第2話 クソビルド
「ドラファン攻略chの白木でーす!今回は驚きのニュースが飛び込んできましたよー!なんと!あの超大人気クラン『RBT《ロマンスベットタイム》』が『一瞳絶死』を攻略したとのことです!いやー彼らならいつかやると思っていましたよ、なんて……」
クソが。
このニュースを見た時の俺の一言目だった。
あいつらはこの俺から輝かしい功績を横取りしていきやがったのだ。
- 何がロマンスベットだよ 下ネタクランが!
- なんか話題になってるみたいね ドラファン屈指のクソモンスが倒されたって
- 狙ってた獲物横取りされてみろよ……今までの苦労を返してくれよ……
- 俺ドラファンやってないからわかんねーよ
パソコン越しに会話していた友人のメッセージを見て深いため息をつく。
一瞳絶死。別名を『ドラファン屈指のクソモンス』『合法チート野郎』という。
このモンスターはエンシェントシリーズを持ったPLが未来都市ザルンに侵入すると出現し、そのPL《プレイヤー》のパーティを攻撃してくるというモンスターだ。
このモンスターの発見報告と解析作業を進め始めて幾つかの報告が上がってきた。
曰く、散策していたら突然ゲームオーバーになった、だの。
曰く、変なNPCがいると思って警戒した瞬間に距離を取られて殺された、だの。
発見報告が上がってその出現方法と攻撃方法が解明されるまで一月も要した唯一のモンスターである。
高速移動をして超遠距離射撃をしていた、ただそれだけのことがわかるまで一ヶ月。
超遠距離射撃と言ってもただの狙撃ではない。問題なのはその精度と索敵範囲だ。
どれだけ離れていても確実にヘッドショットを決めてくるという、他ゲーでいうところのチーターばりの精度と、未来都市全体に広がる索敵範囲。
結果、ドラファン史上類を見ないほどのクソモンスとして一躍有名になった。
ドラファンはいわゆるファンタジーものを題材としたゲームだ。それゆえPLの攻撃も剣や魔法といったものが主流となっている。
そんな武器環境の中で、一瞳絶死はスナイパーライフルを利用したチート狙撃をしてくる。
普通のPLであればまず対策は不可能のはずなのだ。
「なんとRBTは一瞳絶死攻略のために餌となるエンシェントシリーズをかき集め、大人数で袋叩きにすることで撃破したとのこと!いやークソモンスにはクソ戦法で!目には目を、クソにはクソで、って奴ですね!」
ロマンのかけらもない戦い方だが、これが正攻法なんじゃと思うくらいには一瞳絶死はクソモンスだ。そんなこと、半年前に初挑戦した時からわかっていたことのはずだ。
「でもなぁ……」
どうせなら、俺のやり方で倒して欲しかったと思ってしまう。
俺のように真正面から正々堂々と狙撃勝負であのクソモンスは倒して欲しかった。
それをしなかったのは、彼らがこのゲームを純粋に楽しんでいる証拠なのだろうか。
どちらにせよ、俺の目標の一つはここで潰えた。
〜FIN
いや、これで終わりなんてことはない。
俺はひとしきり悲しんだのち、ドラファンにログインした。
恥を晒すような人間もいない。だって一人で勝手に挑んでいただけだから。
さっきの俺のセリフは訂正しよう。RBTの連中が勝てて俺が勝てなかった理由は明白だ。
「ソロプレイはきついな、うん」
このゲーム世界で、俺はひとりだった。
VR機器を使って、俺はドラファンのロビールームへと向かう。
丸い操作コンソールと音声アシスタントの声が頭の中に響く。
「『羅生門でカツラ作ってた婆』さん。お帰りなさいドラファンの世界へ」
誰のことだよ。いや、俺のことなのだ。
数ヶ月前に友人が家に来た時にイタズラで帰られたっきりそのままにしていた名前だ。クランやフレンドのいない自分がその悪戯に気づいたのはそれから一ヶ月ほど経った頃だった。
VRハードのアップデートでこのロビールームが追加され、開幕この名前が目と耳に飛び込んだ時の衝撃は今でも忘れないだろう。
「改名しよう。うん」
そう思ったがそのためのアイテムの収集がなかなかに面倒でいまだにそのままにしてある。
どうせ俺のキャラじゃ多人数攻略は不可能だ。
~~
ドラファンは真に異世界転移物のような現実を追体験できるゲームである。
ドラファンの世界でまったく新しい自分の人生を始めるが如く、このゲームはできている。
キャラのステータス、レベリング、装備や遊び方に至るまでが本当に自由で不自由に作られているのだ。
特に顕著に出てくるのがステータスとスキルに関するものだろう。
キャラのステータスはレベルが上昇した時に、それまでに得ていた経験値によって自動的に振り分けられる。
従来のRPGと違うのはその習得する経験値のシステムにこそある。既存の経験値システムは敵を倒したり、なにかアクションを起こすと実数値で加算されていくが、ドラファンにおいてはそれがとてつもなく細分化されている。
弓で敵を倒したり、するとそれに応じた遠距離適正の経験値が。逆に剣でなぎ倒せば近距離の経験値が加算され、それらを合算してステータスの上昇値が計算される。
そのシステムは現状大雑把にしか解析されておらず、プレイヤーが意図的に特定のステータスだけをあげることは不可能に近い。
正しく現実世界での成長と似たシステムだ。
そしてそれを巻き戻したりすることもできないのが非常に現実味あるところ。
学生時代勉学にのみ力を入れ続けたものが、大人になってからスポーツに手を出してもプロにはなれない。
ドラファン世界においてのステータスも同じように新しく振り直したり、一からやり直すことはできないように設定されている。
ステータスに応じて入手出来るキャラクタースキルもまた同じように振り直しができない。
賛否別れるシステムだが、俺は悪くないと感じる派だ。
このゲームで必要とされるのはキャラのステータスよりも武器の扱い方や立ち回り、体の動かし方だ。RPGというより格ゲーなんかのそれに近い。
ステータス配分なんかもあまり極端になりすぎないように上手いこと調整されているし、普通にレベル上げしてきたプレイヤーならある程度まで気軽に遊べるキャラビルドが完成するらしい。
だがまぁ、何事にも例外というものはあるもので。
不可能に近い条件を偶然にも突破し、レベル上げの過程で極端すぎるスキル構成を選んでしまった……よく言えば一芸に秀でたビルドというものがある。
このゲームでの一般名称は『クソビルド』
もう二度と後戻り出来ないこのゲームでそんなキャラクターを作ってしまった人間の末路というものは、果てしなく暗いものだった。
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