第3話 遠距離スナイパー構成。またの名をハメ殺しクソビルド
さてところ変わってここはドラファン世界、絶叫の荒野というフィールドだ。
出現するモンスターは
俺がここに来たのは名前を変えるための特殊アイテム『名入れの髑髏』の素材集めだ。ゲーム内通貨で買うことも出来るがべらぼうに高く、売りに出されることも稀なためこうして自力で作った方が早い。
このアイテムは髑髏と名がある通り死神などのアンデット系モンスターを倒すことで作ることが出来る。
アンデット系というのはかなり厄介なもので。
毒の状態異常やら瘴気エリアの生成、死神クラスなんかだと即死スキルも使ってくるため対策は非常に面倒な仕上がりになっている。
「見っけ」
砂漠の砂埃に紛れながら遠くに茶色のローブを纏ったスケルトンが見えた。
手には巨大な鎌を持っており、周囲に黒いオーラを撒き散らしている。
『土の死神』中ボスクラスのモンスター。今回の目当てだ。
俺は標的を見つけるとキャラスキルの『瞬歩』を使用して移動する。
名前に反してあまり足は早くならない。しかし音がほとんどしないので隠れながら移動するのには非常に有用なスキルだ。
キャラスキルというのは頭の中で使いたいな、と思ったら直ぐに使えるのがいい所だ。
武器に搭載されているスキル……武器スキルは格ゲーのコマンド入力よろしく入力ミスによる暴発が起こりかねない。
敵の真ん前で暴発なんて使用ものなら大変な事だ。
『瞬歩』の効果が切れる前に移動をやめて、ポイントにつく。ある程度見晴らしがよく、スキルを使わない限り簡単には登って来れないような高所。
鞄から『黙視の双眼鏡』を取り出して敵の位置を細かく探り、同時に相棒を取り出す。
『エンシェントライフル』このゲームでは珍しい超遠距離に特化した近代的な銃だ。
近代を通り越して未来的な見た目をしている古代の銃である。なんともロマンがある見た目だが、あまり人気は高くないマイナー武器のひとつだ。
死神の周りに小さいモンスターが数匹群がっているのが見えた。
中ボスクラスモンスターの周囲には大抵雑魚モンスターがまとわりついているのがセオリーだが、少し様子がおかしい。
「死神系モンスターにお供なんていたっけか」
通常、死神系モンスターはそのような雑魚の取り巻きは存在せず単独でフィールドをうろついているものだ。
よく考えれば死神の周りを彷徨くなんて危ない行動を他のモンスターたちが取るわけがないのだから当然とも言える。あとなんか出てる黒いオーラもあるし。
取り巻きのモンスターは悪魔系下位種モンスターだ。名前は忘れた。
「悪魔系だから瘴気に耐性があるとか……?いやでもそんな話聞いたことないけど」
……よし、よくわからんからとりあえず撃ってみよう。
エンシェントライフルには一つ特殊効果が存在する。
その名も『
ライフルなんて大層な名前が付いているこの武器は、ゲームの処理場は一応弓と同じ遠距離武器として扱われている。超強力で火薬を扱うクロスボウ、みたいな認識だ。
そして、この特殊効果はなんとびっくり敵に命中すれば着弾点の近くにいる全てのエンティティに強烈なノックバックを与えるというもの。
敵味方問わず、全てに対してだ。しかも常時発動。
一見そう聞くと最強のようにも聞こえるが……ボスクラスの敵にはノックバック耐性をもつモンスターも多くいる。
そういう敵相手にはこの特殊効果はただ味方を無闇矢鱈と吹き飛ばすだけの害悪武器に早変わりする。
耐性を持たないモンスター相手にはこの武器で遠距離から狙撃するだけで常時怯ませることができる。そこをハメ殺すだけの簡単なお仕事に早変わり。
なんて簡単な狩り。単調すぎてあくびが出そうになる。
だからこそ、マルチ推奨のこのゲームでソロプレイを強いられているのだが。
〜〜
これは俺がこのゲームを始めてから数ヶ月経ってこのビルドが完成してから、さらに少し経った頃の話だ。
