福井と繊維

スエテナター

福井と繊維

 福井県というものは、とても地味な県です。

 近頃では恐竜で有名になり、今年は新幹線開業や大河ドラマの影響でクローズアップされていることもありますが、『福井県ってどこ?』と思われる方もたくさんいらっしゃると思うのです。



 そんな福井で有名な産業といえばやはり鯖江の眼鏡でしょう。

 ですが、福井は繊維業の盛んな県でもあります。

 繊維製品品質管理士の試験会場もあるくらい、福井にとっては重要な産業です。



 2024年6月8日、NHKのプロジェクトXで、その福井の繊維製品が紹介されました。

 心臓病を患った幼いお子さんに使う、心臓パッチです。

 この心臓パッチというのは、幼いお子さんに使うと、成長に伴ってサイズが合わなくなってくるので再手術が必要なのだそうです。

 今回紹介されたのは、お子さんの成長と共に伸びるパッチで、このパッチを使うと再手術の回数が減らせるそうなのです。



 心臓に使う製品を開発することにはリスクが伴います。

 番組では、そんな難しい中での挑戦が描かれていました。



 私自身も福井の地で長く繊維業に従事していて、今回の番組をとても楽しみにしていました。

(私は今回取り上げられた企業の従業員ではありません)

 糸の素材や編み方を変えることでパッチを伸ばすことに成功した経緯、そのパッチから血が漏れ出さないよう、大手企業を巻き込んでの研究開発。心臓病を患ったお子さんに対する臨床試験。

 多くの人の熱意と力が結集し、命を救う一つの製品が開発される過程に、私も胸が熱くなりました。



 番組内ではコロナ禍による同業他社の倒産にも触れていましたが、コロナ禍がなくても繊維業は縮小の一途を辿っていたでしょう。

 人口減少によって日本の市場自体も縮小していますし、自然な流れです。

 ですが、業界の縮小が進めば今回のような意義ある挑戦をした企業にまで、ゆくゆくは影響が出てしまうかもしれません。



 病のために幼くしてなくなる命もある中、私は元気に生きていて、大人になり、今は繊維業に従事しています。

 長い時間を掛けて磨いてきた技術が、いつか誰かを救う一助になるかもしれません。

 福井に灯った繊維の灯火を守る存在に、私もなりたい。

 そう思いました。



 心臓パッチのような命を救う製品には関わっていなくても、福井の繊維はきっと誰かの未来に寄り添います。

 今後も繊維業界を取り巻く環境は厳しさを増していくことと思いますが、少しでも長く福井の繊維が世界中に届くよう、願ってやみません。




 ちなみに……



 今朝、その企業さんのCMをふと目にしまして……。

 ペンギンのキャラクターが手術台に乗って手術を受けた後、元気になってお父さんお母さんにぎゅっと抱かれる、そんなCMなのですが……。

 すっかり見慣れたと思っていたのに、昨日の番組を見た後だと涙腺が緩んでしまいます。

 今回のパッチ開発が成功して、本当によかったなと思います。

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