第4話 森で戦闘します

 翌日の昼下がり。

 いつものように、兄たちにボッコボコにされた後、俺は支度をして出掛けた。

 向かう先は、屋敷の裏にある“深淵の森”である。


 フォレストス子爵家の“フォレストス”というのも、この“深淵の森”が領地に入ることからきている。

 魔獣や魔植物が多く生息していることから、兄たちや他の魔法使い達の訓練場として使われているが、最深部までは誰も近づこうとしない。


 森に深く入れば入るほど、危険な魔獣や魔植物が生息しているからだ。

 

 普段、そんな森で植物を採取して実験にあけくれていたのだが、奥深くまでは行ったことがない。

 本当は、森の奥にしか生息していない植物に出会いたかったのだが。

 言わずもがな、今までの技量では普通の狼一匹にすら勝てなかったからだ。

 しかし――ここに来て転機が訪れた。


「さて……徹夜して得た新たな力、存分に試させて貰おうか!!」


 俺は、不敵に笑って屋敷の裏にある山ヘ脚を踏み入れ――


「へ?」


 いきなりマヌケな声を上げてしまった。

 なんと……森の中にある植物や魔植物、生き物の気配がなんとなくわかるのである。


「な、何!? 俺、急にエスパーに覚醒したのか!?」


 そう思ったが、普通に考えてそんなはずはない。

 おそらく、原因は昨日得た称号だろう。


 俺は、改めて昨日授けられた称号を確認する。


 称号:植物之王クロリス

 ・一定範囲内における植物を意のままに操り、感覚を同調させることができる。自由意志を持つ魔植物は操れないが、マスターの軍門に降った魔植物には権能が及ぶ。


 ・所有する隠しスキルは、権能の強化に伴って解放されていく。


 以上の二種類。

 ここで現状に影響を及ぼしている威のは、たぶん一つ目の方だ。


 なるほどなるほど。

 つまり、俺を中心とした一定領域内の植物の感覚と無意識的にシンクロしていて、なんとなく森の全容がわかるってことか。

 魔物や魔植物は無理みたいだが、彼等が放つ魔力や威圧を周囲の木々が感知したり、地面を踏みしめた時に、草花に異常が起きたりすることで、どのくらいの強さの魔物がどこにいるのかがわかるみたい。


 うん、何そのチート能力!

 常時、無属性の索敵魔法を使ってるようなものじゃん! まあ、たぶん植物がある場所限定だから、砂漠とかじゃ機能しないけど。


「う~ん、我ながら恐ろしい能力だ。……ん?」


 そのとき、俺の索敵に引っかかるものがあった。

 いや、元々引っかかっていたんだが、そこそこ強大な魔力を持つ魔物が全速力で俺の方へ向かってくるのだ。


 どうやら、俺の存在に気付いたらしい。


 初めてのまともな戦闘。

 いっちょ、気合いを入れますか!

 そんな風に覚悟を決めた俺の前に、そいつは現れた。


 木々をなぎ倒し、俺の前に躍り出たのは巨大な銀狼――シルバー・ウルフだった。

 青く輝く四つの眼と、美しい銀色の毛並みを持つ以外、普通の狼と変わらない見た目だが、その体長は5メートルを越える。


 ソイツはグルルル……と低く唸り、俺を睨みつけた。


「……来るか?」

「ワォオオオオオオオオンッ!」


 シルバー・ウルフは一言吠えると、銀色の毛を逆立たせて突進してきた。

 一度地面を蹴るごとに、地面が大きくえぐれる。

 森の木々をなぎ倒してきた、その自慢のかぎ爪が、俺の眼前へ迫った。


 だが、俺は慌てない。

 腰に吊る下げた革袋から、一粒の種を取り出す。

 “成長促進”の効果が現れるよう念じ、シルバー・ウルフの足下に投擲した。

 同時に、魔法を起動する。


「“棘蔓捕縛ソーン・アイビー・バインド”!」


 刹那、種が魔力を得て急発芽し、速に成長した。

 成長した蔓には、バラのような棘がいくつもついていて、シルバー・ウルフを雁字搦めに縛り付ける。


「ガルッ!?」


 爪が折れに届くすんでのところで身動きを封じられたシルバー・ウルフが、拘束を解こうともがく。


「無駄だよ。ただの蔓ならともかく、それは全身棘だらけの植物【ハリマンボン】とつる植物、それから弾性と靱性に優れた【ゴムモドキ】を掛け合わせてできた、固有植物(オリジナル)、【オニバリ草】だ。そう簡単には抜け出せない」


 引きちぎろうとしても、ツルがゴムのように伸びて千切ることはできない。

 その上、もがけばもがくほど棘が全身に食い込む凶悪な捕縛魔法だ。

 植物魔法は、植物を深く理解し、操る魔法。

 植物魔法が弱いと言われる点は二つ。


 一つは、操るのが植物であることの脆弱性だ。

 火に弱く、鉄より柔らかい植物では、武器にするのは難しい。


 そしてもう一つの理由は、植物が生えているところでないと使えないこと。

 近くにある植物を操る特性上、砂漠や海での行使は不可能となる。


 それらの理由から、植物魔法は発展が遅れ、もっとも必要の無い魔法とバカにされてきたのである。

 しかし、隠しスキルを解放し、長年植物の研究を進めてきた俺は、それらの弱点を克服しつつあった。


“品種改良”で強力にした植物を、種として持ち歩くことで攻撃力と利便性の問題をカバーしたのである。


「悪いけど、兄さん達の前に、俺が生み出した自信作の生け贄になって貰うよ」


 俺はニヤリと笑い、腰に佩いた剣を抜く。

 それは、葉っぱを刀身にした剣だった。

 昨日試した【騎士草】に【カチコッチン】だけでなく、超音波のような微細な震動を生み出す【フルエバナ】の特性と、百年枯れない【ヒャクネンソウ】の特性を組みあわせ、切断能力と耐久性を大きく向上させた、その名もリーフソード。


「はぁあああああああああ!」


 俺は一息で踏み込み、リーフソードを振り抜く。

 身動きのとれないシルバー・ウルフは、断末魔を上げる間もなく首を切り落とされて絶命した。


「勝った……! よっしゃ!」


 俺は思わずガッツポーズをする。

 この調子でどんどん強くなって、バカにしてきた全員を見返すのだ。


 俺は、自分の力を試し、復讐のために必要な新たな植物と出会うべく、更に森の奥へと進む。

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