白い手
大切な人を、俺は失った。ずっと、間違えていた。
あの日、拒絶と絶望を知った。
俺には、忘れられない光景がある。肩越しに見た俺の足を掴む、白い手。
冷たくて、頼りなくて、力強い。
突然の暗闇。
目の前を、白い手が通り過ぎていく。ゆっくり、顔を仮面の様に覆うみたいに。
指の間から届く、閃光が目を潰す。閉じた瞼の奥に、彼女の声が響いた。
「何も思い出さないで。」
忘れたくないのに、その言葉に従う。
誰かに抱かれている感覚。
うっすらと見えた、静姉。
顔が勝手に、横に向いた。
遠くに見える、倒れる誰か。
大切な人を、俺は、間違えていた。
俺には、大好きな人がいる。山で迷って、探し出してくれた人。
命の恩人だ。俺を、助け出してくれた。
気づいた時、静姉が笑っていた。
だから、静姉しか、見たくなかった。
従妹が死んだ。
口が悪くて、いつもいじめてくる。会えばいつも、口喧嘩した。
小学生を車から庇って、死んだ。
悲しんでいるはず。
静姉の所に行かなくちゃ。今なら、言える。結婚しようって。
十八になった。結婚できる。
なのに、
「本当に、やめて。あんたを好きじゃないし、彼と来週結婚式を挙げるの。
邪魔しないで。」
「結婚式? 何も聞いてない。」
「あんたも、花音も、勝手なのよ。
私を、自由にしてよ。もう、来ないで。私は、救ってないのよ!」
「嘘だよ。だって、あの時。」
「救ったのは、花音。私じゃない。
なのに、あの子、私が救ったって。あんたが気にするから、お願いって。
もう、無理。
あの子が死んだ以上、私が偽る必要ないでしょう。
私を、自由にしてよ。」
愛しい人は、今、別の誰かに抱かれている。
じゃぁ、助けてくれた人は、どこ?
ずっと、命の恩人に恋焦がれた。
「全部、花音が、救ったのよ!
私は、何もしてない。したくもない。あの子の様な、人間じゃない!
もう、来ないで!
お願いだから、私を自由にしてよ…。」
大好きな人が、俺を拒絶している。
知らない男に抱かれて、泣いている。
本当の命の恩人は、もう、この世に居ない。
俺は、これからどうしたらいい?
あれから、何年も時が過ぎた。
それでも、あの白い手を忘れられない。
七十を過ぎてもあの白い手を、今も尚、追い求めている。
すき以上、恋愛未満 ゆーすでん @yuusuden
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