【掌編】雨がやんでくれますように

坂道光

【掌編】雨がやんでくれますように

雨の中、僕はひとり、まちの小さな公園を散歩していた。


女の子の泣く声が聞こえる。

しくしくと。静かに泣く声に導かれ、近づいてみる。

滑り台の柱に背をもたれかけ、女の子が泣いていた。


雨の降る公園。滑り台の影に雨宿りする女の子。

少し濡れてしまっている。

女の子の静かな泣き声は、雨音にかき消されて、耳を澄まさないと聞こえない。


僕が近づくと、気づいたのか、泣き声が止んだ。

僕と女の子の目が合う。

どうしたの?なぜ泣いているの?


「いぬさん?」僕に近づくため、少ししゃがみ込む女の子。

『くぅーん』

あぁ、スカートの裾が地面につく。汚れちゃうよ。

悲しい顔をした君に伝えてみたけど、僕の想いは届かない。

そのままの姿勢で、僕に手を差し出してくる。

僕は少し近づいてみる。


「いぬさんは、おさんぽ?風邪をひいちゃうよ?」


僕は平気だよ。雨の中を散歩するのが好きなんだ。

でも君はそうじゃないよね?この公園は、雨が降ると誰もいなくなるんだ。

僕は君のほうが心配だよ。そんな公園に一人でいる君が。

雨にも濡れているし…


差し出された手のひらに、鼻を近づけ、匂いを嗅いでみる。雨の匂いだ。

悲しい顔をしていた君は、少し笑ってくれた。


「いぬさん、何してるの?優の手は美味しくないよ」


「ゆうちゃん!」突然大きな声が聞こえた。ちょっとびっくりした。

君はゆうちゃんというの?

ゆうちゃんを見た後、声のほうを見る。

雨の中を女性が駆けてくるのが見えた。

ゆうちゃんのお母さんかな?


女の人は、ゆうちゃんに駆け寄ると、そのまま強く抱きしめた。


「ゆうちゃん、雨の中突然出ていって…とても心配したんだから」


女の人は、泣きながらゆうちゃんを抱きしめていた。

ゆうちゃんは、女の人に抱きしめられると、また泣き出した。


「ママ、ごめんなさい。ごめんなさい」ただそれだけを繰り返す。


ゆうちゃんのママは、ゆうちゃんを抱っこすると、そのまま雨の中を歩いて帰って行った。

僕はその姿が見えなくなるまで、じっと見送った。

雨はまだ降り続いている。


僕は、冷たい雨がやんでくれることを祈った。

願うならば「この雨がやんでくれますように」

「それが難しいなら、せめて暖かい雨で満たされますように」


僕はそう神様に願ったんだ。

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