娘がいない!

口羽龍

娘がいない!

 弘子(ひろこ)は悩んでいた。娘の一惠(かずえ)が帰ってこないのだ。すでに小学校は終わっている。もう帰ってきてもおかしくない時間だ。いつもまっすぐ帰ってくるはずなのに。徐々に弘子は不安になってきた。何か、変な事件に巻き込まれたのでは?


「一惠、どうしたのかな? 帰らないけど」

「本当だな。何かあったのでは?」


 悩んでいるのは、弘子だけではなかった。夫の友也(ともや)もだ。一惠は可愛い1人娘なのに、どうしたんだろう。


「捜索願を出そうよ」

「そうだね」


 弘子は混乱し始め、リビングを立ってウロウロし始めた。その様子を、友也は不安そうに見ている。


「あーどうしよう、嫌な事に巻き込まれていたら」

「不安だね」


 ふと、弘子は思った。ここ最近、不審者の目撃情報が絶えない。まさか、不審者に連れ去られたのでは? だとすると、いち早く警察に言わないと。


「死んでほしくない」

「そんは嫌な事言わないようにしようよ。絶対に帰ってくると信じようよ」


 だが、友也は信じていた。一惠は絶対に帰ってくるはずだ。約束は守る子だ。


「うん・・・」

「何はともあれ、捜索願を」

「うん!」


 弘子は電話で、一惠の創作届を出した。友也は電話をかける弘子をじっと見ている。どうか、すぐに見つかりますように。


「一惠・・・」


 友也は両手を握り、一惠が帰ってくる事を願っていた。




 その頃、一惠は車の中にいた。だが、その車は友也の車ではなく、知らない男の車だ。その車は、黒い高級セダンだ。


「どこに行くんだろう・・・」


 一惠は不安になった。どこに行くんだろう。駅までの道を教えてほしいと言われたので、案内しているだけだが、本当にそうだろうかと思った。この男は、私を連れ去ろうとしているのでは?


「どこに行くの?」

「だから、駅だよ。見つけたら、家に帰してやるから」


 一惠は男に聞いた。だが、男は駅に向かっているというだけだ。本当は住む気じゃないのに。絶対におかしい。まさか、わざと間違えているのでは?


「だけど・・・」

「絶対に帰してやるから、安心しろ! 俺は悪い奴じゃないから」


 男は優しそうな口調だ。それを聞くと、大丈夫だと思える。だが、違う方向に向かっていると考えると、本当にそうだろうかと思える。


「うーん・・・」

「ぐずぐず言うな!」


 突然、男が強い口調になった。今まで優しい表情だったのに。こんなに怖い顔は初めてだ。


「ごめんなさい・・・」


 一惠は下を向いた。こんなに怖い表情の人を見ると、思わず下を向いてしまう。




 それは10分ぐらい前の事だった。いつものように一惠は学校を終え、家に帰ろうとした。家に帰ったら、いつものように勉強だ。もうすぐ算数のテストがある。それまでにしっかりと勉強をしないと。


「じゃあね、バイバイ」

「バイバイ」


 一惠はいつものように同級生の山井(やまい)と別れた。何でもない、いつもの帰り道だ。早く帰らないと、母が心配するだろう。


「今日も帰って勉強しよっと」


 と、そこに1人の男がいる。男はサングラスを付けている。男は迷っているようだ。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、添山(そえやま)駅はどこかな?」


 添山駅は小学校の最寄りの駅だ。一惠はよく使っていて、その場所を知っている。


「あっち・・・」


 だが、男は首をかしげた。口頭だけではわからないようだ。


「うーん、そう聞かれてもわからないな。ちょっと、連れてってよ」

「い、いいけど。お母さんが心配するから」


 一惠は不安になった。知らない人についていっちゃダメだと言われていた。本当にいいんだろうか? 一惠は戸惑っていた。


「大丈夫大丈夫。帰してやるから・・・」

「・・・、わかった・・・」


 帰してやるからの一言で、一惠はその男についていく事にした。




 一惠は悩んでいた。きっと両親は心配しているだろう。早く帰らないと。きっと心配しているだろう。


「うーん・・・」

「どうした?」


 男は一惠の表情が気になった。どうしたんだろう。


「何でもないです」

「そっか」


 車は交差点に差し掛かった。目の前は赤信号だ。しばらく待たなければ。早く行って、この子を家に入れないと。きっと警察が探しているだろう。


「はぁ・・・」


 男は下を向いた。ここの信号の赤信号は長い。早く変わらないだろうか?


 男は再び上を向いた。だが、助手席に一惠がいない。どこに行ったんだろう。男は首をかしげた。


「あれっ!? どこに行ったんだろう」


 その時、目の前に青い龍が現れた。その青い龍は優雅に空を舞っている。男は思わず見とれてしまった。


 突然、青い龍は急降下して、男の車にぶつかった。青い龍は強くて、車のボンネットがへこんだ。


「うわっ・・・。えっ、青い龍?」

「ガオー!」


 青い龍は雄たけびを上げた。そして、男の車をボコボコにして、動けないようにした。男はパニックになった。どうして青い龍が現れたのか?


「や、やめて!」


 すると、青い龍は目の前から消えた。青い龍はどこに行ったんだろう。


「何とか逃げられた・・・」


 一惠は車から逃げていた。早く家に帰らないと。親が心配しているだろうから。


「あっ、君、坂根一惠ちゃん?」


 突然、誰かから声をかけられた。一惠が振り向くと、そこには警察がいる。


「そ、そうだけど・・・」

「あーよかった。お父さんお母さんが心配してたよ」


 警察はほっとした。一惠を見つけた。きっと両親も喜ぶだろう。


「ごめんなさい、知らない男についてっちゃった・・・」

「いいんだよ。知らない人には気を付けようね」


 警察は一惠の頭を撫でた。一惠は嬉しくなった。その反面、知らない男には注意しようという教訓を得た。


「はい! あっ、そうだ。あの男の人、あそこにいた」


 と、一惠は思い出した。自分を連れ去った男があそこにいるはずだ。捕まえてほしいな。


「えっ、本当?」

「うん」


 2人は交差点に向かった。するとそこには、大破して動けないベンツがある。そのベンツを見て、警察は何かを感じた。ここ最近、この辺りで見かける不審者の車にそっくりだ。まさか、その男がこの中にいるのでは?


 と、一惠は指をさした。その先には、腕が見えている。その男が犯人だろうか?


「あそこ!」

「あっ、こいつ!」


 と、車の中から男が現れた。男は警察を見て、まさか警察が来たとはと思った。


「警察だ!」

「えっ、どうして?」


 男は逃げようとした。だが、警察が捕まえた。


「逮捕する!」

「えっ、龍は? 青い龍は?」


 男は戸惑っている。青い龍に襲われた。でも、その青い龍って、どこに行ったんだろうか?


「どうした?」

「青い龍に襲われたんだけど・・・」


 と、そこに一惠がやって来た。一惠は自信気な表情だ。今さっきの弱気な表情が嘘のようだ。


「ふーん、その青い龍って、こんなの?」


 一惠は煙に包まれ、青い龍になった。今さっきの青い龍って、あいつだったのか。まさか、こんな展開になるとは。


「うわっ・・・」


 男は腰を抜かした。だが、警察は腰を抜かさない。まるで慣れているかのようだ。


「さぁ、行くぞ!」

「えへへ・・・」


 人間の姿に戻って一惠は、笑みを浮かべてその様子を見ている。男は呆然とした表情で、一惠を見つめている。警察は迷うことなく、男を連行していった。

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