Love and Ordinary story

 しばらくたち、あの件からは1年と少々だろうか。今でも懐かしく思うし、その気持ちは変わっていない。


 案外ひとめぼれってすぐ終わるものだと思っていた僕だが、その予想を反するような僕の本能。人間、自分の想像を超えた行動を軽々としてしまうものなんだと思い、以外にも人間の底力というものなのか、そのような「100%のうち、120%を出す」ことの結末を見ることができてなんだかうれしい。


 きっと彼女はもう僕のことは忘れているのだろう。彼女はもともと物好きで、僕にしたようなことをたくさんしていたのだろう。きっとあのラーメン屋での一軒も、その中の1つに過ぎない。僕は彼女の人生にとってパズルのピースにすらなっていないのだ。僕の人生には、でかでかとど真ん中に移っている癖に、ずるい。そう、なんだか悲しい考えをしてしまい泣きそうになってしまう。勝手な片思いとはいえ、ここまで感情を入れ込める人物は僕が生きてきた人生でたった1人のキミだけなのであった。僕にとってはかけがえのない、替えの利かない存在なのであった。だから、彼女を忘れられない。忘れられるわけがない。


 とにもかくにも、とりあえず今日で人生の踏ん切りをつけなければいけない。それはいわゆる卒業式、というやつであるからだ。もう式は終わった。気づいたら終わっていたのである。なんだか味気ない卒業式を過ごしてしまったのだろうか……と少々ネガティブな思考になるものの、これも「青春のヒトコマ」になるのであれば悪くないのかもしれない。と無理やり自分を納得させた。まだわからないものに期待をさせておくほうがまだ自分が幸せになるからである。テストの点数が悪くても、つぎの自分が頑張ってくれるのだから。なんだかそれと同じような思考回路だなあと思うのと同時に、ダメ人間の仲間入りなのではという疑問もあったが、知らないふりをすることにした。世の中、案外知らないほうがいいことなんてごまんとあるんだ。

 高校の友人ともこれで最後になるかもしれない、もちろんそうであってほしいとは思わない。が、そうなる気がしている。高校という節目を迎えた人たち、今までは子供なんて言われていた人々がいきなり「大人」と称される立場になるのだ。幼いうちのように、「新生児・幼児・小児」なんて細かく分けてはくれない。社会は子供か、大人かの二択のようだ。まったく、冷酷であることこの上ない。そう思っている。

 今子供をやめさせられそうになっているにもかかわらずこの思考回路をしてしまう自分、もしかしてまだまだ大人に不適合なのでは?と思ってしまう。僕はこの青春という1本のストーリーにおいて、恋をやり残したり、友達ともやり残したり、中途半端が多いなということを再認識した。この中途半端なまま大人になるのは果たして良いのだろうか、そんなことを考えた。だけども、時間というのは時に残酷で、いくら待ってほしくても待ってくれないのだと。いつまでも待ってくれるほどやさしくないのだと。


 高校の友人と思い出語りをする。かれこれこいつらとも12年の付き合いなのか、なんて思うといろいろ考えるところがある。長い付き合いになればいろいろあるもんだ、揉めたり、仲たがいしたり、慰め合ったり、喜んだり。どれも「いわゆる青春」なんて形容されそうなものである。僕も、同じくそう思う。そんな日々をこいつらと過ごせたと思うと、すこしばかりか涙ぐみそうになる。本当に、幸せ者だったな、って。

 あの日の時もそうだ、次の日の学校の時にもあいつらに相談した。わからないことは、いつもあいつらと考えていたような気がする。あいつらなら、あいつらだけなら、そんな信頼があったように思い出せる。長い年月付き合っていると、きっと何も考えなくても信用できるんだと思う。俺がそうなように、あいつらもそうなんだと思う。互いにこうやって信頼関係が気付けたこと、こんな恵まれた環境に12年も囲まれて生きることができたなんて思うと、なんだか寂しくなってしまう。


