第7話 ジョブを付与するスキルの検証

 次の日。

 俺は朝っぱらから街の共同鍛治場に来ていた。


 ここは自分の鍛冶場を持たない鍛治師が集まり、共同で鍛治を行う場所である。

 冒険者ギルドが経営していて、冒険者ギルドに登録している鍛治師なら誰でも使える。

 俺も自分の鍛冶場なんて持っていなかったから、ここに来たというわけだ。


「あっ、アルベルトさん! お久しぶりです!」

「ああ、久しぶりニース」


 赤髪サイドテールの彼女は鍛冶場で手伝いをしている鍛治師見習いだ。

 他にも数人、鍛治師見習いがここには居て、彼ら彼女らは手伝いをしながら技を盗む。

 やりたきゃ勝手に学べ、勝手に盗めのスタンスだった。


「今日も研磨だけですか?」

「いや、新しい武器を作ろうと思う。と言っても簡易的な短剣だけだけどね」


 俺が新しい武器を作るのは久しぶりだ。

 三年近く作っていない。

 パーティーは固定だったし、メンバーは戦い方が荒かったから修繕や維持で忙しかった。

 前に作った時は、メンバーの一人が大剣を壊し、新しく作り直した時くらいか。

 まあ解体用のナイフだったり、調理用の鍋だったりはちょくちょく作っていたが。

 パーティーで鍛治師を抱えるのは、武器の修繕は作った本人にやらせたほうがいいってのもあるし、そういったちょっとした道具類がすぐに必要になるからってのもあった。


「おおっ! アルベルトさんの新しい武器ですか! 楽しみです!」

「最近作ってなかったからな。腕が落ちてないといいが……」


 俺はそう言いながら準備を始める。

 インゴットの選定から合金の調合率の選定などを考えていく。


 しかし……もし俺の武器にジョブを付与する力があるとしたら、その付与するジョブって選べるのだろうか?

 自分で付与するジョブを選べたら強いどころの騒ぎじゃないと思うけど……。

 自分で言うのもなんだが、世界のパワーバランスが俺一人で狂うほどな気がする。


 俺のスキル欄には二つ、謎のスキルがある。

 その片方がジョブを付与するスキルなのだと思うが。

 勝手に付与されていたことからパッシブスキルだと思うけど、少しくらい自分で操作できそうな気もする。


 ……うん、ちょっと実験がてら一本作ってみるか。


 俺はニースに手伝ってもらいながら準備を進め、熱した合金を型に入れると叩き始める。

 カンカンという甲高い音が響き始めた。


 そのタイミングでスキルが発動するのか。

 俺は自分の体に注意を向けながら叩いていく。


 そして——。


「ここか……」


 思わず呟いていた。


 スキルが発動した時の体が勝手に動く感覚。

 鍛治スキルでも何度も体験してきたが、それとは少し違う発動の感覚だった。

 体の中から力をひねり出したような感じだ。

 言うて、鍛治スキルとの感覚の差はほぼないから、よく観察しないと分からないレベルだ。

 おそらく今までは無意識に鍛治スキルの一種として認識してしまっていたのだろう。


 力がひねり出されている間、俺はその力に意識を向ける。

 ……なるほど。

 これがジョブの原型となるモノだろう。

 この力の量で付与できるスキルが変わるのかな。

 思えば以前、勇者の剣を作った時なんかは疲労感が半端なかったしな。


 しかし、この付与されるジョブを変えるのってどうやるんだろうか?

 打つごとに変わるってことは、何かしら方法があると思うんだが。

 感覚的にもできそうな気がするけど、これは試行回数を重ねないと無理だな。


 そう思った瞬間、俺の目の前に半透明の板が現れた。

 ステータス鑑定するときに水晶に触ると現れるアレと同じだ。


――――――――――

使用可能MP:20


スキル一覧

・希少ジョブ

**:500/勇者:100/神聖騎士:50/重騎士:50/曲芸師:50/賢者:100/魔導鍛治師:100・・・・・

・通常ジョブ

剣士:20/短剣士:20/大剣士:20/槍士:20/魔法士:20/計算士:20/鍛治師:20・・・・・

――――――――――


「これは……」


 これで付与するジョブを選べるのか……?

 使用可能MPとあるが、ジョブの後ろに書いてある数字が必要MPなのだろうか?

 ってことは、今は希少ジョブは付与できないっぽいな。

 この使用可能MPを増やすにはどうすればいいのだろうか?


 まだそこらへんはよく分からない。

 だがいったん通常ジョブの短剣士を選んでみる。

 すると微かに熱された剣が青白く光った。


 ……これで短剣士を付与するスキルが追加されたのだろうか?

 あとで教会に戻ったら確認してみないとな。


 そんなことをしながら打ち続け、短剣が一つ完成した。

 冷まして研磨して、終了だ。


「さすが、惚れ惚れする出来栄えですね」


 出来上がった短剣を持ち軽く振りながらニースが言った。

 確かに三年ぶりにしてはよくできた。

 あまり腕は落ちていなかったみたいだ。


「さて。これをあと十一本作るぞ」

「そ、そんなに作るんですか……?」


 子供たちは十二人いるからな。

 誰か仲間はずれにするのもかわいそうだし。

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勇者に追放された鍛冶師、何故か勇者になってた AteRa @Ate_Ra

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