第6話 崩れゆく勇者パーティー

――勇者パーティー・サイド――


 その頃。

 勇者ジンたちは初日の探索を終え、ダンジョン内の休憩所で休息をとっていた。

 ダンジョン内には休憩所と呼ばれる魔物不可侵領域が転々と存在し、ダンジョンに潜るときはそこを使って休みを取る。

 広々とした階層を何十層と突破しなければならないダンジョン攻略は、数日がかりというのが大半だった。


「何なんだ、何なんだよ、くそっ……!」


 休憩を取っている勇者パーティーの空気は最悪だった。

 ピリピリとした雰囲気だ。

 ジンの悪態にも他のメンバーは俯いて黙って聞いているだけだった。


「なんでこんなに力が出ないんだ……! あのレチムってヤツ、偽物だったのかよ、ちくしょう!」


 そう叫んで壁を殴りつけるジン。

 拳から血が流れるが気にしない。


「リーダー。ちゃんと魔法は発動してる……」

「ああ!? なんか言ったか、おい!」


 ジンは控えめに告げたメンバーにガンを飛ばし大声で脅す。

 それにメンバーは肩を縮こまらせて黙ってしまった。


「どいつもこいつも使えねぇ……! 特に鍛冶師って奴ヤツだ! なんであんな無能しかいないんだ!」


 もう一度ジンは壁を殴りつけた。

 こめかみの血管は怒りで浮き上がりすぎて、今にもプツリと切れてしまいそうだ。


「……いったんダンジョン攻略は終わりだ」


 ボソリと言ったジンに慌てたようにメンバーは言う。


「で、でも、リーダー! そんなことしたら攻略報酬もらえないっすよ!」

「そうですよ! もう60%近くは攻略したんですから……!」


 考え直すよう暗に伝える言葉に、ジンは唾を飛ばしながら怒鳴る。


「うるせぇ! おめぇらも使えねぇんだからつべこべ言わずに俺に従え!」


 その言葉にメンバーも立ち上がり、大声で反論を始めた。


「そもそも! いつもアンタは怒鳴ればなんでも解決すると思ってますよね! そういうところ、ホントきもいんで止めてもらっていいですか!?」

「僕も前々から思ってましたよ! すぐ怒鳴ったり無能とか決めつけたり! それだったらアンタだって無能じゃないか! 幼馴染だからって使えない鍛冶師を連れてくるし、そもそも勇者として中途半端なんですよ!」


 言い返され顔を真っ赤にし、プルプルと震えだすジン。

 流石に不味いと思ったのか、メンバーはじりじりと出口に近づき、そのまま駆け出してしまった。


「あっ、おいっ! お前ら、逃げる気か!」


 そう叫ぶジンの言葉に返すことなく、メンバー二人はダンジョンから出ていってしまった。

 おそらく希少な脱出石だっしゅつせきも使ったことだろう。

 しばらくジンはふうふうと肩で息をして怒りを落ち着かせる。

 それから酷い憎しみのこもった低い声でこう言うのだった。


「どれもこれも全部あのアルベルトの野郎のせいだ……! あいつさえ、あいつさえいなければ……!」

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