第4話 夜の酒場、男二人で語らう日

「よぉ、グウィル。先飲んでるぜ」


 次の日の夜。

 俺はいつもの酒場にやってきていた。

 グウィルはまだ来てないから、先にマスターに酒を頼みしっぽりと飲んでいた。

 しばらくして店の扉が開き、グウィルが入ってくる。

 豊かな髭を蓄え、貴族らしからぬゴツい体躯をしている。

 一見すると穏やかな熊のようにも見えた。


「ああ、構わん。それよりも三か月ぶりか? ――ああ、マスター、いつものを頼む」


 グウィルはそう言いながら俺の隣に腰かけた。

 もちろんお忍びなので護衛も使用人も連れていない。

 こいつは恐ろしいほど強いからな。

 ジョブは【剣聖】。

 希少ジョブの中でも最上位に位置するジョブで、全世界に十人ほどしかいなかったはずだ。

 だからこそ、こうして一代で辺境伯まで成り上がれたのだが。


「そうだな。お互い忙しかったからな」

「まぁな。貴族は固苦しくって嫌になる」

「そうだろうなぁ。俺はまだ冒険者で良かったと思うぜ。……色々あってもう冒険者ではないけどな」


 俺が言うとむっとグウィルは眉を顰めた。

 そして尋ねてくる。


「何かあったのか? もしかして腰でもやったか?」

「それのほうがまだマシだったな。……追放されたんだよ、ジンの野郎に」

「はあ? あいつとは幼馴染なんだろ?」

「そうだけどな。あいつは変わっちまったのさ、勇者になって」


 俺が言うとしんみりとしてしまった。

 グウィルにも思い当たるところが多々あるのだろう。

 40近くになると子供の頃の友人も変わってしまうからな。

 いつまでも同じままな奴は少ない。


「なるほど。……まあ、あいつは以前から普通のジョブ持ちに当たりが強かったしな」


 自分で納得するように呟いて頷くグウィル。

 変な空気になってしまったし、ここで先ほど発覚したことを伝えるか。


「それでな、追放されて一つ分かったことがあるんだ」

「ほう、分かったこととな。随分と勿体ぶったフリじゃないか」

「それほど凄いことってわけだ」

「おうおう、めちゃくちゃハードル上がってるな。こりゃ楽しみだ」


 ニヤニヤしながら言うグウィル。

 こんな気安い話ができるのも貴族にはいないのだろう。

 かなり楽しんでいるようだった。


「まあ、心して聞くといい」


 俺はドヤ顔したくなるのを抑えながらそう言う。

 なかなか酔っぱらってきてる。

 思ったより俺は自分の武器が凄いことを知って嬉しかったみたいだ。

 さっきまでは驚きが強かったから、あまり自覚できなかったけど。


「良いぜ。ドンとこい」

「実はな……俺の作った武器、所有者に新しいジョブを付与できるらしいんだ」


 俺が言うとグウィルはポカンとした。

 口が開いて固まっている。

 しばらくして再起動すると、訝しげに眉を寄せて聞いてくる。


「それは……本当なのか? 俄かには信じがたいが……」

「ああ、本当だ。今は俺が


 今度こそグウィルは口をあんぐりと開けた。

 目も動揺してあちこちに泳いでいる。


「おいおい、おいおい、おいおいおい! それがマジだったら大革命だぞ! いや、大革命どころの話じゃない!」

「そうだろう? だがこれが他に漏れたら大変だ」


 俺の言葉にグウィルは一気に冷静になり、ふむと腕を組んだ。


「確かにな。例えばアジメシア帝国にでも漏れたら間違いなく実験動物確定だ」

「……実験動物? そんなにか?」

「そりゃそうだろ。お前が死なない程度に身体中のあちこちを弄られ、なぜお前の武器がそんな効果を持つのか調べられるぞ」


 ゾッとした。

 確かに凄いことだと思ってたし、他人に言いふらさないほうがいいとは思っていた。

 しかしそこまでヤバい代物だとは思わなかった。


「まだ誰にも言ってないだろうな?」

「話したのはルーシャとレイナだけだな」

「ああ、シスターとギルドの受付嬢か。なら問題ないか。だが他には絶対に言うなよ? この案件は俺が何とかする」


 おお!

 流石、グウィル。

 心強い言葉を言ってくれる。


「しかし何とかするってどうするんだ?」

「いったん、庇護先を見つけるのがいいだろう。王家か、公爵あたりか。まああそこらへんも最近きな臭いから俺が探りを入れてみる」


 考えながらグウィルは言った。

 そこらへんの政治関係はさっぱりだからな。

 彼に任せるのが正解だろう。


「庇護先を見つけるまでは、密かに過ごすのがいいだろう。……そういえば追放されてから次の職は見つかったのか?」

「もちろん。教会……というか孤児院で働くことになった」

「そうか。それなら問題ないだろう。エレシア教は下手をすればうちよりもよっぽと他国に影響力を持ってるしな」


 俺の言葉に満足そうに頷くグウィル。

 そしてさらに言葉を続けた。


「とにかく、今は目立たんようにしておけ。俺から言えるのはそれだけだな」

「ジンたちが絡んできたらどうする? 勇者じゃなくなったことに気が付いたら、絶対にイチャモンつけてくるだろ」


 俺がふと思い出して尋ねると、グウィルはニカッと笑みを浮かべて力こぶを作った。


「そりゃあ、ぶっ飛ばしてやれよ。あいつらはもともと他からも反感買ってたんだし、勇者としても中途半端だ。ぶっ飛ばしたところで大物の目にはつかんよ」


 それならよかった。

 イチャモンつけてきたら思い切りぶっ飛ばしてやろう。

 今までの鬱憤がかなり溜まってるからな。


 それから俺たちは酒を飲み、夜が更けるまでくだらない話で盛り上がるのだった。

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