第2話 新通貨~誕生秘話~

「失敗だ」「あぁ、彼の作戦は失敗だ」


中岡と風間と俺は、教室の窓辺でトランプをしながら転校生の田中を遠くから見つめていた。休み時間になっても田中に話しかける人はいなかった。彼に興味があっても、話しかける勇気のある人はいない。


「やっぱり、人に合わせて普通の行動、普通の自己紹介が一番だ」と俺はつぶやいた。


そう彼は、自己紹介で失敗した。


窓辺には桜の花びらが散り、その一片が机の上に落ちた。


「田中……」。彼は初日にして桜よりも早く散ってしまった。


「つまらない!いい加減やめないか?」風間が言う。


俺らは教室で大富豪をしていたが、すぐに飽きてやめることにした。


「つまらないな、もう他にすることないか?」と中岡が言った。


「そうだな。他の人たちと遊びに行くか?」提案したものの、すでに他のグループができあがっていて、自分達が入る余地はない。


一軍・二軍・三軍とスクールカーストは既に出来つつあった。そして、どのカーストにも属さない不良たちや変わり者も存在した。

クラス内にはすでにいくつかのグループが形成されていた。前の席にはスポーツが得意な陽キャグループが集まり、いつも笑い声が絶えない。教室の中央には、おしゃれに敏感な女子グループが固まり、最新のファッションやアイドルの話で盛り上がっている。その一方で、後ろの方にはゲームやアニメが好きなオタクグループが、静かに自分たちの世界を楽しんでいた。でも、クラスがバラバラになっている気もした。


「きっと俺は3軍なんだろうな」と、俺は自分の属するカーストを考えた。


「見ろ、陽キャグループはもう女子とも話してる。俺らもあんな風に普通に話せたら。なんで話かけられないんだ。」風間が不満そうに言った。


その時、見ていたグループから女子がやってくる。


「佐藤くん、こんにちは。クラスになじめた?」


少し驚きながらも、笑顔を返した。「あ、こんにちは。うん、なんとかね。その、ゆいさんは?」


ゆいは微笑みながら頷いた。「できたよ。みんな親しみやすくて、優しいし、楽しいんだ。」


「それは良かった。俺は、まだちょっと緊張してるかな。」


「大丈夫、時間が経つにつれて自然になれるよ。」


遠くからゆいの友達が声をかけてきた。「ゆいちゃん、ちょっと来てくれる?」


ゆいは軽く佐藤に頭を下げながら、「ごめんね、友達から呼ばれちゃったみたい。じゃあね」


「うん、わかった。」


話し終わって佐藤はニタニタしていたら、風間から突然声をかけられる。


「今のはなんだ!見せつけてるのか!腑抜けた面をして。」


風間の声に驚き、慌てて否定する。「い、いや、そんなつもりじゃない!ただ普通に話しかけられただけだ!それに昔からの知り合いだと知ってるだろ。」


しかし、風間はまだ怒りを抑えきれない様子だった。


「そうか、言い訳なら軍法会議で聞こう。」


「つまらないな。トランプで何か楽しいことないか?」中岡が言った。


「そうだな。何か新しい遊びをやってみようか?」風間が提案した。


その時、田中が突然言った。「お金をかけみれば?」


驚いた三人は表情を交わした。お金をかけることはまずいと思った。


「まずいだろ、お金をかけるのは。」俺は言った。


田中は考えを巡らせた後、「じゃあ、シャーペンの芯をお金の代わりにすればいいんじゃないかな?」


三人はシャー芯がお金になるわけないだろうと笑い出した。


「田中、そんなことできるわけないじゃん」と風間が言った。


しかし、田中は真剣な表情で言い返した。「できるよ。お金は信用の元に成り立ってるんだ。現に今使ってるお金だって紙くずじゃん。」


三人は驚きながらも、田中の言葉に耳を傾けた。


「例えばさ、これ」田中は机の上のシャーペンを指さした。「シャー芯を取り出して、それをお金の代わりとして、僕たちがそれに価値を認めればお金として使うことができる」


「でも、誰もがそう思わないと意味がないんじゃないのか?」風間が首をかしげた。


田中は深く考え込んだ後、「それはそうかもしれない。でも、お金自体も最初は紙くずから始まったんだ。だから、信用というのはすごく大事なんだよ。」


中岡は真剣な顔で質問した。「じゃあ俺のパンツもお金にできるの?」


田中は中岡の冗談に対して、笑いながらも真剣に考えた表情を浮かべた。


「パンツだって、もしかしたらね。もし僕たち全員がそれに価値を見出すなら、お金になるかもしれない。ただし、現実的にはそれを普通のお金として使うことは難しい。同じものでも女性のだったら見込みはあるかもね。」と冗談交じりに田中が答えた。


彼の言葉に、三人は考え込む。信用の力を信じながら、彼らは新たな冒険を予感し、

胸が躍った。


田中の提案に笑いながらも興味を持った三人は、シャー芯を通貨としてトランプを使ったギャンブルを始めることにした。


「参加料は5芯貨(しんか)。勝者が総取りだ!」俺が熱く宣言する。


「なんだそれ?」三人が同時に言う。


「通貨の単位だよ。シャー芯5本で、5芯貨」 


「いいじゃないか」田中も笑顔で頷いた。


円に次ぐ通貨、芯貨が誕生した。


こうして汚れた大富豪が始まったのであった。


最初は遊び心で始めたゲームだったが、次第に真剣味を帯びていく。トランプをめくりながら、シャー芯を賭けてゆく様子は、四人の他に誰もいない教室内にわずかに聞こえるトランプの音と、少年たちの興奮した声と怒号、悲鳴で満ちていた。

田中はその声を聞きながら、一人また一人と参加者とギャラリーが増えていく様子に満足そうに微笑んだ。机の上に並ぶシャー芯の数も次第に増え、掛け金は10本、15本と増えていった。


これにより新通貨を認める人が8人になった。












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たなか伝記 @hahyaaa

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