337.これからも働きます!
冒険者ギルドが開く直前に到着した。やっぱり朝は求職者たちでごった返していて、扉の前は賑やかだ。今日はちょっと遅れたから、クエストボードの位置取りは難しそうだ。
大勢の人の中で待っていると、ようやく冒険者ギルドの扉が開いた。
「冒険者ギルド、開始します!」
その声が響くと、前にいた求職者たちは動き出した。その動きに遅れないように私も流れに乗る。そして、真っすぐとクエストボードのところへ行き、仕事を探し始める。
私は興味があるのは魔道具の仕事。魔道具の仕事はやったことがなかったし、どんな風に作られているか気になっている。それに、自分で便利な魔道具を作れるようになるのもいいかもしれない。
そんな考えでクエストボードを確認していった。
◇
結果的に魔道具の仕事はなかった。魔道具を売る方の仕事はあったけど、作る方がなかった。魔道具を作る仕事の募集……あるとすれば弟子の募集とかかな? うーん、弟子かぁ。
魔道具の仕事をやりたかったのなら、直接職人さんの所に行って聞いたほうが早そうかも。でも、いきなり行っても断られるだろうなぁ。こういう時、伝手があればいいんだけど……。
待合席で一人難しい顔をして考える。
「どうしたんだ、そんな顔をして」
その時、ヒルデさんの声がした。顔を上げると、目の前には苦笑いして立っているヒルデさんがいた。
「ちょっと、考え事をしていたんです」
「考え事? かなり難しいことなのか?」
「うーん、難しいと言えば難しいですね」
そう言いながらヒルデさんは席に着いた。そして、面白そうだという顔で聞いてくる。
「それで? 何を考えていたんだ?」
「魔道具の仕事に興味がありまして、その仕事ができないか考えてました。クエストボードで仕事を見つけるより、職人さんのところへ直接行った方が良い気がしてます。でも、そのための伝手がどこかにないかなっと……」
「また、新しい仕事を始める気が? リルの仕事への興味は尽きないな」
色々な魔道具を買ったせいで、魔道具に興味がいったのだから仕方がない。便利なものがあると、もっと便利にしたくなる。自分の欲しい魔道具を作れるようになれば、どれだけ生活が豊かになるんだろう。
「その様子だと、クエストボードにはなかったみたいだな」
「はい、残念ですが。だから伝手があれば、それを頼ろうと思ったのですが……その伝手がないんですよねぇ」
「リルにも未開拓の仕事があったという証拠だな。伝手がなければ、クエストボードに貼られるのを待つしかないな」
ということは、この興味を持ったまま他の仕事をすることになるのか。ちょっと、もどかしい気持ちでスッキリしないなぁ。
難しい顔をしていると、正面に座ったヒルデさんが笑った。
「仕方のない奴だな。おっ、他のみんなが来たみたいだ」
ヒルデさんが手を振った方向を見てみるとそこにはハリスさん、サラさん、ラミードさん、タクトくん、オルトーさんまでいた。
「ハリスさんとサラさんだけかと思ってました。他の三人はどうしてここへ?」
「よぉ、邪魔するぜ。何、この間のパーティーで今日からリルが働きに出るって聞いたんでな、俺たちも勧誘しにきたんだよ」
「俺たち?」
「なぜか僕まで一緒にさせられたんだよね。しかも、パーティーを組むなんて……僕は一人のほうが面倒ごとがなくていいと思っているんだけどね」
ラミードさんとタクトくんがパーティーを組む? そういえば、ラミードさんがタクト君の面倒を見ているようなことを言ってたっけ。その延長でパーティーを組む話になったのかな?
それに私を勧誘って……私がラミードさんとタクトくんのパーティーに入るってこと? でも、私はハリスさんとサラさんとパーティーを組んでいるわけだし。でもでも、ヒルデさんとの冒険も……あっ。
「それで、オルトーさんはどうしてここへ?」
「私も同じ理由だよ。リルがとうとう働きに出るって聞いたんで、私の仕事を手伝ってくれないかなって思ったんだ。ようやく、長い仕事から解放されたわけだし、ここは腰を据えて錬金術のやり方を……ごほん、錬金術の手伝いをしてくれないか?」
オルトーさんも私を勧誘してきたってこと? オルトーさんの仕事は大量注文から難しい調合の依頼まで色んな仕事が舞い込んでくる。それを一人でやるのは大変なのは分かる。新しい人じゃダメなのかな?
