急 ―― オイオイ、みんな死ぬぜ


 村の近くの森には、そのゲームの序盤にしては強敵となる通常モンスターであるオオカミが現れる。

 なぜ、序盤でも強いオオカミと戦おうとしていたのか。

 俺、レオン、エレン、ドランの四ゴブリンは、実は「あること」を確かめに、近くの森まで来ていたのだ。


 俺たちは、森を歩き回ると、さっそく「オオカミ」にエンカウントした。

 「グルルル」と鳴きながら、俺たちに向かってオオカミは威嚇する。


 確かに、こいつらオオカミはHPも攻撃力も機動力も高い強敵だ。

 普通なら、俺たちゴブリンがこいつらオオカミに挑むというのは、自殺行為だ。

 わざわざ消した死亡フラグを自分たちで立てるようなものである。

 しかし、俺にはある確信があった。


 俺は、ドーナッツを食べると、戦闘を開始する。

 そして、狼の懐に入り……。


 斬る!


 「ギャウン!」と、オオカミは叫び、その場に倒れる。


 レオンはその姿を見て、目を丸くして驚いている。


「ど、どういうことなんだ?おかしら」

「まあ、説明すると長くなるが、この世界ではドーナッツを食べるとめちゃくちゃ強くなるらしい」

 「はあっ?」


 と、レオンは訳が分からないような顔をして俺を見る。


 「やってみるとわかる」


 といって、俺は懐からハル特性のドーナッツをレオンに渡す。

 そして、レオンはそのドーナッツを食べる。

 しかし、ドーナッツを食べているレオンにスキを見出してか、一匹のオオカミが飛びかかる。

 エレンが叫ぶ。


「あああっっ!!!!!!危ない!!!!!」


 しかし、ドランは至って冷静。


「見える!」


 ガコン!


 なんと、ドランは飛びかかったオオカミの噛み付き攻撃を盾で受け止める。

「ギャウン!」と叫び、今度はエレンに飛びかかるのだが……。

 しかし、まるでふわふわと浮かぶボールをバットで打つかのように、木の杖で顔面をジャストミート。

 オオカミは顔を抑えたりしながら、逃げていった。


 俺はエレンのステータスを見る。


「エレン……お前さ、俺らに隠れてドーナッツ食っていたな」


 エレンは舌を出して、「てへぺろ」というポーズをとる。

 何はともあれ、これで確実になった。


 ドーナッツというバフは、大幅にステータスを向上させる。


 恐らく、開発中は存在していたアイテムだったのかもしれないが、製品版になるときに、没データとして、ゲームの中に残ったままになっていたのだろう。

 それが、俺みたいにゲーム内転生したことによって、その残っていたバフの内容が見つかっただろう。


 ……これで、何とか魔王の軍勢と戦える。


 ◇◆◇


 魔王の軍勢は、既に村のすぐそばにまで来ていた。

 村をぐるりと取り囲むように、オークやインプなどのモンスターが陣取る。


 俺たちも同時にポジションに付いて、魔王の軍勢を迎え撃つようにする。


 ……戦いの時である。


 緊張の一瞬である。


 そして、村人と俺たちは、ハルが焼き上げたドーナッツを皆で食べる。

 ドーナッツを頬張る俺たちは、これから魔族と戦うとは思えないほどに、和やかな雰囲気である。

 それを見て、リーダーのオークは舐められたと思って少しいらだっている。

 そして、そのオークは手に持っている棍棒を天に掲げる。

 そのまま、棍棒を村に向ける。


「突撃だ!」


 すると、一斉にモンスターは村へ押し寄せる。

 それを村人たちが迎えうつ。


「みんな、行くぞ!」


 そして正面から衝突する。

 ドーナッツでバフを受けた村人たちは、かなり強く、モンスターを圧倒する。


 村の若者で組んだ即席の班は、最前線に出て、オークに切り込みを入れる。

 それを援護するように村人が矢を射かけていく。

 その最前線に立ったのは……レオンだ。


「へへっ、俺の出番だな!」


 そう言うと、レオンは剣を抜き放ちながら、突撃していく。

 「おらああ!」と叫ぶレオンの攻撃によって、オークの身体に傷がつく。

 オークは呻きながら、棍棒をレオンに振り落とすが、それを寸でのところでかわす。


「へっ、遅えぜ!」

 

 そして、今度はカウンター気味に剣を突き立てる。

「グギャアア!」と断末魔をあげながら、オークはそのまま倒れて絶命。


 一人のオークを始末したレオンの横から、オークが棍棒を振り上げる。


「危ない!」


 そう言いながら、エレンが飛びかかり、棍棒を振り下ろそうとしたオークの腕に、木の杖でフルスイングをする。

 すると、そのオークは腕を抑えて、その場にうずくまる。

 そして、俺がそのままそのオークを切り落とす。


 魔王の軍勢は、その戦いぶりに恐れをなして、村から撤退を始めた。


 村人たちは、勝利に沸く。

 「やったぞ!」「俺たち勝ったんだ!!」と喜びの声を上げる。


 そして、ハルが俺に向かって言う。

「コリンちゃん!ありがとう!」

 俺はそんなハルに笑顔で答える。

「ああ、よかったな」

 そんな俺にレオンが言う。

「おかしら!これで俺たちは魔族を倒せるぜ!」


 さすがに、俺はもう死亡フラグがなくなっただろうと思って、ステータスを見る。


「===

 LV:15

 名前:コリン

 職業:ゴブリン/勇者

 HP:372 MP: 62

 攻撃力:41 防御力:45 知力:39 素早さ:36 運: 27

 ===

 死亡フラグ――魔王の復活による世界の滅亡」


 あ、そうか。

 この魔王の群衆を俺たちが追い返したら、勇者が旅に出る理由が無くなるじゃないか!

 頭を抱えている俺に、ドランが声をかける。


「どどど、どうしたんですか?喜ばないんですか?」


 俺は暫く考えたのちに、三人に言う。


「おい、お前たち!旅に出るぞ!」

「「「はぁ?」」」


 びっくりする三人。


「いや、だから旅に出るんだよ!俺たちは!」


 いやいやする三人を説得して、しぶしぶ旅に立たせる。


 こうして、俺たち四人のゴブリンの旅が始まったのだった。

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ゴブリン転生の俺、死亡フラグ回避に頑張る アイアン先輩 @iron_senpai

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