第1話

 俺の能力は「水を自由自在に操る能力」だ。能力を発動すると、どこからともなく水を生成でき、氷や水蒸気に変化させて投げたり壁を作ったりできる。

 だが、俺はまだこの能力を存分に活用できるところまで行っていない。そのため、今は政府の下っ端すら倒せるか怪しい。

 なので、俺は自分の能力をある程度活用すべく親友の「夜月よづき 沙羅さら」と能力の特訓を毎日の昼頃にしている。


「ほらほら、連射速度が落ちてるよ〜!しっかりして!」


「うぐっ、これ以上はきちぃな・・・。」



 沙羅の能力は「ステータスに変化を加える能力」だ。自分や味方のステータスを一部を伸ばすことができる。

 だが、伸ばした分だけ他のステータスを落とさなくてはいけないというデメリットも存在する。

 さらに、熟練すると上昇分はそのままでステータスの落とす分量のみを減らすことができるようになる。

 彼女は普段から能力を生活に多用しているので能力の扱いが上手だ。そして、りんね姉さんへの恩返しのため、この独裁政府の改革を手伝ってくれている。


「仕方ないなぁ〜。少し休憩する?」


「申し訳ないが、その方がいいかもしれない。」


「じゃあ、10分後再開ね!」



 沙羅はりんね姉さんと仲がよく、幼い頃はよく一緒に遊んだりしていた。互いに成長していった後も関わることが多く、よくお茶会をしていたほどだ。

 そんな仲のよかったりんね姉さんが政府の襲撃によって亡くなったと聞いたときはとても悲しんでいた。

 この改革を手伝ってくれている理由には政府への復讐の意味も込められているのだとか。どっちにしても、この独裁政府はなんとしても許せなかった。


『我ら迦楼羅かるら政府はこの国の中枢を握り、君達国民は我らの政策に従うことだけをお願いしたい』

 迦楼羅政府はその言葉通り、次々に政府にとって都合の良い政策を打ち出して国民の行動を固定化していった。

 ついには行動の強制的な制限も始まり、国民の不満は増す一方となっていった。


 そんな中、りんね姉さんを筆頭とする政治改革グループが誕生したのだった。

 姉さんを筆頭とする政治改革グループは抗議活動を政府の重要機関の前で行なったり、政府に対して声明を出したりとかなり政府に対して抵抗していた。

 そんな改革の動きが徐々に広がっていき、政治がなかなかうまく行かなくなってきたからか、政府はついに姉さんの政治改革グループを襲撃したのだった。


 その時の政治改革グループの規模はかなり増大していたために政府の鎮圧隊と改革グループの間で一進一退の激しい攻防が繰り広げられたのだった。

 そして、激しい戦闘の末にたった1組の幹部による姉さんの暗殺によって改革グループは士気がなくなり次々に劣勢となって滅ぼされていったという。

 最終的にその改革グループは勢力を失い、完全に消滅してしまったらしい。



「お〜い、なぎ?聞いてる?お〜い!」


 俺はそんな声掛けと共にふと我に帰る。


「ああ、すまん。何か言ったか?」


 俺はそんなことを言うと沙羅は、


「もう10分はとっくに経ったよ!早く訓練再開しないと!」


 と訓練を再開しようとする。


「・・・・もしかして、りんね姉さんのことをまた考えてたの?」


 沙羅はニヤッとした表情でそんなことを聞いてくる。その質問に俺は、


「いやっ、そんなことないし!少しぼ〜っとしてただけだし!」


 とわかりやすい嘘をとっさについてしまう。そんな俺の発言に沙羅は苦笑しながら、能力の訓練を再開する。

 実は俺、りんね姉さんが亡くなったことを少し信じていなかったりする。姉さんの遺体はこの目でしっかりと見てしまったが、それでもなぜか近くにいる様な気がして信じきれていない俺がいるのである。


 俺は幼い頃から姉さんにとても助けられてばかりだった。それこそ、姉さんがいないと生きていけない程に。

 幼い頃は姉さんが近くにいないと寂しくて泣き出してしまう程だったし、俺がいじめられていた頃には姉さんが全て解決してくれていた。

 今こそ、1人でもなんとかできるようになっているが姉さんがいた時の方が安心感はずっと大きかった。

 両親も居たには居たが、俺が物心つくまでに病気で他界したため、姉さんと2人で暮らしていた時間の方が長かった。


 そんな中、政府の襲撃によって姉さんが殺されたことによって俺の喪失感は一時期、自我を失いかける程にまで大きくなった。

 だが、その喪失感によって自我を失わずに済んだのは親友の沙羅のおかげだったりする。

 そんな彼女と共に政府を改革することができるというのは俺にとっての使命を示しているのかも知れない。


「おっと、かなり能力の質が上がってきたね!このままコツを掴んじゃおう!」


 俺が過去の記憶を振り返りながら能力の訓練に励んでいると、沙羅はそんなことを言ってきた。俺は無意識のうちに能力の扱いにかなり慣れてきていたらしい。

 そして、俺と沙羅はステップアップした能力の訓練へと難易度を上げていった。もちろん、姉さんの願いを叶えるべく努力を惜しまないようにはしていた。



 それからしばらく訓練を続け、休憩を取ろうとしたその時・・・、


『ボゴォォン!!』


 自身から少し離れたビル街の方角から何やら爆発のような轟音が聞こえてきたのだった。

 最近の騒動というのはこの独裁政治に対する不満による市民の暴走か、企業の反抗行為に対しての政府の弾圧部隊による襲撃によるものが多かった。

 もし、政府の弾圧部隊による襲撃なのであれば姉さんのように大きな被害を受ける人がいるかもしれない。

 俺と沙羅は一瞬目を合わせ、暗黙の了解でその現場へと向かう。俺たちには政府の暴挙を許す余地が全く無かったのであった。

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2024年7月1日 20:00 毎週 月曜日 20:00

姉の願いを叶える為の社会改革 かみゅ〜なぎん @nagirein

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