もしも、この世界が幸せになったら

一都 時文

第1話 この幸せな世界へ

 今から数年前。この村は静かで賑やかだった。村の人々は多くの人を受け入れてもてなしていた。しかし、村に来る人は日に日に礼儀を捨て、荒らし始めた。村の人は危険を感じ、一時的に近くの交友関係のある街へ避難したところ、その日の夜に村は焼け崩れた。街の人々は戦った。口論で終わらせようと必死に証拠を探し、必死に罪を償わせようと努力した、が努力も虚しくまた建て直すということで丸め込まれてしまった。

「だってさ、」3人の顔は浮かなかった。

 当時、5歳だったイフとセイとエフは村の変わり様を間近で見てきた。何とも言えない表情で現状を伝える大人たちに3人は段々聞きづらくなり、独学で学ぶことにしたのだ。

「この本が書いてるのは本当?」

「間違いないよ、エフには見せなかったけど楽しそうに落書きしてたし、ゴミも捨ててた」エフは怒りを隠せず唇を噛み締める。

「正直、エフじゃなくてイフの方が見ないほうが良かったと思うよ。ね、イフ」イフは顔色を悪くして震えていた。

「無理もないわよ、イフのお家は一番悲惨だったんだから。死亡者がいないからって何よ!私達の心は十分重症なのよ」

 イフが5歳の時。イフの家に村荒らしが侵入した。今となっては記憶も無いらしいが、イフの母親はイフを守ろうと家のあらゆる物を与え、帰ってほしいと頼み込んだ。然し、イフがいるということを逆手に取って村荒らしはイフの家に住み着くようになった。2ヶ月ほどでイフの父が兵から帰ったことで事なきを得たが、それ以降イフの母は外に出ることも、人と関わるのも避けがちになった。そんな状態でもイフには自由に出かけるのを許可した。それはせめてもの母なりの愛情表現だった。イフの母、サナは今でも愛情を持ち続け、恐れながらも人々を愛している。サナの負った傷は10年経った今でも消えることは無いが、その恐怖からイフを支配したくはなかったのだ。

「俺は、俺のできることで母さんを守る。いつか、あんな奴らボコしてやる!」強気のイフにセイはため息をつきながらもその表情は笑っていた。

「まずは手始めに挨拶をしよう!」セイの提案に2人は呆れた。

「挨拶で通用する相手じゃないだろ?」

「そうよ、こんにちは一つで拳5発よ?」

「僕がそんな事すると思うかい?…え?頷かないでよ、やるのは悪戯さ、相手は大人だからね、見つかったらたかが知れない。分かったかい?」

「もちろん!」


 その夜の夕飯。三人はワクワクを隠しきれず、ニコニコしていた。仕掛けは簡単だった。元々イフ達の住んでいた村に4つの壺を置いた。一つは[封]といかにも何か出そうな感じを出した。また一つは何もせずに置き、3つ目には値札をつけて100万円と書いておいた。最後の四つ目には打ち込んで印刷した手紙を入れた。

「楽しそうね!」セイの母カノア、イフの母サナ、エフの母ワインはずっと笑顔が溢れ出している3人に痺れを切らして話しかけた。

「明日、楽しみな事があるの!」

「エフ、また動物の骨を持って帰ってきたら許さないわよ!」エフに似た表情でワインは笑う。

「セイとイフも、村に行ったら許さないわよ!」3人はビクリとした。それを見た親達は頭を抱えて苦笑する。

「やっぱりね、」

「危ない事はしちゃ駄目よ。でも、そんなに楽しいのならやれるだけやってみるといいわ。」サナは椅子から立つとイフ、セイ、エフの頭を撫でた。

「私達も同意見よ。未来を変えるのはあなた達なんだもん!」

「お母さん、大好き!」エフは髪をふわふわさせながらワインに飛びつく。

「僕も、このままは嫌です。」

「セイ、強くなったね、」カノアはセイをぽんっと叩いた。

「無理しちゃ駄目よ、その頭で戦いなさい。」

「はい!」

 母たちは3人が何をしたいか知っていた。村の人々が愛してやまない村を守りたいイフにセイにエフ。そんな、3人を守りたい村の人々。勿論、今の村に行かせるのは抵抗がある。ただ、3人の必死に輝く瞳には勝てなかった。

「ご飯を食べ終えたら、あの村について教えるわ。しっかり聞くのよ?」「はーい!」早速早く食べようとしたイフとエフがむせる。

「やっぱり大丈夫かしら、」親の不安は積もるばかりであった─。

 

 昔、村がこの世界で一番星に近いと言われていた。理由は、川の水が天の川のように輝いていたからだ。村の人々はその水を大切に使いながら、村以外の人にも分けてあげたいという思いから、街におすそ分けするようになった。その交友関係は今もなお続いている

ため村の人々は家を失わずに済んでいる。話は戻り、村に噂されていた“世界で一番星に近い”をひと目見てみたいと色んな人が集まるようになった。夜になればはじめこそ静かにしていた人々は騒ぎ出し、ゴミまで捨てだした。そんな状況である時、ラピス家に強盗が入る事件が起こった。それから2ヶ月後、ラピス・ロハンが一時的に避難するように村の人々を近くの街に頼み込んで匿ってもらった。運がいいのか悪いのか、その日の夜に村の5件が燃やされ、村は廃村と化した。

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もしも、この世界が幸せになったら 一都 時文 @mimatomati

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