第二章 SF小説

【記録 0001-A:救難要請 (9分41秒)】

記録日時:2072年6月10日 19:23-19:33


説明:

この記録は [記録日時] に 日本の [太陽系外惑星調査グループ:エクスプローラーδ] の音声受信機にて受信され、その後 [国際考古解読グループ:IADG (International Archeology Decoding Group) ]によって約二年掛けて解読されました。

この記録は本太陽系以外の秩序ある惑星群及び高度文化群の存在を確証づけるものであり、元の記録音声データは日本の太陽系外惑星調査本部にて厳重に保管されています。

現在、この記録及び記録発信元に関する更なる調査が国際太陽系外惑星調査グループにて行われています。


以下は、解読済みの受信内容の文章内容ログとなります。


内容ログ:


――受信開始――


約13秒の 激しいノイズ 及び 断続的なビープ音 (恐らくSOS信号と思われる)


「……え!? これ、もしかして繋がった!?

 えっと、ちょっと待ってね!?」


約16秒の物音。(恐らく発信/受信準備と思われる)


「あ、あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。

 そちら、聞こえていますでしょうか?

 もし聞こえていましたら、何か応答をお願いします」


 約10秒の静寂。 (―補記1)


「……聞こえていない? あるいは、未知言語の自動翻訳機能が存在しないのかも。

 でも、確実に繋がってはいるはず」


約2秒の静寂。


「ええと、この声が、きっと届いていると信じて、話をさせてください。

 ……直入に言うと、私たちの惑星はもう間もない内に滅ぶ、崩壊します。

 この様子だと、もってあと数日……もしかしたら明日すら怪しいかもしれません」


「私は国際政府から厳重シェルターを与えられてまだこうして生きていますが、恐らく私の他にまだこの惑星内で生きている人は極めて僅か、あるいはもう私しかいないのかもしれません」


 約4秒の静寂。深い呼吸音。


「……私たちは、惑星の危機に面してから約3週間、惑星外に救難要請信号を送り続けました。そして惑星の崩壊を間近にして、ようやく希望となり得る受信者、あなたへとこの信号が届いたわけです」


 約3秒の静寂。


「なので、もしこの言葉が届いていて、もし私たちの信号発信源へと数日以内にたどり着けるのであれば、どうか、助けては頂けないでしょうか。

 ……なんて、私自身、物理的に無理な話だとは思っていますけれど。

 それでも、どうか。もし、可能なのであれば」


 約7秒の静寂。深い呼吸音。


「……要請指示書の内容は、これでおしまい、か。

 あなたに正しく届いているかもわからないのに、こんな機械の前で一人だけで話すというのは、少し辛いものがあるね。せめて、命助からなくとも、人と最後の会話くらいはしたいのだけれど」


 約18秒の静寂。小さな物音。


「どうせ、最後なんだ。もうこの惑星の物語はこれ以上続くことは無くて、きっと、私の物語もこれで終わり。……最後に、もう一度、あの綺麗な白い空を見たかったなぁ。

 ……あの、全てを光で覆い隠すような、眩しすぎるほどの白い空を」


 約9秒の静寂。


「どうかな、あなたの見る空は、どんな色をしているのだろう。

 私たちの惑星と全く同じなのか、それとも全く違うのか。

 どちらにせよ、一度見てみたいね。……というか、一度見てほしかった」


「……ああ、このまま、私たちの惑星は、この宇宙から完全に消されてしまうのかな。せめて、星の欠片くらいでも残ってくれれば、まだ救われるかもしれないんだけど」


「あ、でも、そっか。もしあなたがこれを聞いてくれているのなら、この惑星そのものは残らなくても、この惑星が存在したという歴史は残る。そう考えれば、私がここにいた意味も、少しはあった、かな」


 約11秒の静寂。

 僅かな物音。(恐らく席を立つ音)

 約47秒の静寂の後、小音量のジャズ風BGMが流れる。

 僅かな物音。(恐らく席に座る音)


「ふふ、聞こえているかな。私の、一番お気に入りの曲なんだ。

 ……他の研究員が居なくなってから、しばらく一人ぼっちだったからさ」


 約24秒の沈黙。その間、BGMが流れる。


「私ね、決めたよ。どうせ終わる世界、ならせめて最後に、あなたに、私のこと、少しでも知ってもらおうって。少しでも、私が存在したという証を」


「本当は、もっと大事なことを話すべきなんだろうけれど、それを指示するお偉いさんは、もうどこに行ったのか分からないから。……だからこれは、私の、最後のわがまま」


 約6秒の沈黙。


「……とは言ったものの、いざ話すとなると、何も話すことが浮かんでこないね。

 私、普段は話を聞く側にまわることが多いから、自分から話すのは、ちょっと苦手。

 せめて、あなたと面と向かって話せたら、もう少し話す内容も浮かんできそうなんだけど」


 約10秒の沈黙。


「……あの……ええと……」


 約4秒の沈黙。


「わ、私の好きなことはね、こうして音楽を聴くとか、本を読むとか、一人でゆっくりできるようなことが……」


 約11秒の沈黙の後、BGMが止まる。


「……あはは、やめやめ。最後のわがままとかそれっぽいこと言った割に、しょうもない話しか出てこないや。やっぱり、性に合わないことはするもんじゃないね。最後に、特大黒歴史が一つ増えてしまった」


 約6秒の静寂。


「あなたは、世界最後の日にしたいこと、ちゃんと決めておいた方がいいよ。

 じゃないと、最後の最後に後悔が一つ増えることになるから」


 約11秒の静寂。呼吸音。


「……こんな、ところかな。これ以上は、ただ冗長になるだけだね」


 約8秒の静寂。


「うん、言い残したことは、もうないみたい。

 遺言でも書いておいたら、誰かが読んでくれるかな……って、ううん、違うよね。

 これこそが、私の遺言であり、この惑星の遺言なんだ」


 約4秒の静寂。


「さて、それじゃあお別れのじか――」


 激しい衝撃音(衝突音のようにも思える)の後、持続的な崩落音。


「ああ、どうやら、本当に終わりが近いみたい。

 せめて、もう少しくらい後でも良かったんじゃないかな」


 約4秒の沈黙。その間、持続的な崩落音。


「それじゃあ、お別れは手短に。ここまで話に付き合ってくれて、ありがとうね。

 あなたのことは何一つ分からなかったけれど、それでも、私は十分に救われたような気がするよ」


「あ、もしよければ、助けに来てね。猶予は後1時間位かな? 楽しみにしてるよ。

 それじゃあ、またね」


 持続的な崩落音。激しいノイズ。


「ばいばい」


 持続的な崩落音。約7秒間の激しいノイズ。



――受信終了――


補記1:

信号受信時には、その場にいた [チーム:エクスプローラーδ] の9名が対応。

受信当時は 未知惑星/未知言語 からの受信であったため、本惑星からの発信は見送られた。



追記 (2075年6月10日 時点):

本記録 [0001-A:救難要請] 以降、発信元惑星からの信号は途絶えている。

発信元惑星の位置 及び 本信号 については現在調査中であり、現時点で以下のことが議論されている。


・理論上、本信号は光よりも速い速度で本惑星に到達しているという点

・理論上、発信元惑星は本惑星から1,000光年以上離れた場所に存在しているという点


上記事項については引き続き国際的に調査が進められ、進展があり次第ここに追記される。


以上

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