第3話 毅然

「おっ…本当に来やがった。夢じゃあ…ないよな」


 約束の日から3日ほど経過した土曜日。信道と俺は東京都渋谷駅ハチ公口にて待ち合わせをしていた。


「こうして休日に貴様と会うのは施設以来だな」


「へへ…お前からそんな言葉が聞けるなんてな。なんかむず痒いぜ…」


 こいつと遊びに出かけるのは確かに久しぶりだが、そこまでだろうか。まぁ良い。利用する形になるのは申し訳ないが、今日は俺の焦燥感の解消に付き合ってもらうとしよう。


「それで、どこに行くんだ?まさか、予定も何もないなんてことは…」


 いや、分かる。こいつは何も考えてない。今までの傾向から考えるにこいつは直感的打算で動くタイプだ。


 ある程度面白い保証はできるが…正直なところ少し不安だ。


「あぁ、お前が行きたいとこがないなら、俺はちょっと行きたい所があってな。一応聞くけど付き合ってもらっても大丈夫か?」


「あ、ああ…」


「よっし!じゃあ付いてきてくれ」


 まさか、俺の予測が完全に外れるとは…こいつ、中々楽しませてくれるじゃないか。さぁ魅せてみろ!この俺に!お前の全てを!!


 正直なところ俺は浮かれていた。思考しこう範疇はんちゅうにある心情では、信道より自分が優位であると思い込んでいるが、普通に楽しみなのである。らしくないといえばおしまいだが、今の俺にはそれが必要だ。


 そんなことを考えつつ歩いていると、目的の場と思われる場に着いた。


「ここが俺の来たかった場所だ!多分お前の性にも合うとおもうぜ?」


 俺はこの場にある看板らしきものを確認してみる。『アフタヌーン』という名前の店であり、店内からはなまめかしい光が漏れ出ている。


「おい!!貴様…何故今、俺をここに連れてきた!?」


「いやいやいやいや!!一応聞いてたじゃん!!了承の上だろ!?」


 こいつは俺の言っていることを何も理解していないようだ。仕方ない…俺が怒っている理由を享受してやるとするか。


「何故…なぜアフタヌーンという店に早朝に来るのだ!!郷に入っては郷に従えというだろう!?アフタヌーンと書かれているということは、午後に来いということだ!!よもやそこまで脳足らずだとは…」


 俺の享受きょうじゅを聞いた信道は完全に呆気にとられたような表情をする。ふん、本当にわかっていなかったとは。


「いやいや、脳足らずなのは…お前だろ。そっち方面の知識がとぼしすぎないか?」


「貴様は何を言っているのだ!!まさか俺の責任にするとは…恥を知るがいい!!恥を!!」


 その言葉を聞いた信道は頭を抱え、思い悩んだような態勢になる。まるでアルマジロではないか。人間にあるまじき愚行だな。


 完全に信道を論破してやって優越感ゆうえつかんひたっていると、突如脳内に直接AI音声が流れ込んできた。ちっ…丁度いい時に邪魔を…ミュート機能を早く搭載してくれ。

 

『東京都渋谷区道玄坂2丁目1。通称渋谷駅ハチ公口に魔遇獣マリオネータ識別番号027番【カリディア】が出現しました。数はおよそ20体。付近にいる魔遇隊マリオネータキラーは直ちに討伐をお願いします』


「今の聞いたか?楽芽。魔遇獣マリオネータの討伐要請だってさ。…これ、滅茶苦茶近いし俺達で解決しちゃわね?」


「馬鹿か貴様は。への救援要請だと言っているだろう。良くて魔遇隊候補生である俺たちの出る幕は…と言いたいところだが、良いだろう。今日は貴様についていくとちかってやったからな」


 規則を無視するのはあまり好ましくないが、民間人を無視してまでその願いを拒むほど俺は堅物かたぶつではない。


「へへ、そう来なくっちゃ!!そういうとこホント大好きだぜ!!さぁ…何度目かわかんねぇけど、職場体験と行きますか!!」


「カッコつけやがって…正直なところ今回の魔遇獣マリオネータと俺の相性は悪い。お前の超常の力の突破力に任せるしかない。だが、後ろは任せろ。…もし正面突破すらできなかったら殺すからな?たとえ俺が死んでも殺してやるからな?」


 口には出さないが、大丈夫っしょみたいな顔をしやがる。だが、こいつの強さは誰より俺が認めている。スピードを緩めることなく、俺たちは渋谷駅ハチ公口まで走る。

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終末世界はエントピア 隼ファルコン @hayabusafalcon

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