞くからね。こちらの席へどーぞ!」


内心ニヤニヤしているであろう彼女を片目にテーブル席に春香と座る。

心なしか春香もニヤニヤしている気がした。


「蒼井、君はここの常連なんだねぇ。私もこのカフェの常連になっても…ん…?いいスパイシーな匂いが…」


ここのカフェはコーヒーだけでなく、様々な料理を提供している。その中でも人気なのが特製カレーだ。値段が高いわけでもないので、俺はよくカレーを食べに来ている。それに、程よく静かな店で落ち着ける場所だったのもある。

まあ…春香がいるから静かにはならないだろうし、一人で来ていた時も静かじゃない方が多かったかもしれない。


「ねえねえ蒼井。この子だれなのよ。」


「誰って言われても…なぁ?」


「私の名前は春香。良く言えば蒼井の友人兼食客。悪く言えば彼のヒモだよ。」


「ヒモって!笑えるんだけど!」


「ふっふっふ。笑ってくれて構わないよ。」


「あーおもしろ。私の名前は霞。よろしくね。」


「よろしく。あとで蒼井のことを詳しく聞かせてくれるかな…と、私はこのラヴェンナカレーとやらを頼みたいんだが…」


春香はメニュー片手に店員の霞と談笑しながら注文する。

このカフェの唯一の店員、霞。

人が来ないわけではないが、盛況というわけでもないこのカフェの仕事はまあまあ暇らしく、しかも俺のような年齢の客は珍しいとのことで、よく接客ついでに俺に話しかけてくる。

気づけば軽口を叩けるぐらいの仲になっていた。

一応店長も、他に客がいない時はそれを許しているらしい。不思議なことに、その店長を見たことはないのだが。


「で、蒼井。あんたは?」


「俺も同じカレーにするよ。」


「はーいお揃いのカレーね。ちょっとまっててね〜。」


そういって霞は厨房へと入っていった。


「君、彼女とはどういう関係なんだい?恋人かい?」


「ちげーよ。まあ…行きつけの店の店員とちょっと顔見知りってだけの話だ。」


「それにしては結構親密に見えたよ。それに、君と年も近そうだしやっぱりカップル…」


「だからそんなんじゃねえって。」


茶化されたせいか俺は直ぐに顔を逸らした。

春香はまたしてもニヤニヤとしてる気がした。



***



「はーいお待たせしました。当店特製のラヴェンナカレーです。ごゆっくりと…てのはもういいか。今他に客いないし。」


霞がカレーを運んできた。何故か3人分も。


「一応春香とは今日が初めてなんだからもうちょっと店員ぽくしろよ。」


「え〜…」


「私は別に構わないよ。逆にいつもの蒼井と霞の距離感を知りたいしね。」


「だよねだよね。じゃ、3人で食べよっか!」


やっぱり謎のプラス1は霞用のものだった。


「さっきから気になっているのだが、この店は霞1人で経営しているのかい?」


カレーを早速頬張りながら春香がそう尋ねる。

てか、食べるの早えよ。もう春香のカレーの4分の1が減っている。


「ん〜ちがうかな。一応店長が居て、私はその雇われって感じ。その店長はあまり来ないし、客も昼間に爺さん婆さんしか来ないから私が自由気ままにやってるってだけかな。」


「ほうほう。半分趣味半分バイトってことなんだね。」


「そういうこと。…ってそんなことはさておいて、春香、蒼井とはどういう関係!?めっちゃ気になる!」


霞と春香の2人がこっちを見る。

いや、見られても。どう説明しろと。


「説明していいいかい?」


「…へいへい、構いませんよっと。」


そう言うと、春香はここまでの経緯を全部話した。

喧嘩に負けたところを助けたこと。

お礼に奢ったこと。

その後ちょっと仲良くなったこと。

全部全部。やましい事じゃないのにちょっと恥ずかしかった。

霞が食い気味に話を聞いていて、時折こちらを見てきたのが恥ずかしさに拍車を掛けていた。



***



そんなことを話していたら全員カレーを食べ終えていた。食べ終えるころには2人ともかなりニヤニヤしていた気がする。


「へー!蒼井がねー!喧嘩でボコボコにされてるなんてね!」


「うっせえ。」


「いいじゃんいいじゃん。面白いし!」


「俺は面白くねえよ全然。」


「私も面白いよ。君にこんな友達がいたなんてね。」


「さいですか…」


2対1。1対1で似たような状況は今まであったが、それよりも大分恥ずかしかった。


「あ、そうそう。お代は420×3で1260円ね。」


「なんで店員のお前の分も払わねえといけねえんだよ。」


「いいでしょいいでしょ。減るもんじゃないし!」


「蒼井、女性には優しくするものだよ。」


「はいはいわかりましたよーっ。払えばいいんだろ払えば。レジに置いといてやるよ。」


そういって俺は席を離れる。

2対1がこんなにも男に厳しいものだったとは。

この店選ばなきゃよかったかな。


…でも不思議と嫌な感じはしない。

なんだか楽しかった。またこういうことがあったらいいなと思えた。



***



「さ、彼がいない間に。」


「いない間に?」


「ガールズトークといこうじゃないか」


「…!いいねそれ!」

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喧嘩を売られる→少女に助けられる→お礼をせびられるけど悪い気はしない→仲良くなる… タロー @keltosan

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