第5話 孤児院での思いつき

 さらに次の日の早朝。

 俺は教会に来ていた。

 孤児院での仕事が始まるのだ。


「これからよろしくお願いしますね、アルベルトさん」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 ニッコリと微笑んで言うルーシャに俺は軽く頭を下げて言った。


「それではこちらについてきてください。早速朝食作りをしましょう」


 歩き出したルーシャを俺は追う。

 ルーシャは歩きながら朝食の献立について話し始めた。


「うちでの朝食は基本的に野菜とコンソメで作ったスープですね。だからそこまで手間ではないので、これからはアルベルトさんと私で交代交代で作っていきましょう」

「ああ、了解した」

「まあ最初の一週間くらいは一緒に作りますので、それで作り方を覚えてください」


 そんなことを話しつつ孤児院の建物を出て教会の調理場に辿り着く。

 孤児院の建物と教会の建物は隣接はしているが別々だ。

 しかし孤児院には調理場がないらしく、わざわざ教会に来て作るらしかった。


 そしてルーシャに教えてもらいながらスープを作っていく。

 かなり簡単な料理だったので、これならすぐに覚えられそうだ。


 作っている間、他の孤児院での仕事も教わった。


 午前中は朝食を食べた後、子供たちは食材の確保へ向かい、その間に俺とルーシャで掃除。

 昼には教会で子供たちと炊き出しを行う。

 午後は孤児院で育ててる野菜の水やりだったり、ほつれた子供たちの服の補修だったりをする。


 これが孤児院での一日みたいだ。


 朝食を作り終わるとほぼ同時に、子供たちが起き上がってきたみたいで、教会が賑やかになった。

 俺とルーシャは教会内の広間に作ったスープの入った鍋を持って行った。


「アルだ!」

「あれ、ほんとだ!」

「なんでアルがいるのー!?」


 俺が子供たちに見つかると、彼ら彼女らは嬉しそうに近寄ってきてそう言った。

 俺は鍋を抱えたまま説明をする。


「俺は職なしになってしまってな、ルーシャさんに働かせてもらうことになったんだ」


 俺の言葉に子供たちはやいのやいのと言ってくる。


「もしかしてアルってヒモー?」

「わー! アルがヒモになっちゃったー!」

「いけないんだー!」


 た、確かにヒモと言われればそうなのかもしれない……。

 否定できない自分がいるのが悲しい。

 まあここは怒るほどのことじゃないが、子供たちの将来のためにそういうことは言わない方がいいと教えた方がいいかもしれない。

 俺だって孤児院の一員になったわけだしな。


「おいおい、そういうことは思ってても言っちゃダメなんだぞ?」


「あ、アルが怒ったー!」

「逃げろー!」

「アルが怒ったぞー!」


 そう言ってわっと逃げ出す子供たち。

 元気が良いのはいいことだが。

 ちょっぴし元気が良すぎる気もするな。


 そんな子供たちに困ったように頭をかいているとルーシャが声をかけてきた。


「ふふっ。やっぱりアルベルトさんは優しいですね。それだけでも雇って良かったと思います」

「……そんな場面あったか?」

「ちゃんと私は見てますよ? 照れたって無駄ですからね?」


 柔らかな微笑みを浮かべるルーシャ。

 ……ルーシャには敵わないなぁ。


 それから俺たちは朝食を食べ、午前の仕事をしていく。

 子供たちは食料の調達へ、俺たちは建物内の掃除を。

 だが、調達から帰ってきた子供たちは、何やら困ったような表情をしていた。


「ルーシャさんー。お肉の値段が上がっててあまり買えなかったよー」

「そうですか……。う〜ん、最近ドンドン値上がってますね……」


 子供の言葉に困ったように眉を寄せるルーシャ。

 そんな状況で俺を雇ってくれたのか。

 申し訳ないな。

 俺に出来ることがあればいいが……。

 俺は自分が力になれそうなことを考えながら、話を聞いていた。


「どうしましょう。このまま値上がられるとみんな分のお肉が買えなくなるかもしれませんね……」

「オレたちで調達できればいいんだけどー」

「わたしたちのジョブじゃねぇ……」


 ルーシャの言葉に年長組の子供たちが悩むように言った。

 ジョブ……ジョブ……?

 はっ……!

 そうか、俺がみんな分の武器を作れば、子供たちでも調達できるようになるのでは!?

 困ったように話し合っているみんなに俺は声をかけた。


「なあ、みんな」

「どうしました?」


 俺が声をかけると不思議そうに首をかしげるルーシャ。

 俺は先ほど思いついたことを話す。


「俺は鍛治師だ。みんなに武器を作ってあげられる。それに俺の武器は強いからな。お前たちでも弱い魔物なら狩ることができると思う」


 そう言うとルーシャはポンっと手を打った。


「なるほど、そういうことですね! 確かにそれはありかもしれません!」

「だろう? ちょっと働き始めてすぐにで申し訳ないが明日は休みにして、みんな分の武器を作ってこようと思う」


 俺の言葉にルーシャは感激したように手を握ってきた。


「ありがとうございます、アルベルトさん! やっぱり貴方を雇ったのは正解でした!」

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