喧嘩を売られる→少女に助けられる→お礼をせびられるけど悪い気はしない→仲良くなる…

タロー

第1話 出合いっていいものだよね。捨てる神あれば拾う神って言うし

あーいってぇ…

痛えよ馬鹿…

なんでこんなに蹴られないといけねえんだ…

ちょっと顔があっただけ。それだけで集団でリンチにするか?普通?


「おっ、こいつ相変わらず生意気なくせに金は結構持ってんじゃん。」

「マジやん。貰ってこーぜ。」

「いくら入ってる?数えよーぜ。」


ちょっと外出するだけで地に伏すことになって、リンチに合うなんてツイてないってレベルじゃねーぞ。


…って…ん?急にあいつら黙り込んでどうした?行ったのか?


「おーい、大丈夫?取り敢えずこいつらボコしたけど。怪我はない?」


気づけば周りの不良たちは音もなく倒れて気絶していて、なんだか雰囲気のある1人の少女だけが立っていた。


「とりあえず、助けてあげたんだから何か奢ってもらってもいいかい?」



***



ただいま夜9時。

近所の食べ放題焼肉屋、じゅうじゅう亭に来ている。

ファミレスにしようと思ったが、コイツが不服そうな顔をしてきたので仕方なく焼肉にすることとなった。

まあ…まだ俺も晩御飯食べてないからいいんだけど。


「ひゃぁー!久しぶりの焼肉!いいよね!?好きなだけ食べていいよね!?」


「いいよ。食べ放題だし。」


俺の財布は全然良くないが。

助けてくれた時とは印象も雰囲気も変わったコイツは目を輝かせながら肉を焼き始める。

せっかく2人分の料金を払ったのだから俺も存分に食べることにし、俺も肉を焼き始める。


それと同時にコイツのことが気になってきた。

見た目は12かそこらってところの見た目のコイツが、なんで夜中1人で外にいるんだよ。


「なあ…親は?」


「ん?私?親はいないよ。」


「…ごめん。」


「んー?いいよいいよ。親なんてどーでも。」


早速地雷を踏んでしまった。

が、ますますコイツのことが気になってきた。


「名前、何ていうんだ?」


「名前?私の名前は…ん〜…」


焼き上がった肉を取りながら何かを考えているようだった。名前を聞かれて考えるって何だよ。


「私の名前は春香。君は?」


「俺は蒼井。名字は…まぁ、いいか。」


「蒼井って言うんだ。いい名前だね。」


「どうも。」


春香は肉を頬張り、口をむぐつかせながら名前を答えた。

というか春香のやつ、焼き上がるのが早いタンばっかり食っていやがる。俺が焼いた分も取るんじゃねえよ!!


「私も聞きたいことあるんだけどさ、なんであんな大人数にやられてたんだい?ケンカってわけじゃなさそうだし。もしかしてカツアゲ?」


「いや…ちょっと違うな。今俺、高校生でさ。さっきリンチにしてきた奴らは、俺が中学生だったころ仲が悪かった連中だったのよ。」


「ほうほう。それでそれで?」


春香は相変わらず肉をバクバク取りながら話を深掘りしてくる。


「まあ…中学のとき受験関係で俺はあいつらを馬鹿にしまくってたんだよ。それで色々あって…話が大きくなっちゃって…ゴミみたいな争いが起こって…中学の知り合いとは超が付くほど仲が悪いんだよ。」


「で、復讐心に燃えるさっきのチンピラたちに襲われたわけね。一体何やったかは聞かないけど、随分君も酷いことをしたんだねぇ。」


「まあ…な…」


気づけば、春香は店に来た時のような無邪気さが消えて、助けて貰ったときのような雰囲気に戻り始めていた。

そして今度は分厚いロースを焼き始め、またもや俺に話を振ってくる。


「ま、今後もあのチンピラ達に絡まれてたら助けてあげるよ。私は暫くこの辺にいるつもりだし。」


「いいのか?」


「いいよいいよ。その時その時何か奢ってくれれば。」


「だろうな。」


しっかし、この春香ってのはほんと何者なんだ?

子供…にしか見えないが、子供とは思えない落ち着いた喋り方をしたと思えば、焼き肉を前に目を輝かせて、ケンカも強い。

考えれば考えるほど春香のことが気になってしまう。


「ん?私の顔に何か付いているのかい?そんなにジロジロ見て。」


「いや、何も。」


「よかった。ずっと目が合うものだから何かあるのかと。」


そういうと春香は今度はハラミを焼き始めた。

それと春香は、こちら少し見たような気がした。


***



その後は、他愛のない話を続けた。

趣味は何だの、夢は何だの。

そういったことを話していたら、気づけば10時になっていて、食べ放題の時間は終わっていた。


「食べた食べた。蒼井、今日はありがとうね。」


「へいへい。充分満腹になれてよかったですね。」


そう軽口を叩きながら店の外へ出る。

季節は今秋で、火で暖かかった店の中とはうってかわって少し寒い。


「ねえ、君は店から出た時の、こういう寒さを趣深いって感じるかい?」


「どした、やぶから棒に。」


「いいから。」


「感じる…かな。」


「良かった。そういうのはちゃんと感じるんだね。」


どういう意味だろう。

そういうのはちゃんと感じる?何か俺に変なところでもあったか?


「君も君で大変なんだろうね。頑張れとは言わないけど、良いことあるといいね。」


「…ありがとうな…」


「どういたしまして。じゃ、またいつか。」


そういって春香と別れた。

連絡先を交換したわけじゃなかったが、何故かまた会えるような気がした。

それと、不思議とまた会いたい気持ちが溢れてきた。

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