第46話: From Hell
◆
親愛なるメアリー・ケリーへ
やあメアリー。人生は旅だ。生まれてから死ぬまで終わることなく続く旅行みたいなものだ。自宅から出発して目的地を目指しているのかもしれないし、遠い土地を旅立って懐かしの我が家を目指しているのかもしれない。
さてメアリー、君は「地獄」についてどう思う? 死後に待っている処罰? それともここレイヤードの別名? 果たしてそれはどこにあるんだろうね? どこにもない? いやいや、そういうつれない返事は悲しいなあ。
僕は思うんだ。地獄とは――人の頭の中にあるんだろう、と。人の心こそが、人の魂こそが――ああ、もう少し物理的な話をしよう。人の肉体が――血液と骨髄と胃腸と筋肉と脳細胞が――地獄を作り出すんだ。
苦しみは人間に原因がある? う~ん、僕が言いたいのはそういう因果応報じゃないんだ。地獄、ヘル、インフェルノ、冥府。混沌と無秩序の渦巻く坩堝こそが、人の魂の故郷だ。
これは挑戦であり回帰だ。人の中に地獄があるのならば、それを現出させることは可能だ。卵を割れば、中の白身と黄身が手に入る。わくわくしないかい? 地獄は古代神話の産物でもなければ、アナーキストの語るレイヤードの現状でもない。今ここに、服を着て何食わぬ顔で歩いているんだよ。
僕はそれを見てみたい。人の内に巣くう地獄を。特にメアリー。君の中の地獄は、どれほど美しいんだろう? 君のまだ固まらない血の赤さも、剥いだ皮膚の下の筋肉も、拍動を感じられる心臓も、素敵な手触りの大腿骨も、全てが愛おしい。
君と手を取り合って、麗しき我が家に戻る日を心待ちにしている。共に踊ろうじゃないか。僕と君の、二人だけのダンスパーティだ。
至高の満足を君と共に味わい尽くすその日まで、僕は君の忠実なパートナーでいてあげよう。
限りない愛を込めて
ジョン・ドウより
―――― From Hell
〈完〉
推定犯罪者―私を愛したシリアルキラー(未遂)― 高田正人 @Snakecharmer
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