第6話 従者をゲットしました

 ガーディアンのボスの赤い葉が、雨のように降り注ぐ。

 その連撃を、手にしたリーフ・ソードで片っ端から捌いていく。

 赤い雨の一切を寄せ付けず、獲物を撃ち損ねた葉の先端が地面に大穴を開けるのを尻目に、俺は一際強い斬撃を放った。


剃刀のような一撃が、赤い葉を根元から薙ぎ払う。

しかし、敵は再生能力を持っている。切られたそばから細胞が増殖し、再び元のカッ対を取り戻そうとする。


「させるか!」


 俺は、わずかに生まれた隙を逃さず、全力で隠しスキル“成長促進”を起動した。

 瞬間、敵の魔力を利用して起動した“成長促進”の効果により、一瞬にして敵の触手が再生する。

 敵の再生を遅らせるどころか、逆に速める行為。だが、これでいい。


 “成長促進”は、相手の成長を早める技。

 しかし、それは必ずしも強化だけをするものではない。


 俺めがけて振り下ろされる赤い葉を見ながら、俺は物思う。


 0歳を数秒で20歳にできるように、50歳を一瞬で90歳にまで老衰させることだってできる。

 そして、相手は魔力を大量に溜め込んだ、この場でもっともボスだ。だったら。


「お前は、自分の持つ強大な魔力で老いを促進させ……そして、自滅する!!」


 瞬間、俺の目と鼻の先まで迫っていた葉が、急速にみずみずしさを失い、瞬く間に枯れ落ちていった。


「ふぅ……」


 俺は一つため息をついて、周りのガーディアンを見まわす。

 元々襲ってきたのはボスと思われる個体のみだったのだが、そのボスがあっさりと倒されたことに萎縮したのか、ガーディアン達は襲ってこようとはしなかった。

 けど、不意打ちをされては敵わない。ここは、彼等の意志を聞いてみるべきだろう。


「さて。お前達のボスは倒したけど、俺はお前等まで枯らすつもりはない。元々、植物は好きだしな」


俺の言葉が通じているのか、ガーディアン達は僅かに葉をしならせる。


「“セフィロト”とやらがあるのなら、是非この目で見てみたい。もちろん、お前達の主である“セフィロト”に傷は付けないと誓おう。だから、通してくれないか?」


 彼等を見まわして確認をとる。

 喋れなくとも、俺の言葉くらいはわかるはずだ。あとは、葉を垂れるなどして頷いてくれればいいんだけど。

 そんなことを考えていた俺だったが。


「いいえ。“セフィロト”は守護すべきものであって、私どもの主ではありません」

「……ん?」


 不意に、聞こえるはずのない声が響いた。

 あれ? どこから声がしたんだ?

 俺はきょろきょろと辺りを見まわすが、人影はない。


「先程の戦いで確信しました。先代から聞いていたこの時を、ずっと待ちわびていました」


 その声は、倒したボスの隣にある、周りよりも一回り大きい個体から発せられていた。

 え? 魔植物が……喋った?

 しかも、なんかわけのわからないことを言ってるし。


「この時? 待ちわびていた?」

「はい」


 その個体が、黄金色の光を発し、形を変える。

 つぼみが花開くように、光が人の身体を形作っていく。

 薄緑色の美しく長い髪。切れ長の翡翠色の瞳は理知的な色を湛え、優しく柔和な雰囲気を持つ絶世の美女。

 身体に纏った、花弁のような桜色の薄衣が、女性的な身体のラインを強調していた。


「なっ……魔植物が、女の人に!?」


 なんだこの桃から男の子が生まれる国民的物語みたいな展開は!?

 唖然とする俺の前で、女性は恭しくスカートの裾を摘まんで、俺の前に跪いた。


「初めまして。そして……お帰りなさいませ。ご主人様」

「ごしゅ……え?」


 待て待て待て待て!

 一体どういう? 


「えーと、大前提として俺は君の主人になった覚えはないんだけど」

「ええ。しかし、あなたは私達の主に相応しい方。そして、三百年にわたり来訪をお待ちしていた、運命の方ですわ」

「……ん゛!?」


 三百年!?

 そんな前から、俺が転生してくるのを待ってたとでも言うのか? んなアホな。


「それはそれとして、君は一体何者なんだ」

「私はアン。“セフィロト”を守るガーディアンの3代目当主にして、あなた様の忠実なるしもべですわ」

 

 そう言って、アンと名乗った魔植物の美女は、艶然と微笑んで俺の前に跪く。

 それに合わせ、他のガーディアン達も、まるで頭を垂れるように一斉に葉をしならせ、俺に忠誠を誓う様子を見せたのだった。


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魔法の才能ゼロで家族から迫害された俺は、唯一使える最弱の「植物魔法」で成り上がる!~桁違いの強さを手に入れたことに気付かず、クズと罵ってくるヤツらに草生えるんだが~ 果 一 @noveljapanese

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