私が度重なる勧誘に戸惑っていると、苦笑いをしたハリスさんとサラさんが口を開く。
「まさか、リルがここまで人気だとは思わなかった。でも、俺たちは諦めないぞ。リル、ビスモーク山でBランクの魔物討伐をやろうじゃないか」
「私たちは沢山戦ってきたが、まだやりようがある。今以上にもっと鍛えて、強くなろう。目指せ、Aランクだ」
二人と組んで何か月も戦ったビスモーク山。沢山戦ったが、確かにまだやりようがあった。連係をもっと上手くしたり、個々の力を高めたり。この二人と組めば、もっと強くなりそうな気がする。
「おいおい、私を忘れてはないか? 約束しただろう、一緒に冒険に行くって。だから、まずは私と一緒に冒険にでよう。手始めにドラゴン討伐でも行くか」
ヒルデさんとの冒険はいつも近場で終わっていた。でも、体が治った今だったらどこへでも行ける。だからって、ドラゴン討伐はちょっと敵が強すぎませんか?
みんなからの勧誘を受けて、私は悩んだ。こんなに沢山の誘いを受けるのは初めてだから、すごく戸惑う。難しい顔をして考えていると、また人が近づいてきた。
「話は聞かせてもらったわ」
「やっぱり、ここにいたんだな」
「アーシアさんにセロさん。」
現れたのはギルド職員のアーシアさんと執事見習いのセロさんだ。アーシアさんは何通かの手紙をテーブルの上に置き、セロさんは分厚い本を何冊かテーブルに置いた。
「その話、見過ごせないわ。冒険者ギルドとしても優秀な人を手放せない。リルちゃんにまた仕事をして欲しいっていう依頼が沢山来ているわ」
町の中で色々な仕事をしてきたけど、また働いて欲しいって考えてくれる人がいるなんて。しかも、こんなに手紙が……ってこれ全部依頼なの?
「領主様から言伝だ。官吏になるための資料が揃ったので贈らせてもらう、とのことだ。これがそれに必要な参考書と言ったところだ。リルには是非官吏の道を進んで欲しいと願っているみたいだぞ」
この本は参考書だったんだ。って、いつの間にか私は官吏の道に進むことになっているんですけど……私一言もそんなこと言ってないのに。でも、トリスタン様には恩義があるし……期待してもらえるのが正直いって嬉しいって思うところもある。
「いやはや、参ったな。リルにこれだけの人が集まるとは思わなかった」
「僕はいいよ。パーティーなんて面倒だし」
「なんだよ、リルだったらいいって言ってたじゃねぇか」
ヒルデさんが頭をかいて困っていると、タクトくんがこの場を離れようとした。だけど、ラミードさんが捕まえて離さない。
「それで、リルはどうするんだ?」
「もちろん、私たちと行くよな?」
「いいや、リルにはぜひ錬金術の道を」
ハリスさんとサラさんが身を乗り出して聞いてくると、その間にオルトーさんが割って入る。
「リルちゃん、冒険者ギルドの仕事……受けてくれると助かるんだけどなぁ」
「領主さまがもし勉強に集中するんだったら、しばらく援助するっていってたぞ。というか、屋敷で生活してもいいとさえ言っていた。だから、勉強をしている間は働く必要はないぞ」
アーシアさんが手を合わせて、目を潤ませてお願いしてくる。その隣ではセロさんが魅力的な提案をしてくる。
みんなの視線が私に集まる。色んな誘いが舞い込んできて、本当に悩む。どれを選択しても、やりごたえはある。だから、どれか一つを選ぶなんてできない。
「決めました」
私はテーブルに手をついて立ち上がった。みんなを見渡した後、私は思いを伝える。
「全部やってみせます。私に任せてください!」
これからも私は全力で働いていく。いつもそうしてきたように、これからの私も変わらない。目の前のことを一つずつクリアしていこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ご愛読ありがとうございました!
現在コミカライズ企画が始動中ですので、近い内にお知らせができると思います。
詳しい情報が出せるようになりましたら近状ノートで報告させていただきますので、そちらの情報を追っていただけると幸いです。
本編はここで終了しましたが、その後のリルの後日談は需要があるでしょうか?
もし需要がありそうなら、その後を執筆しようと思っています。
「続きが読みたい!」と思ってくださったら、ハート(応援)ボタンなどを押してくださると嬉しいです。
転生難民少女は市民権を0から目指して働きます! 鳥助 @torisuke0829
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