告白に振り向いてくれたキミと、恐怖に溺れるボク
嘘宮ヨフカシ
告白に振り向いてくれたキミと、恐怖に溺れるボク
この僕、柴谷大地には今好きな人がいる。松山麗美と言う女性だ。
8月31日。まだ暑さも残る土曜日の今日、僕は告白する。
その下で告白をすれば必ずその恋は叶うという、大きな松が学校の上の丘にある。
大きな松の元にラブレターで彼女を呼び、告白するのだ。
その日は快晴で、雲一つなくもう9月近いと言うのに蝉が活発に鳴いていた。
蝉の合唱を聞きながら階段を上り、丘の上に行くと――いた。
制服姿の桑山さんがそこにいた。
松の方向に顔を向けており、前方こそ全く見えなかったが――あの特徴的なポニーテールを見間違えるはずもない。
「松山さん!」
「おはよう。柴谷くん」
声も同じだ。間違いない。
「あの――僕! 桑山さんが好きです!」
「あら嬉しい。好きなんて久しぶりに言われたわ。天気が良いのはあの子たちにとって悪いけれど、私にとって幸福的でもあるわね」
「あの、では!」
「いいわよ。連れて行ってあげる。カラスが少し回っているけど、枝は折れていないかしら? それともこれは祝福?」
「本当!? じゃあ――ん? あれ? 松山さん?」
なにか少し様子が変だ。
さっきから微妙に意味の通じない日本語を会話に入れているし、口調もいつもと違う。
なによりさっきから顔を松に向け続けていて、僕に顔を見せてくれない。
「どうしたの?」
「なんかいつもと違う様子だけど一体――」
「あらそう? そうでもないと思うけれど、少なくとも蜂の襲撃よりはそれらしいと思うけれど」
「僕あまり詳しくないから知らないけど、もしかしてそんな詞でもあるの?」
「まあ詞なのかもね、私が生きていたことを全て考えてみれば」
「それにさっきから僕に顔を見せてくれないし。僕、君の顔を見たいんだけど――あれちょっとごめん。電話」
スマートフォンがピコンピコンと鳴っている。LINEの音だ。
僕はスマートフォンを取り出す。
親友の正助からだ。既読無視をしようと思ったが――その内容に体が止まってしまった。
『おまえ、クラスLINEでラブレター晒されているぞ』
そんな馬鹿な。僕は最初にそう思った。さっき僕の告白に松山さんはOKを出してくれた。
正助はすぐに画像を上げてくれた。紛れもなく、僕が書いたラブレターだった。
『お前・・・・・・そう気を落とすな。どんなことがあっても俺たちは友達だ!』
そんなこといわれても――落ち込むなと言うほうが無理だ。
「松山さん! もしかして僕を!」
言いかけた瞬間、LINEがまたピコンと鳴った。
『それにしても松山ちゃんも嫌な奴だよな。こんな純情な奴を晒すだけ晒して、自分は遠くの別荘に行っているんだからな』
え? そんな馬鹿な。この前話していたけれど、松山さんの家の別荘は隣の県だ。
山奥で往復3時間はかかるはず――。
正助はまたもやすぐに写真を上げてくれた。
別荘でお姉さんと一緒にオセロを楽しんでいる松山さんがそこにはいた。
しかもその画像には電子時計も写っていた。
時刻は13時。日付は8月31日。さっき取ったばかりの写真だ。
おそるおそる前を見る。
確かに松山さん――もうあまり松山さんだとは思えなかったが――がそこにいた。
「君は、一体――」
「私は私だよ? あなたが好きだと言ってくれた、私」
蝉が一心不乱に鳴いている。そのさざめきが、僕には一種の断末魔のように聞こえた。
ああ、早くドッキリ大成功と言ってくれ。散々に馬鹿にして、あの写真は加工をしたものだと言ってくれ。正助も早く、茂みから現れて僕を裏切ったと告白してくれ。
僕の体が指1つ動かなくなっているのも、なにか、僕には想像もできない特別なな仕掛けか、それでなければ僕が勝手に錯覚をおこし、動けないだけだと言ってくれ。
そうでなければ――どうすればいいと言うのだ。
「さっき私の顔を見たいってさっき言っていたよね」
燦々と輝く太陽の光が僕を照らした。長い影が伸びる。
彼女に影はない。
「見せてあげる」
いやだ。見たくなんかない。振り向かないでくれ。
声にも出せない、告白もできないそんな願いは叶うはずもなかった。
ついに彼女は振り向いた。
――ああ、なんて――
蝉の鳴く音だけが、空に、丘に、こだました。
告白に振り向いてくれたキミと、恐怖に溺れるボク 嘘宮ヨフカシ @hirunoyohukasi
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