第5話 VSガーディアン

「「「キシャァアアアアアッ!」」」


 威嚇の鳴き声を上げ、三体の魔獣が迫る。

 彼等は、フォレスト・カメレオン。

 その名の通り、大きな目と丸く巻いた二本の尻尾を持つ、カメレオンに似た魔獣だ。


 身体は、イノシシくらいの大きさがあり、高い脚力を持つ。

 そのフォレスト・カメレオンの群れは、木々の間を目にも留まらぬ速さで縦横無尽に飛び回り、三方向から俺の方へ迫る。


 しかし、俺は慌てることなく自身の周りにバラバラと種を蒔いた。

 どれだけ早く飛び回ろうとも、攻撃するときは俺の方へ近づかなければならない。なら、そこを狙えば良い。


「“槍筍スピア・シュート”」


 刹那、撒いた種に魔力を注ぎ込むと同時に“成長促進”のスキルが起動し、一気に成長する。

 それは、先端が槍のように鋭い【槍竹】と、【カチコッチン】を交配して作った植物だ。


金属より硬い剣山が種を突き破って出現し、今まさに俺を襲おうとしていた三体のフォレスト・カメレオンを串刺しにした。

三体の魔獣は、断末魔を上げる間もなく絶命した。


うん、良い感じだ。

俺は掌で種を弄びながら、ほくそ笑む。


植物を操るのが植物魔法ならば、その攻撃力は植物のポテンシャルに比例する。

やはり、隠しスキルの効果は凄い。


「この調子で、森の奥まで行くぞ!」


 楽しくなってきた俺は、更に森の奥へと足を踏み入れていく。

 

 そして――気付けば、森の最深部まで来ていた。

 いつの間にか森は日の光を通さないほどに鬱蒼と生い茂っていて、周囲に漂う魔力も濃密になっている。


 これは、いよいよ“深淵の森”にあると言われる神域――“セフィロト”が近いかもな。

 “セフィロト”とは、この“深淵の森”の中枢にして、神聖不可侵の領域に生えている、巨大な木だと言われている。


 そこには何人たりとも立ち入ることはできない。

 なぜなら、どういうわけか歩いている内に方向感覚が狂い、“セフィロト”には近寄れないようになっているらしいのだ。


 しかも、“セフィロト”の周りにはガーディアンと呼ばれる魔植物が群生して、立ち入りを拒んでいるらしい。


 俺は、その噂に対して半信半疑だったのだが、森の奥へと進んでいく内にどうやら間違いではなさそうだと考えるようになっていた。

 それは、木々が鬱蒼として不気味になり始めた頃。

 俺はふと、道中に違和感を覚えたのだ。何度か、獣道の脇に生えている青紫の綺麗な花を見かけたのだが、それがどうにも全く同じ景色の場所に生えている気がしたのである。


 どういうことなのかと思って、試しに周辺一帯の植物たちとのリンクを強くして、注意深く索敵しながら歩いてみた。

すると、驚くべき事に真っ直ぐ進んでいると思っていたが、実際は同じ所をぐるぐると回っていたのだ。


おそらく、何らかの植物が方向感覚を狂わせる何かを放っているのだろう。

しかし、それに気付いた今、もうその手は通じない。

何せ、俺は“植物之王クロリスの効果により、半径2キロ圏内の植物は支配下にある。

正しい道は、彼等が示してくれた。


そして――どうやら噂の“セフィロト”とやらは、実在しそうな雰囲気である。

今。俺の目の前には、数百体の魔植物がずらりと一列に並んでバリケードを強いているからだ。

まるで、この先にある何かを守るように。


一言で言えば、アロエのバケモノ、といったところか。

棘の突いた分厚い肉厚の葉を持つ、背丈が5メートルを超える魔植物が、ずらりと並んでいた。


「ここを抜ければ、“セフィロト”か……」


 俺がそう呟くと、魔植物たちが一斉に俺を睨んだ……気がした。

 魔植物は、普通の植物よりも内包する魔力の量が桁違いに多い。植物というよりも、植物細胞を持つ魔物だ。

 だから、彼等には自由意志がある。


 “セフィロト”を守るガーディアンとして、俺を敵と見定めたのだろう。

 一際大きい、赤い葉を持つガーディアンのボスが、ギシリと葉を擦らせた。

 刹那、ボスの葉が触手のように伸び、俺めがけて殺到する。


「ちっ!」


 俺は即座に鳶下がりつつ、周りの植物へ指示を飛ばす。

 

「“葉壁リーフ・シールド”」


 刹那、俺の周囲に落ちている葉が寄り集まり、厚さ十センチを越える分厚い壁となる。

 紙一枚では指一本で簡単に破れるが、本にするとそうもいかない。それと同じで、より集まった葉の壁は、ボスの一撃を易々と受け止めた。


 昨日、オウルに撃たれた“火球ファイア・ボール”で易々と貫かれた魔法と同じとは思えない防御力。

 その理由は、“植物之王クロリス”にある。


 植物魔法は、近くにある植物を操る力。

 が、せいぜい数枚の葉やツルを操る程度しかできない。


 しかし、“植物之王クロリス”は半径二キロにも及ぶ植物を全て支配下における。

 つまり、森を意のままに操れるのと同義なのである。そこまでやって、常人より少ない魔力量の俺が平気なのかと思うかもしれないが、それも心配ない。


 なぜなら、植物魔法には、操る際植物自身の魔力を使用できるという唯一のメリットがあるからだ。

 これにより、魔力量の少ない俺でも、自身の魔力をほぼ使わずに植物魔法を使えるのである。

 隠しスキルである“成長促進”や“品種改良”も、自分の魔力ではなく植物の魔力を利用して起動することもできるのだ。


 ガーディアンのボスは一度葉の触手を戻す。

 と、触手の先端が、不意にボコボコと風船のように膨らんだ。

 訝しむ俺の前で、膨らんだ触手の先端からブシューと、紫色の霧が吐き出される。


 吐き出された霧が地面に到達すると同時、生命力に溢れていた花や草がみるみる解けて腐り落ちていく。

 前方に展開した葉のバリアも、霧に触れた瞬間ドロドロに溶けてしまった。


「くっ、腐食の毒霧か!」


 葉の壁を破り、俺の方へと襲いかかる紫色の霧を見据え、俺は次の魔法を起動した。

 周囲の葉を集め、六枚を一セットとして扇風機の羽根のように配置する。

 それを、計二十セット、俺と霧の間に並べた。


「吹き飛べ! “葉旋風リーフ・トルネード”」


 瞬間、葉っぱで作った扇風機が高速回転する。

 俺自身は知る由もないが、それは風属性の上級魔法“ウィンド・トルネード”にも匹敵する威力だった。


 生まれた風は霧を押し返し、ボスに腐食の霧を浴びせる。

 ボスの身体は瞬く間に溶け落ち、消滅した――かに思えた。

 そう簡単に沈むようではガーディアンは務まらないとばかりに、腐食した側からメリメリと再生を初め、すぐに元通りとなった。


「げっ、マジか」


 再生能力を持つのなら、たぶん切断しても死なないだろう。

 一見無敵にも思える。が、俺の持つスキルを駆使すれば、勝機はある!

 

「なら……試してみるか!」


 俺は、かつてない楽しさに心を躍らせ、再生したガーディアンのボスめがけて駆けだした。

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