 「こんな日々も、今日で終わりなんだな。」


 皆で口をそろえ、こうこぼした。




 皆に別れを告げた。これからの進路は全く別だが、時々飲みにいったりするだろう。少なくとも今のうちなら、そういうことをするんじゃないのかなと思っている。「みんな、これからどんどん忙しくなっていくだろうから、大丈夫かな。」こんな考えをしてしまったが、あいつらの前でこんなことを言うわけにもいかないので、そっと心の片隅に置いておく。きっと、大丈夫だ。

 学校が立っている小高い丘をくだる。いつもの半分くらいの歩幅で歩いている。別に意識的にこうしているのではなく、体が勝手にこう歩いている。名残惜しいのか、周りもよく見渡している。去年まではここを本を読みながらくだったり、音楽を聴きながら下っていたような気がする。いつも目に向けなかった景色を、この立場で、この気持ちで、この季節歩くことはもうないのだ。そう思うと、どうももったいなく思えてしまい、思わず周りを見渡す。見渡す景色の奥には海。あの奥にはサハリンが見えるはずだ。今日は見えないが、今までで一度だけ見たことがある。


「もう一度見たいなあ」


 なんて口から出ていた。こんな奇跡の瞬間をここで感じていたのだ。そう記憶の引き出しから出てきたものを鑑賞している。掃除が進まないテスト期間のようなことをしていて、我ながら情けない気もするが、今日ばかりはいいとしよう。なんたって、「最後」なんだから。


 住宅街に入り、スマホを取り出した。いつもはここで「ごはん何」なんて送っていた気がする。腹ペコ高校生なので、飯のことになると目が猛獣化のように光りだす。我ながら、食を愛していて素晴らしいと思っている。ほかの人から見ればいいことなのか、悪いことなのかはわからないが。今日は送らないで帰ろうと思う。たまにはこういうのもいいだろう。


 程なくし、家の前へ着いた。この家に越してきたのは小学5年生の秋だったな、と思い出す。親父の職場が隣で、たまたま売りに出ていたため次の週にはローンを組み購入していた。うちの親父はそんなに即決する人だったのかと驚いたが、まあ人生決断の繰り返しなので悩んでなんかいられないのだろう。人生年長者だからこそなせる業なのだろう。


 ああ、ここの扉をくぐるといよいよ僕の高校生活、ここに幕を閉じるのかと思うとなかなか手がかけづらい。帰るまでが遠足というように、家に帰るまでが卒業だ。今までたくさんの気持ちを持ち帰りこの家に帰ったな、そう思うとこの家が一番僕を大事に包んでくれていたのではないのか。そう思うようになった。


「なあ、お前はどう思うよ?」


 そう白い家自宅に心で声をかける。返事はないが、こういう時は都合のいいように解釈をしていいはずなので、「そう思う」といったことにしよう。


 さあ、俺の高校生活をここで終わらせる。その意気で扉に手をかけようとした瞬間、電話が鳴った。


 まったく、いい感じの時だったというのにもかかわらず空気の読めないスマホだな、そう思いつつポケットから取り出した。どうせなにかの営業電話か同級生だろう。そう思って画面を見たのだが、見知らぬ番号であった。

 

 よりによって見知らぬ番号か、と頭を抱えていた。仕方ないので、応答ボタンを押す。さっさと切り上げ家に入ろう、そう思っていた。


 「もしもし。ねえ、今日暇?あのラーメン屋で会わない?」


 見覚えのある声、そして僕の記憶のピースに大きく残っている「あのラーメン屋」、間違いなく彼女だ。なぜ、なぜ僕の連絡先が分かったのか。まったくわからなかった。最初から謎の多かった彼女、こんな時まで「なぜ」づくしなのか。


 「いいよ、わかった。」


 僕は本能で答えた。

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涙とかけまして、ラーメンと説きます。その心は? れもねぃど @remoneed_blue

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