このゲームのキャラビルドはとことん取り返しがつかない要素で満ちている。一度完成したキャラはそこから二度と変えることはできないのだ。
始めたての俺はそのことの重大さに気づかず、開始当初にたまたま入手したエンシェントライフルに相性の良さそうなスキルを優先的に取り続けていた。
当然、振り直しなんてことはできない。この頃にとったスキルの数々は今でも愛用しているものばかりだ。
そうして完成したのがエンシェントライフルの使用に特化した遠距離最強ビルド。遠距離狙撃以外ではまともな火力が出ない代償と引き換えに機動性と精密性などに全てを注ぎ込んだ至極のビルドになった。
そうしていざ完成したキャラをお披露目しようと野良パーティに参加して簡単なクエストに潜ってみたときに、事件は起こった。
俺が攻撃をするたびに何故か味方が吹き飛んでいくのだ。
引き金を引けば飛んでいく味方、ピンピンしているボスモンスター。
最初はボスの攻撃を喰らっているだけかと思ったが、途中で俺が原因だと気づいた時には時すでに遅し。受け身を取るのに失敗した野良がボスに蹂躙されたあたりで俺は野良からの視線が厳しくなって徹底的に援護に回ることに専念した。
なんとかボスを討伐した後は非難の嵐に苛まれた。
俺自身丹精込めて作ったキャラだ。愛着もあったが、そんなこと全く知らない野良パーティの面々からすると自分はただの害悪野良でしかない。
多分俺は取り返しのつかないことをしていたのだと、その時悟った。
しばらくこのゲームを起動しない日々が続いたが、あのモンスターの出現情報が飛び込んできて、俺は再びこの世界にのめり込んでいった。
このキャラ《スナイパー構成》でなければ勝てない敵がいるのだと、知らしめるために。
〜〜
引き金を引くと、取り巻きモンスターは全滅した。
しかし本体はピンピンして佇んでいる。いや、こちらに気づいた様子が見えた。
「やっぱりクソだな」
このゲームの敵は攻撃を受けると反撃行動に出てくる。その対象の取り方が些か理不尽で、どれだけ距離が離れていても場所を察知されて向かってくるのだ。
それ対策のアイテムはいくつかあるが、どれも消耗品だったり武器やアクセサリーに搭載されたスキルばかりで使い勝手があまりよろしくない。
俺の攻撃が命中した時点で死神は俺がどこから攻撃しているのかを瞬時に把握してこちらに向かってきている。
砂埃でよく見えないが……体が少し浮いているのか、ちょっとの段差があってもお構いなしで進んでいるのが見える。
引き続き二発目の攻撃を与える。
距離はおおよそ300メートル先、遮蔽物も何にもない平坦な場所だから手こずることなくそれは命中した。
死神の移動方法が少し変わった。まっすぐ走ってくるのではなく、ジグザクに進むようになった。
しかしタイミングをずらしたりもしないで規則的に曲がってくれているから予測は容易である。
もう一度狙撃をすると、今度は死神の頭に命中した。
「ゲ」
『霊土の死神/ 討伐完了』
アシストウィンドウに通知が来る。
どうやら土の死神と思っていたが変異種だったようだ。いや、そんなことどうでもいい。
俺は急いで死神が倒れた地点まで移動してドロップアイテムを探した。
欲しかったドロップアイテムは『死神の頭蓋』というアイテム。
頭蓋骨が欲しかったのに、頭を撃ち抜いてどうする。下手くそが。
「頭蓋のドロップは、なしかぁ」
俺がお目当てのドロップアイテムを入手するのは、これから三時間後の出来事である。
物欲センサーって恐ろしい。
次の更新予定
3日ごと 19:00 予定は変更される可能性があります
ド・ラ 変態ロマンビルドで攻略するVR 鳥塚 勇斗 @triduka333
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